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zoom RSS インドにおける細石刃の出現年代の見直しと現生人類の拡散

<<   作成日時 : 2014/02/28 00:00   >>

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 取り上げるのが遅れましたが、インドにおける細石刃技術の年代の見直しから、インドへの現生人類拡散の様相は他地域のそれと異なっていた、という可能性を指摘した研究(Mishra et al., 2013)が公表されました。インドにおいて細石刃技術は35000年前以降に始まり、鉄器時代の始まる3000年前まで継続的に存在していた、とされます。インドの細石刃技術の担い手は現生人類(ホモ=サピエンス)のみと考えられています。

 この研究は、インドにおける細石刃技術の年代を、放射性炭素年代測定法と光学的年代測定法との組み合わせで見直し、インドにおいて細石刃の出現は45000年以上前までさかのぼる、としています。インド中央(正確には、北緯22度13分44秒・東経76度1分36秒)のメータクヘリ(Mehtakheri)遺跡で発見された細石刃と同層の有機物の放射性炭素年代は、一つは46555年以上前、もう一つは34380±991年前であり、他の遺跡の細石刃では、更新世の29975±997年前のものや、鉄器時代に近い3548±139年前のものもあります(いずれも較正年代)。

 インドでは、細石刃の出現よりも前に石刃技術が確認されていません。また、インドで細石刃技術が出現する前の海洋酸素同位体ステージ(MIS)5の時期のインドの石器文化は中部旧石器であり、その前のインドのアシューリアンと明確に継続している、というのがこの研究の認識です。そのため、インドの細石刃技術は外来集団がもたらしたものであり、インドにおける細石刃技術の出現は人類集団の変化、つまり現生人類のインドへの初めての進出を意味している、というのがこの研究の見解です。

 この研究は他の研究を引用し、インドよりも早くMIS5の段階で、レヴァント・アラビア半島・東南アジア・東アジア南部に現生人類が進出していた、との見解を提示しています。このことから、東南アジアへの早期の現生人類の拡散は南方系路によるものではなく、中東・中央および東ユーラシアを通った北側経路ではないか、とこの研究では提案されています。この研究が提示する現生人類拡散の仮説は以下の通りです。なお、海洋酸素同位体ステージ(MIS)では、奇数番号が温暖な時期、偶数番号が寒冷な時期を意味し、数字が小さくなるにつれて年代が新しくなります。

MIS6
 エレクトスを共通祖先とする人類集団が広く拡散しており、アフリカでは現生人類と「古代人」、ヨーロッパではネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)、東ユーラシアではデニソワ人、インドとスンダランドではアフリカとは異なる「古代人」へと分化しました。

MIS5
 現生人類がユーラシアへと拡散し、ネアンデルタール人・デニソワ人と競合します。現生人類はインドの「古代人」との競合のためインドへと拡散できず、この時期に東南アジアへと達した現生人類は、中東・中央および東ユーラシアという北側経路を通りました。この時期にユーラシアへと拡散した人類は、ネアンデルタール人・デニソワ人と交雑したようです。また、海水面の上昇にともない、スンダランドからインドへ「古代人」が退避した可能性が考えられます。

MIS4
 ネアンデルタール人は中央アジアやレヴァント・イランなどの中東へと拡散しました。ネアンデルタール人の進出はデニソワ人との競合を伴ったかもしれません。アフリカ北部やアラビアの砂漠地帯には人類がいなくなりました。現生人類はインドの「古代人」との激しい競合のすえインドに進出し、細石刃技術をもたらしました。インドの細石刃技術の起源は、アフリカ南部のハウイソンズプールト文化にあったのかもしれません。

MIS3
 現生人類はインドから隣接地域に拡散しました。インドは現生人類拡散の重要な根拠地となりました。東南アジアおよびアフリカの一部の現生人類集団もまた、この時期に拡大したかもしれません。この時期に最後の「古代人」が絶滅しました。

 この研究は以上のような現生人類拡散の見通しを提示し、現生人類の拡散にあたっては、競合相手となる「古代人」と現生人類との環境への適応の在り様が重要な意味を持っていたのではないか、と指摘します。熱帯環境に適応したアフリカ起源の現生人類は、熱帯環境よりも寒冷な環境に適応していたネアンデルタール人やデニソワ人の存在していた地域に、温暖な時期に進出しました。しかしインドでは、「古代人」はアフリカ起源の現生人類と同じく熱帯環境に適応していたので、現生人類のインドへの進出は温暖な時期には成功せず、寒冷な時期に成功した、というわけです。

 この研究では明示されていませんが、この見解の前提として、技術・社会組織などで現生人類はネアンデルタール人などの「古代人」にたいして優位に立っていた、という認識があるように思われます。「古代人」は現生人類にたいして、自分の適応した環境では互角以上に競えるというか、侵入を阻むことはできるものの、(「古代人」にとって)環境が悪化すると、技術・社会組織などで優位に立っていた現生人類に対抗できなかった、ということなのでしょう。

 以上、ざっとこの研究について見てきました。もちろん、読んで損をしたとはまったく思っていませんが、正直なところ、この研究の提示した仮説には疑問が多々残ります。インドの細石刃の年代の見直しについては、私にはその是非を詳しく・的確に論じるだけの見識はとてもありませんが、おそらく大きな問題はないのでしょう。しかし、この年代の見直しが妥当だとしても、その後に提示された現生人類拡散の仮説には、色々と問題があるように思います。

 まず一般論として、特定の石器技術と特定の人類種(系統)を結びつけることには慎重でなくてはならない、ということが挙げられます。インドの細石刃技術の担い手は、この研究も前提としているように、おそらく現生人類のみなのでしょう。しかし、その前のインドの中部旧石器文化の担い手については、全てが現生人類ではない「古代人」なのかというと、疑問の残るところです。

 この研究では、インドの中部旧石器は、その前のアシューリアンとの連続性が明確だとして、その担い手として「古代人」を想定しています。しかし、その連続性が自明なのかということや、インドに進出してきた現生人類が在来技術を採用した可能性について、検証してもよいのではないか、と思います。じっさい、アフリカの中期石器文化との類似性を根拠に、74000年前頃のトバ大噴火の前よりインドに現生人類が進出していた、とする見解も提示されており(関連記事)、インドにおける現生人類出現の考古学的指標を細石刃技術と考えてよいのか、判断の難しいところだと思います。また、そもそもインド全体のMIS5以前の考古学的状況がどの程度判明しているのか、という疑問も残ります。

 次に、インドの環境を熱帯と把握し、インドの「古代人」もアフリカ起源の現生人類も熱帯環境に適応していた、との認識についてです。インドの環境は多様であり(関連記事)、現生人類がインドに進出するにあたって競合相手となった「古代人」が熱帯環境に適応していたのか、自明ではないようにと思います。また、そもそもインドにおいて「古代人」が全域に存在していたのか、現生人類の進出が阻まれるほどの人口密度だったのか、という疑問も残ります。

 この研究では、MIS5の段階で、レヴァント・アラビア半島・東南アジア・東アジア南部に現生人類が進出していた、との見解が提示されています。しかし、レヴァントについては現生人類の人骨が発見されているので確実だとしても、他の地域については、確証が得られていない、というのが現状でしょう(関連記事)。南アジア以外のユーラシアへの現生人類の推定進出時期には、まだ不確定要素が多いと思います。

 MIS5の段階でアラビア半島・東南アジア・東アジア南部に現生人類が進出していた可能性は高い、と私も考えていますが、現時点では、それを前提として現生人類の拡散や現生人類と「古代人」との競合およびその環境との関係を論じることには慎重でなければならないでしょう。また、「古代人」を論じているのに、更新世フローレス人(ホモ=フロレシエンシス)について言及していないことも気になります。この研究の仮説には色々と疑問が残りますが、インドの細石刃技術の出現年代の見直しなど、重要な成果が提示されていることは間違いないでしょう。


参考文献:
Mishra S, Chauhan N, Singhvi AK (2013) Continuity of Microblade Technology in the Indian Subcontinent Since 45 ka: Implications for the Dispersal of Modern Humans. PLoS ONE 8(7): e69280.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0069280

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ブログに引用させていただきました。
トラックバックが分からないのでコメントで失礼します。
ありがとうございました。
http://zaru3386.blog.fc2.com/blog-entry-382.html
ざる
2014/03/01 06:41
わざわざご丁寧にありがとうございました。
劉公嗣(管理人)
2014/03/01 11:37

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