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zoom RSS ハビリスの発表から50年間のホモ属の起源をめぐる議論

<<   作成日時 : 2014/04/05 00:07   >>

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 ホモ(もしくはアウストラロピテクス)=ハビリスが『ネイチャー』で発表されてから50年が経過し、それ以降のホモ属の起源をめぐる議論とその混乱についてのバーナード=ウッド氏の解説(Wood., 2014B)が公表されました。碩学のウッド氏が、ハビリスの発表から50年間のホモ属の起源をめぐる議論について、私見を交えつつ簡潔に解説しています。属の分類からして異論があるように、ハビリスの位置づけが確定したとはとても言い難いのが現状です。

 ウッド氏はまず、1964年のハビリスの発表の意義を指摘します。これにより、最初のホモ属の探索の舞台がアジアからアフリカへと移った、というわけです。ハビリスが発表される少し前の1960年の時点では、ホモ=エレクトスはアジアでのみ発見されていました。次に、ハビリスの発表が人類の進化をめぐる議論を混迷させる転機になったことが指摘されています。1960年の時点では、人類進化の見通しはその後よりもずっと単純明快だった、というわけです。そうした理解では、アウストラロピテクス属がより身長の高くて脳の大きいアジアの人類ホモ=エレクトスに取って替わられ、エレクトスはヨーロッパへ進出してネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)に、さらにネアンデルタール人は現生人類(ホモ=サピエンス)に進化した、とされていました。

 このような状況において、アフリカで多大な発掘・研究成果を残したのがリーキー一家であり、それは今でも続いています。タンザニアのオルドヴァイ渓谷で原始的な礫石器(チョッピングツール)が発見されると、ルイス=リーキー氏はそれが最古の石器だと考え、その作り手はホモ属であり、アウストラロピテクス属と同様、ホモ属もアフリカに起源がある、と推測しました。リーキー夫妻は1955年に2つの乳歯を発見しましたが、永久歯と比較すると分類は困難でした。

 リーキー夫妻にとって一つの転機となったのは、1959年のジンジャトロプス=ボイセイ(現在ではパラントロプス=ボイセイと呼ばれており、頑丈型と呼ばれる初期人類です)の発見でした。この若い成体の頭蓋は、小さい脳・大きな顔面・小さな犬歯・巨大な咀嚼歯を併せ持つ奇妙なもので、エレクトスにはまったく似ておらず、研究者たちを戸惑わせました。この発見のさいには、ルイス=リーキー氏はホモ属の定義を拡大しようとはせず、新たな属と種ジンジャトロプス=ボイセイを提示しました。

 この大発見の直後の1960年、リーキー夫妻の長男ヨハンサン=リーキー氏は若年の人類の下顎と頭頂部を発見しました。それは明らかジンジャトロプス=ボイセイと同じ種ではなく、リーキー一家はこの人類こそ真の道具製作者ではないか、と考えるようになります。この若年の人類骨と共に成人の骨も発見され、その3年後には上顎・下顎を伴う頭蓋も発見されましたが、歯の保存状態は良かったものの、骨は断片的でした。研究チームの判断は、若年の人類の手の骨は現生人類のものと似ている、というものであり、足についても同様の結論が得られました。上顎・下顎の咀嚼歯の長い歯冠と巨大な脳からは、その当時知られていたアフリカ南部のアウストラロピテクス属には分類されない、との結論が得られました。

 リーキー氏たちの研究チームはこの人骨群を「器用な人」と呼び、1964年4月の『ネイチャー』論文で、ホモ属に分類してホモ=ハビリスと命名しました。そこでは、直立姿勢・二足歩行・石器を製作する器用さというホモ属の重要な3つの定義を満たす、と主張されていました。ただ、ハビリスの脳は容量が約600ccと小さかったため、リーキーたちはホモ属の脳サイズの基準を緩和しなければなりませんでした。そのこともあって、リーキーたちの提案は懐疑的に受け止められました。

 たとえば、ハビリスと分類された化石は新種というにはあまりにもアウストラロピテクス=アフリカヌスに似ている、と考える研究者もいました。また、当時アウストラロピテクス属研究の第一人者だったジョン=ロビンソン氏は、ハビリスは早期アフリカヌスと後期エレクトスの混合だ、と示唆しました。しかしその後、オルドヴァイ最下層からの断片的な頭蓋が発見され、ロビンソン氏が示唆した疑惑は退けられました。他の研究者たちは、ハビリスが新しい種だという見解は受け入れましたが、ハビリスを最初のホモ属と認めた研究者はごく少数でした。

 ハビリスと分類された化石はその後、エチオピアから南アフリカにかけて発見されました。その中でも、ケニアのクービフォラで発見された化石はハビリスの研究に大きく寄与しました。こうした新たな発見も加わった結果、ハビリスはエレクトスよりも比較的長い(あるいはもっと類人猿的な)上肢を有しているのではないか、と考えられるようになります。

 この解説の筆者のウッド氏は、1966年以来ハビリスの研究に関わってきました。ウッド氏の見解は、ルイス=リーキー氏たちの研究チームのそれとは大きく異なります。ハビリスに分類された若年の人類の骨は現生人類のそれとは似ておらず、アウストラロピテクス属の方にずっと似ており、ハビリスの他の特徴もまた、ルイス=リーキー氏たちの研究チームが示唆したよりも、現生人類のそれには似ていないことが判明した、というのがウッド氏の見解です。世界中の博物館でアウストラロピテクス属とエレクトスの化石をじっくりと研究し、ハビリスと比較してきたウッド氏は、1992年、ホモ=ハビリスと分類されている化石は、顔面に大きな違いのある2種に区分されるとの見解を提示し、2番目の初期ホモ属としてホモ=ルドルフェンシスという種区分を提案して、今ではかなり浸透しています。

 次にウッド氏は、1999年にマーク=コラード氏と共に、体のサイズ・姿勢・歩行形態・食性・生活史といった特徴に焦点を当てることで、ホモ属ともっと原始的な人類との境界を再検討しました。たとえば、上肢が下肢と比較して、あるいは前腕が上腕と比較してどれくらい長いのか、臼歯は類人猿のように早期に萌出するのか、それとも現生人類のように顎で徐々に形成されるのか、といった問題です。

 その結果、ハビリスは一般的にアフリカヌスよりも大きいとはいえ、その歯と顎は同じ比率であることや、ハビリスの体のサイズに関して証拠はほとんどなく、手と足からはハビリスがエレクトスのような議論の余地のないホモ属よりもずっと木登りが上手だったことが窺える、ということが判明しました。したがって、ハビリスがホモ属に分類されるのであれば、ホモ属は一貫性のない特徴の寄せ集めになる、とウッド氏は指摘します。ウッド氏の見解は、ハビリスはアウストラロピテクス属でもホモ属でもないそれ自身の属に分類されるべきだ、というものです。

 初期ホモ属の進化について、この20年間に重要な手がかりを提示してきたのは、グルジアで発見された180万年前頃のドマニシ人です。昨年公表された研究では、ドマニシで発見された5つの頭蓋間の形態の幅はハビリスとルドルフェンシスとエレクトスの間の変異と同等以上であり、すべてのハビリスと似た化石はエレクトスと同一の系統に再分類されるべきである、と主張されています(関連記事)。

 しかしウッド氏は、この研究の方法論は大きな脳のネアンデルタール人の頭蓋と小さな脳のドマニシ人の頭蓋とを区別するのに失敗しているとして、その研究の結論に疑問を呈しています。ウッド氏はまた、ハビリスとエレクトスとでは、内耳のサイズと形や手と足の特徴などといった多くの区別できる違いがあり、ドマニシ人については、小さな脳のような原始的特徴と眉の隆起のような派生的特徴を併せ持つ、従来は知られていなかった複合的形態を持つ新たな分類を提起することも妥当だろう、と指摘しています。

 ウッド氏は、ホモ属の起源についての継続的な議論はハビリスの遺産の一部である、と評価しています。ハビリスはエレクトスの祖先というにはあまりにもエレクトスに似ていないので、単純な直線的進化を想定することはできないだろう、というのがウッド氏の見解です。現代人の祖先はおそらくアフリカで進化したものの、ホモ属誕生の場所は、多くの化石が発見された大地溝帯から離れていたかもしれない、とウッド氏は指摘しています。

 以上、ウッド氏の解説についてざっと見てきました。ハビリスは、アウストラロピテクス属とホモ属のどちらに分類するのか困難な人類化石を分類する便利な種区分として用いられてきた感があり、今後大規模な見直しがなされる可能性は低くないでしょう。また、本文では言及されておらず、図に記載があるだけですが、ホモ属の起源について考察するうえで、近年になって公表されたアウストラロピテクス=セディバは重要な手がかりを提示してくれるのではないか、と思います。


参考文献:
Wood B.(2014B): Human evolution: Fifty years after Homo habilis. Nature, 508, 7494, 31–33.
http://dx.doi.org/10.1038/508031a

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『人類の進化 拡散と絶滅の歴史を探る』
 バーナード=ウッド著、馬場悠男訳で、サイエンス・パレットの一冊として丸善出版より2014年2月に刊行されました。原書の刊行は2005年です。最初期の人類候補であるサヘラントロプス=チャデンシスから、現生人類(ホモ=サピエンス)の出現と拡散までの人類史を概観しています。ホモ属の起源をめぐる議論に関する著者による最近の解説をこのブログでも取り上げましたが(関連記事)、その記事でも述べたように、著者は碩学であり、新書という制限のある形式の本書においても、人類史に関する論点を的確に叙述しています... ...続きを見る
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2014/04/15 00:00

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