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zoom RSS フロレシエンシスをめぐる研究動向

<<   作成日時 : 2014/08/05 00:00   >>

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 人類の進化についてもう6年以上、基本的にはこのブログで個別の研究を取り上げてきただけなので、そろそろある程度まとめも進めて、諸見解を整理していこう、と考えています。そうした意図から、まずアメリカ大陸への人類の移住をめぐる研究動向についてまとめ(関連記事)、続いてドマニシ人をめぐる研究動向(関連記事)、ジャワ島のホモ=エレクトスをめぐる研究動向(関連記事)についてまとめてみました。今回は、インドネシア領フローレス島西部のリアンブア洞窟で発見された更新世人類(ホモ=フロレシエンシス)をめぐる研究動向についてまとめてみます。基本的には、6年以上前のまとめ(関連記事)以降に、このブログで取り上げた研究を取り上げることにします。なお、フロレシエンシスの基本的な情報については、6年前に刊行された日本語翻訳本『ホモ・フロレシエンシス』(関連記事)が今でも有効だと思います。

 2004年に更新世フローレス島人が発表されてまず議論となったのが、更新世フローレス島人が人類の新種と言えるのか、それとも現生人類(ホモ=サピエンス)なのか、ということです。新種説では、更新世フローレス島人はホモ=フロレシエンシスと分類されました。現生人類説では、更新世フローレス島人の正基準標本たるLB1が小頭症のような何らかの病変を抱えていたか、更新世フローレス島人は環境に適応して小型化した現生人類集団なのだろう、とされます。この問題については、6年以上前に一度まとめました(関連記事)。その時も今も、私は新種説を支持しており、現生人類説は成立しないだろう、と考えています。

 ただ、6年以上前のまとめでは、パラオ諸島で発見された2890〜940年前の小柄な人骨群と更新世フローレス島人との類似性から現生人類説を主張する研究については、今後の検証を待ちたい、と述べるにとどまっていました。その後、この見解を否定する研究が公表され(関連記事)、病変説のうちクレチン病説も近年になって改めて否定されていますが(関連記事)、最近でも新種説への懐疑は根強く残っているようです(関連記事)。この問題の解決にはDNA解析が有効なのですが、何度か試みられたものの失敗しているそうです(関連記事)。しかし、以下に取り上げるような諸々の研究から、新種説は否定しがたいだろう、と思います。

 LB1の解剖学的特徴を分析した研究では、LB1は現生人類の範囲内に収まらず、初期ホモ属にもっともよく似ており、エレクトスと古い時期に祖先を共有していただろう、と指摘されています(関連記事)。LB1の足の分析では、大きな母趾が現代人のように完全に内転しているなどといった派生的特徴と、足が下肢の残り部分に比して相対的に長く、一部の類人猿に近い、などといった原始的特徴の混在が指摘され、フロレシエンシスの祖先としてエレクトスよりもっと原始的な人類が想定されています(関連記事)。フロレシエンシスの脚は短く、速く走れなかっただろう、と推測されています(関連記事)。

 また、LB1の脳の小ささは島嶼化で説明できる、と指摘した研究もあります(関連記事)。霊長目の進化史の観点からも、LB1の脳の小ささは病変によらず説明できる、との見解が提示されています(関連記事)。また、フロレシエンシスの脳サイズは当初の推定値よりも大きく病変の現生人類とは考えられず、ジャワの初期エレクトスの脳サイズの見直しから、フロレシエンシスはエレクトスより進化したと考えられる、と指摘した研究もあります(関連記事)。

 LB1の頭蓋の3D形態測定学分析では、LB1は病変の現生人類ではなく、原始的なホモ属の子孫の可能性が高く、病変現生人類説の根拠ともされてきたLB1の頭蓋の非対称性については、現代人・アフリカの現生類人猿の範囲内に収まり、化石生成の過程で生じたものとして説明可能だ、とされています(関連記事)。LB1の頭蓋に関しては、頭が低く額が狭くなっているなど原始的な特徴とともに、ハビリスよりも後のホモ属に見られる多くの派生的特徴も認められることを明らかにし、LB1の頭蓋にもっともよく似ている既知の人骨をジャワ島のサンギランとトリニールで出土した初期のホモ=エレクトスだと指摘して、フロレシエンシスがジャワのエレクトスから劇的な島嶼化を経て進化した可能性を示唆した研究あります(関連記事)。島嶼部の霊長類7系統の脳と体のサイズの分析からも、更新世フローレス島人が病変現生人類であるとする説は否定されています(関連記事)。

 フロレシエンシスと類人猿・他の人類との手首の比較では、フロレシエンシスにはネアンデルタール人・現生人類に見られる派生的特徴が認められず、現生類人猿・アウストラロピテクス属の各種と同じく原始的特徴が認められ、フロレシエンシスの系統は、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類とが分岐する以前に、現生人類・ネアンデルタール人の共通祖先の系統と分岐したという仮説が支持される、と主張されています(関連記事)。現代人のような手の派生的特徴は、ホモ属の進化の初期、おそらくは広義のエレクトスにおいて出現したのではないか、と示唆する研究もあり(関連記事)、フロレシエンシスの起源を探るうえで重要な手がかりとなりそうです。


 ここまで見てきたように、フロレシエンシスの起源に関しては、エレクトスから進化したとする見解と、エレクトスよりもっと原始的な人類から進化した、という見解が対立しています。前者は、フロレシエンシスは島嶼化により小型化したと想定し、後者は、フロレシエンシスは初期ホモ属もしくはアウストラロピテクス属とホモ属の中間的な小柄な人類集団から進化した、と想定する傾向にあります(この場合、必ずしも島嶼化が否定されているわけではありません)。病変現生人類説を支持する研究者は少ないようですから、現在フロレシエンシスについて最も議論になっているのは、フロレシエンシスがどのような人類集団から進化したのか、という問題でしょう。両方の見解に説得力を認める見解もあります(関連記事)。上記の諸見解でもこの問題に言及しているものが少なくありません。以下、この問題について取り上げていきます。

 フロレシエンシスの起源について考察するさいに手がかりとなりそうなのは、フローレス島にいつから人類が存在したのか、ということです。フロレシエンシスが最初に発表された時点では、フローレス島における人類の痕跡は880000±70000年前頃までさかのぼるとされており(フローレス島中部のソア盆地において、人骨は共伴していないものの、石器が発見されています)、その石器は技術的にリアンブア洞窟の石器群と連続的だと指摘されていました(関連記事)。

 とはいえ、両方の石器の担い手が系統的につながっているのかというと、まだ確証はありません。その後、フローレス島の石器の年代は1020000±20000年前までさかのぼることが明らかになり、さらにさかのぼる可能性も指摘されています(関連記事)。フローレス島に100万年以上前から人類が存在したのはほぼ間違いないでしょうが、どのようにフローレス島に到達したのか、フロレシエンシスの祖先集団なのか否か、という問題の解決には、フローレス島で80万年以上前の人骨を発見する必要があります。

 フロレシエンシスがエレクトスよりもっと原始的な人類から進化した、と想定する見解には、次のようなものがあります。LB1と現代人や化石人類を比較した研究では、LB1の四肢の比率がアウストラロピテクス属に近いことが指摘され、フロレシエンシスはエレクトスが出現する前の225万〜200万年前頃に出アフリカを果たした人類集団の子孫ではないか、と推測されています(関連記事)。リアンブア洞窟の更新世の人骨群の分析から、フロレシエンシスは明らかにアウストラロピテクス属ではないものの、アウストラロピテクス属に見られる原始的形態が多く認められ、エレクトスの出現前に出アフリカを果たした小柄な人類の系統に属す可能性のほうが高い、と推測する研究もあります(関連記事)。

 フロレシエンシスの祖先としてエレクトスよりも原始的な人類集団を想定する見解では、その候補はホモ=ハビリス(アウストラロピテクス属と分類する見解もあります)とされることが多いようです。しかし、フロレシエンシスの祖先としてアウストラロピテクス=セディバを想定する見解も提示されています(関連記事)。中には、フロレシエンシスは350万年前以降にアフリカからアジアへと進出したアウストラロピテクス属から進化したのではないか、と想定する見解もあります(関連記事)。現時点では、フロレシエンシスの祖先をエレクトスよりも原始的な人類集団と想定する見解の方が有力視されているようです。

 フロレシエンシスがエレクトスから進化した、と想定する見解には、上記のもの以外では、次のようなものがあります。フローレス島の脊椎動物と他の島々の脊椎動物とを比較した研究では、フローレス島の動物群の進化は島嶼化によって説明され得るものであり、低身長・小さな脳・比較的長い腕・頑丈な下肢・長い足のようなフロレシエンシスの特徴も特有ではなく島嶼化によって説明され得るので、フロレシエンシスはフローレス島での長い孤立の結果としてエレクトスとから進化した、とされています(関連記事)。

 フロレシエンシスの生息環境については、かなりの変動があったことが推測されており、フロレシエンシスはそれに対応する能力を備えていたのだろう、と指摘されています(関連記事)。リアンブア洞窟の近くには川があり、水が得られるというだけではなく、石材の供給源にもなっていたそうですから(関連記事)、フロレシエンシスはおそらく孤島で100万年以上生息していただけあって、一定水準以上の認知能力を備えており、適切な拠点を確保していたようです。ただ、そうだとはいっても、フロレシエンシスが現生人類のように直接的に動物相に大きな影響を与えるほどではなかっただろう、とも推測されています(関連記事)。人口は多くなかったということでしょうか。


 以上、ざっとまとめてみましたが、6年以上情報整理を怠っていると、まとめるのがなかなか大変でした。フロレシエンシスについては、2009年以降、このブログではあまり取り上げてこなかったと記憶していたのですが、それでも大変だったので、ネアンデルタール人についてまとめようとすると、ずっと大変なことになりそうです。ネアンデルタール人については、現生人類との交雑や認知能力や絶滅年代など、いくつかの問題に分けてまとめよう、と考えています。それでも、ネアンデルタール人関連の記事はフロレシエンシス関連の記事よりずっと多いので、まとめるのに時間がかかりそうです。

 最後に現時点での私見をまとめて終わりとします。更新世フローレス島人を(病変の)現生人類とする見解が妥当である可能性はきわめて低く、新種と考えて問題ないだろう、と思います。フロレシエンシスの起源に関しては、低緯度地帯のためDNA解析が期待できないだけに、フローレス島以外の地域も含めて、新たな人骨の発見が必要となるでしょう。フロレシエンシスの祖先に関しては、エレクトスよりも原始的な人類を想定する見解が有力なようですが、エレクトスがフローレス島に渡って100万年以上孤立し、島嶼化を経てフロレシエンシスへと進化したのではないか、と私は考えています。フロレシエンシスの原始的に見える特徴は、島嶼化の結果でないか、というわけです。

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フロレシエンシスに関する研究の進展
 これは9月16日分の記事として掲載しておきます。今年(2016年)になって、インドネシア領フローレス島の更新世人類についての研究が大きく進展しました。この問題については『ネイチャー』のサイトに解説記事が掲載されていますが、改めてこのブログでもまとめてみます。なお、2年ほど前(2014年8月)にもこの問題についてまとめていますので(関連記事)、基本的にはそれ以降の研究の進展について述べていきます。 ...続きを見る
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2016/09/15 19:50

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