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zoom RSS ネアンデルタール人の線刻

<<   作成日時 : 2014/09/04 00:00   >>

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 ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の所産と考えられる線刻についての研究(Rodríguez-Vidal et al., 2014)が報道されました。AFPでも報道されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。この研究はジブラルタルのゴーラム洞窟(Gorham's Cave)での調査に基づくもので、クライブ=フィンレイソン(Clive Finlayson)博士も加わっています。ゴーラム洞窟を長期に亘って調査してきたフィンレイソン博士の著書は日本語にも翻訳されており、以前このブログで取り上げました(関連記事)。

 本論文はゴーラム洞窟で発見された線刻を検証しています。これは岩盤に刻まれていたもので、不完全な十字模様です。本論文は、この十字模様が意図的なものか否か、さらには実用的(たとえば、食物または毛皮の処理)なものか否か、実験考古学的手法も用いて検証しています。本論文はその結果、この彫刻が意図的ではない、または実用的であるという可能性を退けています。この岩盤に見られる線刻は、石の道具により慎重に何度も繰り返されて作られたものだ、というわけです。

 フィンレイソン博士は、この不完全な十字模様が刻まれた時代の道具で一定方向の線を一つ描くには繰り返し60回こすりつける必要があり、全部を描くには最大で317回要した、と説明しています。このことからフィンレイソン博士たちは、この十字模様が意図的なものだと判断しており、抽象的なパターンでほとんど幾何学形状と言えそうなことから、この十字模様の制作者(が属する人類集団)には、抽象的思考能力が備わっていたのではないか、と考えています。

 抽象的思考能力を有するのは現生人類(Homo sapiens)のみである、との見解は今でも根強くあります。この研究が大きく取り上げられたのは、ゴーラム洞窟で発見された十字模様の線刻が、ネアンデルタール人の所産である可能性が極めて高いことを証明したからです。これまでにも、埋葬や貝の装飾品などから、ヨーロッパでの現生人類に先行する(おもにネアンデルタール人をその担い手と想定します)象徴的思考の痕跡が指摘されてきましたが、それらは間接的な証拠であり、このゴーラム洞窟で発見された線刻こそ初めての直接的証拠となる、と本論文はその意義を強調しています。

 ただ、現生人類に先行するかもしれない、ヨーロッパにおける象徴的思考の直接的証拠となる事例として、エルカスティーヨ(El Castillo)洞窟の壁画があります(関連記事)。本論文もエルカスティーヨ洞窟の壁画に言及しています。しかし本論文も指摘するように、壁画の直接的な年代が曖昧であることと、何よりも、壁画の考古学的文脈が不明であることから、この壁画の担い手がどの人類集団なのか、特定はできていない状況です。本論文は、エルカスティーヨ洞窟の壁画の事例をひとまず除外して、議論を進めています。

 ゴーラム洞窟の岩盤の線刻は、洞窟最深部で発見されました。この岩盤の上を第4層が、さらにその上を第3層が覆っている、という状態です。第3層と第4層との間に層位の攪乱は確認されなかったので、第4層の堆積前に岩盤に線刻された、と判断されました。第4層ではムステリアン(ムスティエ文化)の石器が294個発見されており、上部旧石器文化的要素は確認されていません。第3層は考古学的には上部旧石器時代となりますが、上部旧石器時代前期のオーリナシアン(オーリニャック文化)やグラヴェティアン(グラヴェット文化)は見られず、後期のソリュートレアン(ソリュートレ文化)とマグダレニアン(マドレーヌ文化)が確認されています。第4層は放射性炭素年代測定法による較正年代では38500〜30500年前となります。

 このことから本論文は、岩盤の線刻は39000年前頃よりもさかのぼり、その制作者はネアンデルタール人である、との見解を提示しています。ゴーラム洞窟に現生人類が進出するのは、第4層のムステリアンと第3層の最初の上部旧石器文化たるソリュートレアン(第3b層)の年代差(非較正年代です)から推測すると、ネアンデルタール人がゴーラム洞窟よりいなくなってから5000年ほど後のことのようです(関連記事)。しかし、39000年前頃の西ヨーロッパには、すでに現生人類が存在しました。

 そのため、ゴーラム洞窟の39000年以上前の線刻は、現生人類の影響によるものではないか、との見解も提示されるかもしれません。しかし本論文は、39000年前頃にはすでに現生人類は西ヨーロッパに存在していたものの、イベリア半島南端にはまだ進出しておらず、ドイツやフランスのオーリナシアンの彫刻・図像はゴーラム洞窟の線刻よりもっと新しく、明らかに似ていないことから、ゴーラム洞窟の線刻はネアンデルタール人独自の所産だろう、との見解を提示しています。

 以上、この研究についてざっと見てきました。幾何学的文様に象徴的思考の証拠を認めるのは、考古学では有力な見解とされているように思います。その意味で、ゴーラム洞窟の岩盤に刻まれた十字模様が意図的であり、ネアンデルタール人が独自に製作した可能性が高いことが証明されたとなると、ネアンデルタール人にも一定以上の象徴的思考が可能だったことを示す有力な証拠となるでしょう。この研究の意義はたいへん大きいと思います。今後は、ネアンデルタール人にも一定以上の象徴的思考能力があったとして、それが現生人類とはどの程度同じだったのか、あるいは違っていたのか、ということが議論の焦点になりそうです。


参考文献:
Rodríguez-Vidal J. et al.(2014): A rock engraving made by Neanderthals in Gibraltar. PNAS, 111, 37, 13301–13306.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1411529111

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ネアンデルタール人の線刻との見解への疑問
 今日はもう1本掲載します。このブログにて先日、ジブラルタルのゴーラム洞窟で発見された岩盤上の線刻の制作者をネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と推定した研究を取り上げました(関連記事)。この見解にたいして疑問を呈する解説記事が掲載されたので、読んでみました。この解説記事は、ゴーラム洞窟の線刻をネアンデルタール人の所産とする根拠への疑問だけではなく、人類進化における認知能力の進化についての諸見解にたいしても、疑問を呈しているというか、問題提起を行なっています。 ... ...続きを見る
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2014/09/19 00:00

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