雑記帳

アクセスカウンタ

zoom RSS 『日経サイエンス』2014年12月号「大特集人類進化 今も続くドラマ」

<<   作成日時 : 2014/10/29 00:00   >>

面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 9 / コメント 0

 『日経サイエンス』2014年12月号には人類の進化に関する特集が掲載されています。日本経済新聞のサイトに「我々はネアンデルタール人との混血だった 覆る進化の定説」と題する簡潔な紹介記事が掲載されており、話題になっているようです。日本経済新聞のサイトの紹介記事では、人類進化の定説が覆ったとして、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)との交雑はあった、とする現時点での有力説(通説になりつつある、と言ってよいでしょう)が取り上げられています。

 もっとも、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑のあった可能性が高いことは、4年前に一般報道でもそれなりに大きく取り上げられていますので(関連記事)、あまり盛り上がらないのではないか、と思っていました。しかし、ネット上の反応を少し見ると、それなりに盛り上がっているようで、一般には(とはいっても、ここではある程度以上人類進化に関心のある人々を対象としているわけですが)あまり知られていなかったのかもしれません。ここで問題となるのは、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調し、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑はなかった、とする見解が一般にもある程度以上浸透して、通説(有力説)扱いされていたのは、おそらく1997年〜2010年までの短い期間だっただろう、ということです。

 上記紹介記事の執筆者は、ネアンデルタール人と現生人類との違いは大きく、両者の間に交雑はなかった、との見解が通説(有力説)扱いされていたことを知っている状況を前提としているように思います。しかし、そうした見解が有力説だった期間は短いわけで、それを知らない人や、それ以前の有力説の知識に止まっている人も少なからずいるのではないか、と思われます。たとえば、ヨーロッパではネアンデルタール人が現生人類(の一系統たるクロマニヨン人)に進化した、というような見解です。そうした理解では、そもそもネアンデルタール人と現生人類との間の交雑という問題提起自体が成立しないでしょう。

 1990年代半ばまでは、一般層の間で、ヨーロッパではネアンデルタール人が現生人類に進化した、との見解が、最有力説とまでは言えないかもしれないとしても、それなりに重んじられていたように思います。もちろん、1980年代後半以降、そうした見解を主張する現生人類多地域進化説(より「穏健な」多地域進化説では、他地域の現生人類からヨーロッパのネアンデルタール人への遺伝的浸透が強調されます)と、アフリカ起源の現生人類がネアンデルタール人など世界各地の先住人類を駆逐して拡散した、とする現生人類アフリカ単一起源説(当時から、現生人類とネアンデルタール人との間の低頻度の交雑を認める「穏健説」と、それを認めない完全置換説が提示されていました)との間の激しい論争が、一般にも紹介されていました。

 しかし、少なくとも1997年頃までは、一般層の間で多地域進化説的な見解はそれなりに有力説として認識されており、それが大きく変わって、ネアンデルタール人と現生人類との違いが強調され、両者の間に交雑はなかったとの見解が浸透する契機になったのは、1997年にネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの解析結果が公表されたことだと思います(関連記事)。上記紹介記事が「覆る」としている「定説」とは、1997年以降の有力説(通説)なのでしょう。しかし、1997年以降の有力説(通説)を知らない人々にとっては、上記紹介記事の意義は理解しにくいのではないか、と思います。

 この問題に限らず、専門的な問題を一般層に解説しようとすると、一般層の理解がどの程度なのか、一般層の間での理解の差はどの程度なのか、といった問題を考慮しなければならないので、難しいところがあるのは否定できません。私にも、何周遅れているのか分からないくらいの認識の分野が数えきれないくらいあることでしょう。少しでもそうした分野を減らしていきたいところではありますが、能力の限界・時間的制約があるので、大きく減らすのは難しそうです。

 本題に戻って『日経サイエンス』2014年12月号の特集ですが、総説的な解説記事と3部構成になっている各解説記事が掲載されています。各解説は充実した内容なので、それらをまとめてこのブログで単独の記事として取り上げるのは難しいと判断し、各解説を個別に取り上げることにします。各記事からはこの記事へトラックバックを送り、この記事がまとめ的な記事として機能するようにします。なお、特集記事ではありませんが、P111の「グラフィック・サイエンス」は、現代人とゴリラ・チンパンジー・ボノボ・デニソワ人のゲノムの違いを図示するとともに、簡潔に解説しており、たいへん有益だと思います。以下、『日経サイエンス』2014年12月号の特集目次です。



Kate Wong「書き換えられた進化史」P50〜53


第1部「我々はどこから来たのか」(冒頭で人類進化系統樹が掲載されています)

Bernard Wood「直系祖先は誰だ?枝の多い系統樹」P56〜61

Peter B. deMenocal「気候変動のインパクト」P62〜68

Ian Tattersall「進化を加速したハンマー」P70〜75


第2部「我々はどこが違うのか」(冒頭で現生人類の各解剖学的特徴がいつ出現したのか、という図が掲載されています)

Blake Edgar「一夫一妻になったわけ」P78〜83

Frans de Waal「助け合いのパワー」P84〜87

Gary Stix「生まれながらの協力上手」P88〜96


第3部「我々はどこへ行くのか」(冒頭で今後人類がどう進化するのか、簡潔な予想が掲載されています)

Mark Fischetti「ネット化された霊長類」P100〜103

John Hawks「いまも続く進化」P104〜110

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
面白い

トラックバック(9件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
Kate Wong「書き換えられた進化史」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)冒頭に掲載された解説です。20世紀末以降、人類進化史が大きく変わっていったことが簡潔に紹介されています。それをまとめると、以下のようになります。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/03 00:00
Bernard Wood「直系祖先は誰だ?枝の多い系統樹」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第1部「我々はどこから来たのか」に掲載された解説です。碩学のウッド氏が、人類の進化系統樹がたいへん複雑なものであることを解説しています。人類の進化に関して、発見された人類化石がまだ少なかった時代には、単系統的な見解が影響力を有したこともありました。それは、アウストラロピテクス属→エレクトス(Homo erectus)→ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)→現生人類(Homo sa... ...続きを見る
雑記帳
2014/11/05 00:00
Peter B deMenocal「気候変動のインパクト」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第1部「我々はどこから来たのか」に掲載された解説です。この解説は、気候変動が人類の進化に大きな影響力を及ぼしたことを強調しています。この解説が取り上げている年代は、290万〜240万年前頃と、190万〜160万年前頃です。この年代に気候が大きく変動し、人類の進化にも大きな動きが見られた、というわけです。この年代に気候が大きく変動したことは、海底の堆積物や土壌の分析で明らかになってきました。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/07 00:00
Ian Tattersall「進化を加速したハンマー」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第1部「我々はどこから来たのか」に掲載された解説です。碩学のタッターソル氏が、人類の進化を加速した要因について解説しています。タッターソル氏は、700万年間の人類の進化が、近縁の霊長類と比較してたいへん速かったことを強調しています。なぜ人類の進化は速かったのか、ということがこの解説の主題なのですが、本当に人類の進化が特異的に速いと言えるのか、疑問に思わないわけではありません。ただ、碩学の解説だけに、傾聴すべ... ...続きを見る
雑記帳
2014/11/10 20:40
Blake Edgar「一夫一妻になったわけ」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第2部「我々はどこが違うのか」に掲載された解説です。記録に残る現生人類(Homo sapiens)社会では、おおむね一夫一妻が規範として守られています。もちろん、前近代の日本社会のように、一夫多妻など他の配偶形態が容認されている社会も存在します。しかし、前近代の日本社会もそうだったように、一夫多妻を容認するような社会でも一夫多妻は一部にのみ見られるものであり、多くの人々は一夫一妻を維持してきました。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/13 00:00
Frans de Waal「助け合いのパワー」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第2部「我々はどこが違うのか」に掲載された解説です。この解説は、人類の(大型動物としては個体数・生息範囲ともに異例の)繁栄の要因は協同性・協力性にある、としています。人類は個体としては弱い存在であり、単独で道具を持たない場合は大型肉食獣に勝つのがきわめて困難です。協同性・協力性がなければ、人類がここまで繁栄することはなかったでしょう。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/14 00:00
Gary Stix「生まれながらの協力上手」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第2部「我々はどこが違うのか」に掲載された解説です。この解説は、人間と現生種では最も人間に近縁なチンパンジーとの違いが、一般推論的な認知能力にあるのではなく、他者の意図・心理を読み取る社会的スキル(心の理論)にあるのではないか、との見解を肯定的に取り上げています。この違いが、現在の人間とチンパンジーとの在り様の大きな違いの根底にあるのではないか、というわけです。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/16 00:00
Mark Fischetti「ネット化された霊長類」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第3部「我々はどこへ行くのか」に掲載された、シェリー=タークル(Sherry Turkle)博士へのインタビュー記事です。ネットへの接続が常態となった社会(もちろん、そうではない社会・人々もまだ多いのでしょうが)への懸念が指摘されています。これといって目新しい見解はありませんが、人類がまだネットと上手く付き合えていないのではないか、との指摘はもっともなところだと思います。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/17 00:00
John Hawks「いまも続く進化」
 『日経サイエンス』2014年12月号の特集「人類進化 今も続くドラマ」(関連記事)第3部「我々はどこへ行くのか」に掲載された解説です。技術的革新・価値観の変容などによる衛生環境・食料事情などの改善により、人類は自然選択を免れることができたので、人類の進化は事実上終わった、との見解は、一部?の科学者の間でも主張されているようです。これにたいしてこの解説は、人類の進化は今も続いていると強調し、そのさまざまな具体例を提示しています。 ...続きを見る
雑記帳
2014/11/20 00:00

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『日経サイエンス』2014年12月号「大特集人類進化 今も続くドラマ」 雑記帳/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる