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zoom RSS MIS5におけるアラビア半島北部の石器群の多様性

<<   作成日時 : 2015/01/16 00:00   >>

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 中部旧石器時代の海洋酸素同位体ステージ(MIS)5の期間(125000〜70000年前頃)におけるアラビア半島北部の石器群の多様性についての研究(Scerri et al., 2014)が公表されました。本論文は、現生人類(Homo sapiens)の出アフリカの経路として注目されている、MIS5における、アラビア半島の中部旧石器時代の石器群とアフリカの中期石器時代の石器群とを比較しています。

 じゅうらい行なわれてきた、個別の石器や石核タイプに焦点を当てた伝統的な手法では、両地域の類似性が指摘されてきたものの、たとえば「アフリカ」対「レヴァント」というような二分法で把握されることが多く、両地域のMIS5における石器群の比較は不充分だったのではないか、と本論文は指摘します。そこで本論文は、定量化された方法でアラビア半島やアフリカの石器群を検証し、おもにMIS5におけるアフリカ北東部のナイル渓谷とアラビア半島北部の石器群を対象としています。

 現生人類(Homo sapiens)の起源に関しては、現在ではアフリカ単一起源説がほぼ通説になっています。そこで議論になっているのは、現生人類の出アフリカは1回だったのか複数回だったのか、という問題と、出アフリカの経路は、アフリカ東部→ナイル渓谷沿い→シナイ半島→レヴァントという北回りだったのか、アフリカ東部→アラビア半島南岸→南アジアという南回りだったのか、という問題です。現生人類の出アフリカの経路を確定するうえで、アラビア半島の考古学的研究は欠かせない、と言えるでしょう。ただ、アラビア半島では更新世の人骨が乏しいので、考古学の役割が大きくなります。

 MIS5のアフリカ北東部ナイル渓谷におけるルヴァロワ石核からのポイント製作を特徴とする石器群は、ヌビア複合(Nubian Complex)と分類されています(関連記事)。アラビア半島でも、ヌビア複合的石器が報告されており、さらにはもっと東方の南アジアにもヌビア複合的石器は拡散していたのではないか、との見解も提示されています。これは、現生人類による早期の出アフリカ説における根拠とされています。

 この他にも、中部旧石器時代のアラビア半島のそれぞれの石器群には、アフリカ北部のアテリアン(Aterian)やレヴァントなど、多様な地域の石器群との類似性が指摘されています。本論文は、中部旧石器時代のアラビア半島について、石器製作技術の多様性と時期によっては湿潤で人類の長期の居住が可能だったことを指摘し、多様な起源の人類集団が存在した可能性を提示しています。

 本論文はおもに、MIS5の期間の、アフリカ北東部ナイル渓谷の「1033」・「1010-8」・「8751」の3遺跡と、アラビア半島北部のジュバー(Jubbah)地域の「JKF-1」・「JKF-12」・「JSM-1」の3遺跡を検証しています。いずれもMIS5eにはやや乾燥した気候帯(年間降水量200mm〜600mm)に属します。「1033」・「1010-8」・「8751」遺跡は、ヌビア複合のルヴァロワ技術を特徴としています。

 アラビア半島北部のジュバー(Jubbah)地域の3遺跡の石器群を、アフリカ北東部ナイル渓谷の3遺跡の石器群と比較すると、興味深いことが明らかになりました。「JKF-1」と「JKF-12」の石器群は、相違点もあるとはいえ、そのルヴァロワ技術にはアフリカ北東部ナイル渓谷のそれとの類似性が認められました(「JKF-12」の方がより類似しています)。「JKF-1」と「JKF-12」の石器群の相違点のいくつかは、石材の違いによるかもしれない、と本論文は指摘しています。

 しかし、「JKF-1」と「JKF-12」から15kmも離れていない「JSM-1」の石器群は、「JKF-1」と「JKF-12」ほどにはアフリカ北東部ナイル渓谷の石器群と似ておらず、むしろ同じMIS5のアフリカ東部およびレヴァントに典型的に存在する石器群にもっと似ています。つまり、同じMIS5の期間(とはいっても、個体はもちろん集団単位で見てもかなり長いわけで、同時代に共存していたのか、定かではありませんが)に近接して存在していたにも関わらず、「JKF-1」と「JKF-12」は、「JSM-1」よりもむしろ、アフリカ北東部ナイル渓谷の石器群と似ていた、というわけです。

 本論文は、「JSM-1」の年代が「JKF-1」と「JKF-12」よりも古いか、アラビア半島における人類集団の複雑な移動があった可能性を指摘しています。上述したように、他のアラビア半島の中部旧石器時代の石器群の分析からも、複数の起源を有する人類集団がMIS5も含む中部旧石器時代のアラビア半島に存在していた可能性が高いことを本論文は指摘します。ただ、この時期のアラビア半島の人骨は乏しいので、どの人類集団がそれぞれの石器群の担い手だったのか、現時点では確定するのが困難です。

 本論文は、現生人類の複雑な拡散か、あるいは拡散する現生人類とアラビア半島北部の先住人類集団との間の文化的伝播の可能性を想定しています。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)がアラビア半島まで進出した可能性があった、というわけです。しかし本論文は、レヴァントでのネアンデルタール人の痕跡の検証から、MIS5のアラビア半島においてアフリカの石器群と類似性のある石器群を残したのは現生人類のみだった可能性が高い、と指摘しています。

 本論文は結論として、中部旧石器時代のアラビア半島の石器群の多様性は、異なる起源地を有する現生人類集団の存在を反映しており、現生人類の複数回の出アフリカの可能性が高い、と指摘しています。現生人類の出アフリカは1回のみであり、当然経路も北回りか南回りかのどちらかのみであった(最近は南回り説が優勢のようです)、とする有力説の想定よりも、複雑な現生人類の移動史があったのではないか、というわけです。また本論文は、この研究で用いた定量化された石器分析を、レヴァントやザグロスのような他の重要となりそうな地域に適用することも提言しています。


参考文献:
Scerri EML. et al.(2014): Unexpected technological heterogeneity in northern Arabia indicates complex Late Pleistocene demography at the gateway to Asia. Journal of Human Evolution, 75, 125–142.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jhevol.2014.07.002

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