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zoom RSS マケドニア王フィリッポス2世の墓?

<<   作成日時 : 2015/07/25 00:00   >>

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 マケドニア王フィリッポス2世の墓を特定した、と報告した研究(Bartsiokas et al., 2015)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。フィリッポス2世は有名なアレクサンドロス大王(アレクサンドロス3世)の父です。フィリッポス2世は紀元前336年に暗殺され、アレクサンドロス3世が後継者となりました。フィリッポス2世の最後の妻(紀元前337年に結婚)はクレオパトラ=エウリュディケ(後述のフィリッポス3世の妻と区別するために、この記事ではクレオパトラで統一します)です。アレクサンドロス3世が紀元前323年に没した後にマケドニア王に即位したのは、アレクサンドロス3世と異母兄弟の関係にあるフィリッポス3世(アリダイオス)でした。フィリッポス3世の妻はエウリュディケです。

 1977年〜1978年にかけてギリシアのヴェルギナでマケドニア王家の墳墓3基が発見され、そのうち第2墳墓にフィリッポス2世は埋葬された、と考えられてきました。第2墳墓からは、左右の長さが異なっている鎧の脛当てが発見されており、フィリッポス2世が紀元前339年にトラキアのトリバリ(トリロバイ)人との戦いで脚に重傷を負った、との記録と合致すると考えられたためです。しかしこの研究は、フィリッポス2世が埋葬されているのは第1墳墓であり、第2墳墓にはフィリッポス3世とその妻のエウリュディケが埋葬されているのではないか、との見解を提示しています。

 第1墳墓からは、3個体分の人骨が発見されています。個体1は45歳くらいの推定身長180cmの男性で、左膝の部分に大きな穴が開き、骨が癒着し関節が動かなくなる重傷の関節強直が見られ、個体2は18歳くらいの推定身長165cmの女性、個体3は生後41週〜45週の新生児です。これらは、フィリッポス2世の負傷記録および推定没年齢46歳もしくは47歳、歴史学からのクレオパトラの推定没年齢十代後半、両者の間の子供が生後間もなく殺害された、との記録と整合的であることから、本論文は第1墳墓の埋葬者を、フィリッポス2世とその妻のクレオパトラ、および両者の間の子供だと結論づけました。

 一方、第2墳墓に埋葬されている女性は推定25歳であり、クレオパトラとは一致しません。この研究は、第2墳墓に埋葬されているのはフィリッポス3世とその妃であるエウリュディケではないか、との見解を提示しています。エウリュディケは自ら戦ったと伝わっており、長さの違う脛当てが必要となるような傷を負っていた可能性がある、というわけです。古代マケドニアの王族でも近親婚が行なわれており、エウリュディケの両親は従兄妹(従姉弟)の関係です。エウリュディケにとって、夫のフィリッポス3世は叔父(伯父)であり、フィリッポス3世とエウリュディケの父(アミュンタス4世)は従兄弟の関係となります。

 この研究は、岩明均『ヒストリエ』との関係で興味深いものです。『ヒストリエ』では、フィリッポス2世がトリバリ(トリロバイ)人との戦いで重傷を負ったことが単行本第8巻にて描かれており、紀元前338年のカイロネイアの戦いが始まる直前まで描かれた単行本第9巻では、主人公のエウメネスがクレオパトラと恋仲になったことが描かれています。おそらくこの後、クレオパトラはフィリッポス2世の妻となり、若くして殺害されるのでしょうが、すでに単行本第5巻所収の第44話「深酒の王」にて、やや先の紀元前337年時点での出来事が描かれており、クレオパトラがフィリッポス2世の妻となっている様子が窺えます。

 私も含めて『ヒストリエ』の少なからぬ読者は、フィリッポス2世は紀元前336年に暗殺されず、アンティゴノス1世として後半生を過ごすのではないか、予想しているでしょうが(関連記事)、この研究が『ヒストリエ』に影響してくるのか否か、ということも注目されます。まあ、フィリッポス2世とアンティゴノス1世は同一人物である、との予想が的中するとも限らないので、作中ではフィリッポス2世は通説にしたがって暗殺され、その後にアンティゴノス1世が登場する可能性も考えられます。しかし、作中ではフィリッポス2世が偽名としてアンティゴノスと名乗っていることから、フィリッポス2世とアンティゴノス1世は同一人物だという設定が採用されている可能性は高いだろう、と私は考えています。


参考文献:
Bartsiokas A. et al.(2015): The lameness of King Philip II and Royal Tomb I at Vergina, Macedonia. PNAS, 112, 32, 9844–9848.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1510906112

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