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zoom RSS ネアンデルタール人に由来する生存の危険性を高める遺伝子

<<   作成日時 : 2016/02/13 00:00   >>

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 これは2月13日分の記事として掲載しておきます。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)に由来する生存の危険性を高める遺伝子についての研究(Simonti et al., 2016)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。現生人類(Homo sapiens)は出アフリカ後にネアンデルタール人と交雑したと推測されており、非アフリカ系現代人のゲノムにはわずかながら(平均して1.5%〜4%)ネアンデルタール人由来の領域が確認されています。

 こうした非アフリカ系現代人に確認されるネアンデルタール人由来の遺伝子のなかには、現生人類にとって生存に有利に作用したものもあります。ネアンデルタール人はユーラシアで現生人類より長く生存し続けてきたので、ユーラシアに適応した遺伝子を少なからず有しており、アフリカ起源の現生人類はネアンデルタール人との交雑によりそうした遺伝子を継承し、新たな環境であるユーラシアに適応することで、拡散していったのではないか、と考えられています。

 もっとも、ネアンデルタール人由来と推測されている有害な遺伝子も確認されていますが、有害か有益かという単純な二分論で判断することはできず、ある遺伝子が特定の環境では有利に作用したものの、その後の環境変化により不利に働いたのではないか、という事例もじゅうぶん考えられます。たとえば、ネアンデルタール人由来と推測される免疫関連の遺伝子にもそうした側面が認められます(関連記事)。この環境変化には、気温・降水量の変化といった自然の変化だけではなく、それとも関連するものの、食性など生活習慣の変化によるものもある、と考えられます。

 この研究は、約28000人のヨーロッパ系成人の電子健康記録を分析することにより、ネアンデルタール人由来の遺伝子が現代人に及ぼしている影響を検証しています。その結果、ネアンデルタール人由来と推測される遺伝子により生存の危険性を高める12の形質が明らかになりました。たとえば、紫外線暴露により日光角化症の危険性が高まるような遺伝子です。もっとも、上述したようにこれも有害か有益かという単純な二分論で判断することはできず、初期現生人類と比較して高緯度地帯に拡散したネアンデルタール人にとって、適応的な形質だった可能性も指摘されています。

 24時間周期のリズムの妨害が契機となり得る、鬱病の危険性を高めるネアンデルタール人由来と推測される遺伝子も確認されています。これは人工的な灯りに囲まれている現代では危険性を高めることになるものの、おそらく先史時代では危険性を高めるものではなかったでしょう。自然的ではなく人為的な生活環境の変化により、かつてはほとんど有害ではなかった遺伝子が、有害になり得る事例と言えそうです。

 同様の事例が、ネアンデルタール人由来と推測されている血液が凝固しやすくなる遺伝子です。これにより、心筋梗塞や血液疾患などの危険性が高齢者においてとくに高まります。しかし、ほとんどの人が若くして死んだネアンデルタール人社会においては、危険な動物を狩るさいや、大きな頭の子供を出産するさいに有利に作用した可能性がある、と指摘されています。現生人類社会において、栄養状態の改善や医療技術・公衆衛生の発達や社会構造の変化などにより、長寿化が進んだことによって、かつては利益の方が大きかったものの、現代では不利益の方が大きくなってしまった事例と言えそうです。

 代謝関連の遺伝子のなかにも、ネアンデルタール人由来と推測されるものがあります。これはビタミンB1の輸送を調整し、消化器官の細胞において炭水化物を代謝する役割を果たしています。肉と堅果が豊富なネアンデルタール人の食性では、この形質は有利に作用しましたが、加工食品を大量に摂取している人の多い現代社会ではビタミンB1が不足しがちなので、この形質は有害になっている可能性が指摘されています。

 ニコチン依存症の危険性を高める、ネアンデルタール人由来と推測される遺伝子も確認されています。ニコチン依存症は、アメリカ大陸の一部の住民を除けば、人類史上で問題になったのはせいぜいこの500年間ほどでしょうから、淘汰される圧力が働かなかったのでしょう。まあ、子供の頃から現在まで心底タバコを嫌い続けてきた私にとっては、自分がそうした遺伝子を持っているのか、気にする必要はまずなさそうですが。

 こうして見ていくと、ネアンデルタール人由来と推測される遺伝子に起因する、現代社会では生存の危険性を高める形質には、かつては不利ではなかったか、有利でさえあったものも少なくないようです。生物の諸形質に関する「優秀・劣等」という二分論的な評価が、多分に環境依存的であることを改めて思い知らされます。この環境とは、上述したように自然的なものだけではなく人為的なものでもあり、その意味でも、特定の環境への過剰な適応を目的にしているとも言える優生学の危険性は明らかだと思います。


参考文献:
Simonti CN. et al.(2016): The phenotypic legacy of admixture between modern humans and Neandertals. Science, 351, 6274, 737-741.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aad2149

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