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zoom RSS 現生人類の拡散と多様性

<<   作成日時 : 2016/07/30 00:00   >>

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 現生人類(Homo sapiens)の系統地理学的観点からの多様性に関する研究(Harcourt., 2016)が公表されました。参考文献も充実しており、現生人類の出現と各地域への拡散過程について、現時点での諸研究成果の概略を把握するうえでたいへん有益だと思います。現生人類の起源については、考古学・化石・遺伝学の証拠から、アフリカ起源であることが確実だ、と本論文は指摘しています。しかし、現時点では最古の現生人類化石はアフリカ東部のエチオピアで発見されているものの、エチオピアが現生人類の発祥地なのか、まだ確定していない、と本論文は注意を喚起しています。

 アフリカからの現生人類の拡散に関しては、レヴァントやアラビア半島で10万年以上前の痕跡が確認されています。レヴァントでは化石が、アラビア半島では現生人類の所産と考えられている石器が発見されています。アラビア半島よりも東方への現生人類の拡散は、6万年前頃か7万年前頃以降ではないか、と考えられてきました。確実な現生人類の証拠が、アラビア半島よりも東方の地域では5万〜4万年前頃にならないと出現しないからで、アラビア半島よりも西方のヨーロッパでも、現生人類の最古の痕跡は5万〜4万年前頃となります。

 しかし、本論文が指摘するように、近年になって、アラビア半島よりも東方でより古い現生人類の痕跡が主張されるようになりました。オーストラリア大陸では現生人類の拡散が6万年前頃までさかのぼる可能性が、南アジアでは現生人類の所産と考えられる細石器が74000年前頃までさかのぼる可能性が、フィリピンでは67000年前頃の人骨が現生人類である可能性が指摘されています。しかし、これらの証拠はまだ確定的ではない、と本論文は注意を喚起しています。本論文も取り上げているように、中国南部では12万〜8万年前頃の「曖昧ではない」現生人類の歯が発見されており、現生人類の出アフリカに関しては、今後の研究の進展が注目されます。

 現生人類はアフリカからユーラシアへと拡散していきましたが、さらに、アメリカ大陸やオセアニアへと拡散していきました。本論文はアメリカ大陸への拡散について、2万年前頃までさかのぼるだろうと指摘しつつ、3万年前頃までさかのぼる可能性も想定しています。オセアニアでは、3200年前頃、人々が長距離航海により広範に拡散していきました。アフリカ内部でも、完新世になって大規模な移動があり、3000年前頃のバンツー語族の拡散と、いわゆる有史時代の奴隷貿易は、アフリカにおいて大規模な人の移動をもたらしました。また、いわゆる帝国主義時代のヨーロッパ勢力の侵略にともない、アフリカの一部の人々の間で西ヨーロッパ人のDNAが浸透していったことも指摘されています。

 本論文は、現生人類の拡散の特徴として、性比の偏在がしばしば見られることを挙げています。たとえば、いわゆる大航海時代以降のヨーロッパ勢力のアメリカ大陸への大規模な拡散や、モンゴルなど遊牧勢力のユーラシアでの拡散などにおいて、女性よりも男性が大きな影響力を及ぼしたことが挙げられています。一方で、こうした大規模な移動のあまり見られない「平穏な」時期において、農耕社会では、結婚にさいして女性が移動し、男性は生地に留まる傾向がある、とも指摘されています。

 本論文は、現生人類の地域間の文化的多様性についても検証しています。現生人類の文化は、熱帯地域において非熱帯地域よりも多様です。多くの植物と人間ではない動物群もまた、同様の分布パターンを示す、と本論文は指摘します。しかし本論文は、こうした生物学的・環境的要因だけで現生人類の文化の多様性を論じることはではきない、と注意を喚起しています。たとえば、南アメリカ大陸の熱帯地域は、アジアやアフリカの熱帯地域と比較して、多様性がひじょうに低くなっています。

 その理由の一つとして、アメリカ大陸の熱帯地域に現生人類が居住した期間が、アフリカはもちろんアジアとの比較でも短かったことを本論文は挙げています。また本論文は、他の理由として、ヨーロッパ勢力の侵略に伴う、天然痘などアメリカ大陸には存在しなかった疫病の破壊的効果を挙げています。本論文はアメリカ大陸のこうした事例から、地球規模での人類の相互作用により、多くの在来の言語が消失していく危険性を指摘しています。また本論文は、文化は通常、人々の移動とともに拡散するものの、理論的には文化のみの拡散も考えられる、と指摘し、ブリテン島の在来の人類集団が侵略者たるアングロサクソン集団の埋葬を採用した、という事例を挙げています。


参考文献:
Harcourt AH.(2016): Human phylogeography and diversity. PNAS, 113, 29, 8072–8078.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1601068113

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