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zoom RSS シャテルペロニアンの担い手

<<   作成日時 : 2016/09/20 00:00   >>

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 これは9月20日分の記事として掲載しておきます。シャテルペロニアン(Châtelperronian)の担い手に関する研究(Welker et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。シャテルペロニアンは、ヨーロッパにおけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)から現生人類(Homo sapiens)への「交替劇」の解釈の重要な手がかりになりそうな文化だということで、大きな注目を集めてきました。シャテルペロニアンの担い手については、さまざまな見解が提示されています(関連記事)。当初は現生人類が担い手と考えられていましたが、その後、ネアンデルタール人の骨が共伴したことが明らかになりました。

 そのため、シャテルペロニアン層のネアンデルタール人の骨は攪乱の結果で現生人類が担い手という説(仮にA説としておきます)と、大きな攪乱はなく、ネアンデルタール人が担い手という説が提示されました。ネアンデルタール人が担い手という仮説はまず、シャテルペロニアンの象徴的思考を示す人工物が本当にシャテルペロニアンのものなのか否か、という点で分類されます。一方は、それら象徴的思考を示す人工物は後世の層からの嵌入であり、シャテルペロニアン期のものではない、と想定します(仮にB説としておきます)。

 さらに、それら象徴的思考を示す人工物がシャテルペロニアン期のものだと認めたうえで、その製作者が誰か、という点で分類されます。シャテルペロニアン期にフランス西部〜スペイン北部にまで現生人類が進出していたのか、微妙な問題です。当時すでに現生人類がこの地域に進出していたとする立場からは、シャテルペロニアンに見られる象徴的思考を示す人工物はネアンデルタール人が現生人類から入手したか(仮にC説としておきます)、ネアンデルタール人が(あるいはその象徴的意味を理解せずに)模倣して作ったのだ、との見解が提示されています(仮にD説としておきます)。

 これに対して、ネアンデルタール人が独自にシャテルペロニアンを発展させたと主張する見解もあります(仮にE説としておきます)。また、ネアンデルタール人の所産と考えられる遺跡数が減少するなか、フランス南西部〜スペイン北東部にかけてシャテルペロニアンの遺跡が増加していることから、シャテルペロニアン遺跡の全てがネアンデルタール人の所産と考えると矛盾点が多く、現生人類がその形成に大きく関与していたのではないか、との見解(仮にF説としておきます)も提示されています(関連記事)。

 前置きがやや長くなりましたが、この研究は、シャテルペロニアン層でネアンデルタール人の骨が発見された、フランスのトナカイ洞窟(Grotte du Renne)遺跡の人骨を分析しています。この研究は人骨のタンパク質に注目し、その総体(プロテオーム)を解析し、アミノ酸配列を識別することで、人骨の系統的分類と生理学的情報を示すことに成功しました。その結果、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の人骨群は、現生人類ではなくネアンデルタール人に分類されることが示されました。現生人類のコラーゲンはアスパラギン酸と呼ばれるアミノ酸を大量に含んでいますが、ネアンデルタール人のアミノ酸はアスパラギンというアミノ酸が豊富で、ネアンデルタール人のDNA解析からは、アスパラギンが豊富になるようなコラーゲンを生産する遺伝子が特定されています。また、窒素同位体の分析から、これらネアンデルタール人の人骨群の中には、母乳で育てられた幼児が含まれることも明らかになっています。

 トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の人骨群のうち、断片2点のミトコンドリアDNAが解析されました。その結果、ネアンデルタール人の系統である可能性が高いと明らかになりました。タンパク質分析でもミトコンドリアDNA解析でも、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の人骨群はネアンデルタール人に分類される可能性が高い、と示されたわけです。また、人骨の1点は、放射性炭素年代測定法により、非較正で36840±660年前という年代値が得られ、シャテルペロニアンの年代の範囲内に収まりました。これらの結果から、トナカイ洞窟のシャテルペロニアンの担い手はネアンデルタール人であり、シャテルペロニアン層の上に上部旧石器時代の層が後続しないフランスのカンシー(Quinçay)遺跡で、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層と類似した人工物が発見されていることから、象徴的思考を示すとされる人工物も含めて、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の人工物を製作したのはネアンデルタール人だろう、とこの研究は推測しています。

 この研究は、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の人類が終末期のネアンデルタール人であることと、ネアンデルタール人から現生人類へ、またその逆方向で遺伝子流動が生じた可能性を指摘し、今後の核DNA解析への展望を提示しています。これと関連して、本論文の著者の一人であるハブリン(Jean-Jacques Hublin)博士は、シャテルペロニアンの人工物の少なくとも一部はネアンデルタール人の所産であり、ネアンデルタール人は新たな隣人たる現生人類から装飾品の発想を得たものの、装飾品自体は自らが製作した、と考えています(上記分類ではD説)。この研究には関わっていないストリンガー(Chris Stringer)博士は、トナカイ洞窟の終末期ネアンデルタール人に現生人類が遺伝的影響を与え、ネアンデルタール人の認知能力が向上した可能性を指摘しています。しかし、同じくこの研究には関わっていないジリャオン(João Zilhão)博士は、遺伝的であれ文化的など他のものであれ、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層のネアンデルタール人が現生人類から「助け」を得たのか、疑問を呈しています(上記分類ではE説)。

 上述したように、シャテルペロニアンはヨーロッパにおけるネアンデルタール人から現生人類への置換を検証するうえで、重要な役割を担っています。その意味で、トナカイ洞窟のシャテルペロニアン層の担い手はネアンデルタール人である可能性がたいへん高い、と明らかにしたこの研究は大いに注目されます。ただ、シャテルペロニアンの担い手がネアンデルタール人のみなのか、ネアンデルタール人が主要な担い手だとして、現生人類の影響はあるのか、といった問題についてはまだ議論が続きそうであり、今後の研究の進展が大いに期待されます。


参考文献:
Welker F. et al.(2016): Palaeoproteomic evidence identifies archaic hominins associated with the Châtelperronian at the Grotte du Renne. PNAS, 113, 40, 11162–11167.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1605834113

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