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zoom RSS Ian Tattersall『ヒトの起源を探して 言語能力と認知能力が現代人類を誕生させた』

<<   作成日時 : 2016/09/29 00:00   >>

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 イアン=タッターソル(Ian Tattersall)著、河合信和監訳、大槻敦子訳で、原書房より2016年8月に刊行されました。原書の刊行は2012年です。碩学の著作だけあって、たいへん読みごたえがありました。原書の刊行は2012年なので、日進月歩のこの分野としてはやや古くなっていると言えるかもしれませんが、原書刊行後の研究の進展について監訳者の適切な解説があり、配慮が行き届いています。人類進化の全体像についてより詳しく調べようとするならば、本書はじつに有益な一冊になっていると思います。

 もちろん、本書は今後急速に「古く」なっていくわけですが、碩学の著作らしい奥深さがあるので、息の長い一般向け人類進化史になっているのではないか、と思います。単線的な進化像や新技術の出現と生物進化とを結びつける傾向が批判されており、この点には強く同意します。単線的な人類進化像については、進化総合説が定着するなかで、人類の進化史において複数種が共存したことはなく、それは人類の生態的地位が文化によって大きく広がったからだ、という見解が提示されて人類進化の研究に大きな影響を及ぼした、という事情も背景としてあるようです。もちろん、新たに得た人類進化史に関する知見も多いのですが、それ以上に、人類に限らず進化の基礎について改めて色々と考えさせられました。こうしたところが本書の奥深さだと思います。

 本書はまず、生物の進化の仕組みについて簡潔に解説します。ヒトは確かに現代では特異な生物のようにも見えますが、それでもありふれた進化の産物なのだ、というわけです。本書はこの視点に基づき、人類の進化を概観しています。本書は、サヘラントロプス=チャデンシス(Sahelanthropus tchadensis)やオロリン=トゥゲネンシス(Orrorin tugenensis)といった「最初期(候補)」の人類についても言及していますが、やや詳しく取り上げているのは、最初期人類(候補の)化石としては群を抜いて詳細に研究されているアルディピテクス=ラミダス(Ardipithecus ramidus)です。本書はラミダスについて、その形態から考えると、その後のヒト科と直接つながっていないことは間違いない、と指摘しています。つまり、アルディピテクス属はアウストラロピテクス属の祖先ではなさそうだ、というわけです。本書は、アウストラロピテクス属のような初期人類は狩猟者ではなく狩られる側であり、自衛のために25〜75個体程度の比較的大きな集団を形成していた、と推測しています。

 アウストラロピテクス属の後はホモ属の進化の解説となるのですが、本書の見解でやや疑問に思うのは、しばしば同じ分類群として扱われるエルガスター(Homo ergaster)とエレクトス(Homo erectus)とをしっかりと区別し、ともかく少ない分類群にまとめようとする、進化総合説成立期に強く見られた傾向には批判的なのに、ヨーロッパから東アジアにまで広範に拡散したとされる人類種であるハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)という区分には肯定的なことです。果たしてそのような区分の人類種にはどこまで実態があるのか、疑問が残ります(関連記事)。脳が大型化した中期更新世の人骨群をハイデルベルゲンシスという種区分に当てはめることは、アウストラロピテクス属とホモ属の「中間的」な人骨群をホモ=ハビリス(Homo habilis)と分類してきたことと通ずる問題があるように思われます。

 本書は現代人の特異性を強調し、その根幹にあるのは象徴化行動であり、その究極が言語だと主張します。現代人のような象徴化行動・言語が獲得されたのは人類進化史において最近のことであり、現生人類(Homo sapiens)の系統においてのみである、というのが本書の見解です。つまり、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)には現代人のような象徴化行動・言語はなかった、というわけです。確かに、現代人と同じではないにしても、ネアンデルタール人にも何らかの象徴化行動・言語はあったように思われます(関連記事)。著者は以前よりネアンデルタール人には比較的厳しい見解を提示しており(関連記事)、ネアンデルタール人と現生人類との違いが強調されすぎているのではないか、と思います。


参考文献:
Tattersall I.著(2016)、河合信和監訳、大槻敦子訳『ヒトの起源を探して 言語能力と認知能力が現代人類を誕生させた』(原書房、原書の刊行は2012年)

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