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zoom RSS 岩明均『ヒストリエ』第10巻発売(講談社)

<<   作成日時 : 2017/04/02 00:00   >>

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 これは4月2日分の記事として掲載しておきます。待望の第10巻が刊行されました。実に1年10ヶ月振りの新刊となります。第9巻は、紀元前338年、アテネ・テーベなどの連合軍とマケドニア軍とのカイロネイアの戦いがまさに始まろうとし、一番手を自分と替わってくれ、とクラテロスに頼み込んだものの断られたアレクサンドロスが、副将の下知だ、と言うところで終了しました。第10巻は、パルメニオンがクラテロスに、アレクサンドロスの指示に従うよう、命じるところから始まります。アレクサンドロスは愛馬ブーケファラスとともに一番槍の功名を挙げようとします。パルメニオンはアレクサンドロスに、敵陣を突き抜いたら、主力のテーベ軍のいる左に向かうよう、進言します。

 アレクサンドロスは自部隊の騎兵を置き去りにして先頭で進みます。ここで、後のエウメネスの回想という形式で、アレクサンドロスにフィリッポス2世やエウメネスにもない特異な能力のあることが語られます。それは、必ず発現するものではありませんが、風向き・水の流れ・動物の動き・人間の動きのわずか先のことが見える、というものです。カイロネイアの戦場でアレクサンドロスのこの特異な能力はいかんなく発揮され、アテネ軍の隊列のわずかな隙間を見出し、槍を投げつけます。この様子を見たフィリッポス2世は、エウメネスが近くにいるなか、いっそこの場で死んでくれれば、と呟きます。

 アレクサンドロスの見事な急襲でしたが、配下の騎兵はついてこられず、アレクサンドロスは孤立してしまいます。しかし、アレクサンドロスは焦ることもなく、この状況に自嘲するくらいの余裕があります。アレクサンドロスはアテネ軍の隊列を乱すべく、剣を手に持ち単騎で敵部隊の最後列の兵士たちの首を次々と切り落としていきます。所持していた2本の剣が折れてしまう前に、アレクサンドロスは多くの兵士の首を切り落としていました。アテネ軍は、何が起こっているのか理解できず、茫然としています。アテネ軍の一兵士として参戦していた高名なデモステネスは、目の前で自軍の兵士が切られてしまったことから怯えきってしまい、戦場から逃亡します。

 所持していた2本の剣が折れてしまったアレクサンドロスは、アテネ軍の目前で、殺した兵士から剣と盾を奪います。アテネ軍の兵士たちは、アレクサンドロスが目の前に一人でいるにも関わらず、その様子を茫然と見ています。アレクサンドロスは愛馬ブーケファラスに乗り、配下の騎兵を待って合流し、敵陣を突破します。フィリッポス2世は、後退させていた自軍に前進を命じ、アテネ・テーベなどの連合軍は敗走して、カイロネイアの戦いはマケドニア軍の完勝で終わりました。戦後処理により、アテネは陸軍・水軍ともに解体され、テーベは実質的な占領下に置かれました。

 ここで、話はカイロネイアの戦いの前に戻ります。フィリッポス2世は出陣前に、元老のアンティパトロスから、主力が東方に遠征したなか、アレクサンドロスが反乱した都市を寡兵で鎮圧し、その都市に「アレクサンドロポリス」と自分の名前をつけた、と報告を受けます。若い世代のなかにはアレクサンドロスを軍神と崇めている者もいる、とアンティパトロスから聞いたフィリッポス2世は、王子ではなく将軍だったらと考えることもある、惜しい才能だが、アレクサンドロスは病気だ、と言います。フィリッポス2世は、今度の戦い(カイロネイアの戦い)でアレクサンドロスに副将を任せ、その結果次第で今後のことを考える、とアンティパトロスに伝えます。

 またフィリッポス2世は、エウメネスを自分の「左腕」とする構想をアンティパトロスに打ち明けます。フィリッポス2世は、かつて軍事訓練のさいに、エウメネスが利き腕による部隊編成を進言した、とアンティパトロスに語り、その能力・発想力を高く評価していることから、自分の「左腕」に抜擢しようと考えているのでした。アンティパトロスはフィリッポス2世の構想に賛成しますが、懸念も伝えます。エウメネスを「王の左腕」に抜擢し、大きな権限を与えることになるので、マケドニアの有力貴族であるアッタロス一族のエウリュディケとエウメネスとの結婚は阻止した方がよいだろう、というわけです。フィリッポス2世は、エウリュディケと会おうとします。

 マケドニア軍は首都のペラに帰還し、エウメネスはアッタロス邸に赴き、アッタロスにエウリュディケとの結婚を申し出ようとしますが、アッタロスはエウメネスに、エウリュディケのことは諦めてくれ、と謝罪します。アッタロスはエウメネスとエウリュディケを結婚させ、アッタロス家を継がせようとさえ考えていましたが、エウリュディケはフィリッポス2世の第7王妃となることが決まったので、エウリュディケとの結婚を認めるわけにはいかない、というわけです。エウメネスは、これまでフィリッポス2世の王妃は皆外国人で、マケドニア貴族はいなかったのに変だ、と疑問を呈します。エウメネスはエウリュディケに本心を問い質しますが、エウリュディケは、女の気持ちは関係ない、光栄の至りだ、と答えます。エウメネスは、マケドニア王家の歴史を考えれば、王妃になってもろくなことはない、と言い、自分と駆け落ちするよう、エウリュディケを説得します。しかし、エウリュディケはエウメネスと口づけをかわし、別れて涙を流します。

 マケドニアから去ることも選択肢に入れ始めたエウメネスは、街を歩いていて、パルメニオンの息子のフィロータスに絡まれます。エウメネスが「王の左腕」に選ばれるとの噂がすでに広まっており、なぜ自分が選ばれないのか、とフィロータスは激昂したのでした。エウメネスはメランドロスを訪ね、「王の左腕」について説明を受けます。ギリシアの陸軍では、主力を右翼に置き、総司令官が右翼で指揮をとることが多いので、「王の左腕」とは、左翼に配置される信頼できる副将のことを云うのでした。これまで、「王の左腕」を務めてきたのはパルメニオンでしたが、すでに60歳を過ぎているので、10年前からその後継候補が噂されてきた、というわけです。

 これまで噂されてきた有力人物として、ギリシア人の傭兵隊長で、内乱を避けてマケドニアに身を寄せていたペルシア貴族アルタバゾスの娘婿でもあるメムノンと、マケドニア貴族のクラテロスがいました。しかし、メムノンは国外に逃亡し、クラテロスはフィリッポス2世と相性が悪いので、エウメネスに白羽の矢が立った、というわけです。「王の左腕」たる副将になるつもりのないエウメネスは、アレクサンドロスと遭遇します。アレクサンドロスは、エウメネスならば副将が務まる、と嬉しそうに言いますが、エウメネスは強く否定し、早く身を引かないと危険だ、と考えます。紀元前337年、フィリッポス2世とエウリュディケの婚礼が秋と決定した、と説明が入って今回は終了です。


 第10巻は、カイロネイアの戦いでのアレクサンドロスの特異な才能と活躍が強烈に印象づけられました。アレクサンドロスは後に勢力圏を拡大して世界史上でも有数の英雄となったわけですが、本作のアレクサンドロスは、そうした大英雄としての片鱗をじゅうぶん見せつけており、説得力のある人物造形になっているように思います。一方、アレクサンドロスとフィリッポス2世との関係は、かなり微妙なようです。第6巻では、フィリッポス2世はアレクサンドロスを自分の後継者として育成しよう、と真剣に考えていたようですが、第10巻の時点では、アレクサンドロスを後継者とすることを躊躇っているようです。

 アレクサンドロスは神話に憧れる空想的な人物なので、マケドニア国王としては危うい、との冷徹な判断なのか、アレクサンドロスが自分の実子ではなさそうだということに気づいたので複雑な感情があるのか、それとも別の意図があるのか、現時点ではどうもよく分かりませんが、作中では翌年に迫ったフィリッポス2世の暗殺事件(本作では、フィリッポス2世は暗殺されない、と私は予想していますが)とも関わってきそうなので、注目されます。エウリュディケは史実通りフィリッポス2世の妻となりそうで、悲惨な最期を遂げるのではないか、と思います。エウメネスにとって2回目の悲恋となりますが、エウリュディケの最期にエウメネスはどう関わってくるのでしょうか。まあ、フィリッポス2世が暗殺されずに生き延びるとしたら、エウリュディケの運命も変わってくるのかもしれませんが。



 なお、第3巻までの内容は
http://sicambre.at.webry.info/200707/article_28.html

第4巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/200708/article_18.html

第5巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/200904/article_10.html

第6巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/201005/article_25.html

第7巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/201111/article_29.html

第8巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/201308/article_26.html

第9巻の内容は
http://sicambre.at.webry.info/201505/article_34.html

フィリッポス2世の今後についての予想は
http://sicambre.at.webry.info/201112/article_2.html

フィリッポス2世の墓については
http://sicambre.at.webry.info/201507/article_29.html

にて述べています。

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