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zoom RSS アフリカ北部の30万年以上前の現生人類的な化石(追記有)

<<   作成日時 : 2017/06/09 00:00   >>

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 これは6月9日分の記事として掲載しておきます。モロッコのジェベルイルード(Jebel Irhoud)遺跡で新たに発見された人類化石に関する二つの研究が報道されました。日経新聞朝日新聞AFP読売新聞でも報道されており、大きな注目を集めているようですが、確かに、大いに注目すべき研究だと思います。『ネイチャー』のサイトには解説記事が掲載されています。一方の研究(Hublin et al., 2017)は、ジェベルイルード遺跡における2004年以降の調査で新たに発見された、少なくとも5個体分となる人類化石の形態をさまざまな人類集団と比較し、もう一方の研究(Richter et al., 2017)は、ジェベルイルード遺跡の人類化石の年代を、直接的・間接的に測定しています。これら二つの研究により、たいへん興味深く重要なことが明らかになりました。

 ジェベルイルード遺跡では現生人類(Homo sapiens)の起源とも関わるとされた16万年前頃の人類化石が発見されていますが、最近では、絶滅した古代型ホモ属ではないか、との見解が有力でした(関連記事)。ジェベルイルード遺跡で新たに発見された人類化石は、エレクトス(Homo erectus)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や初期現生人類や最近の現生人類といった更新世〜最近のホモ属と比較されました。その結果、ジェベルイルード遺跡の新たな人類化石は、顔面・下顎・歯の形態において初期および最近の現生人類との類似性が認められました。たとえば、中期更新世ジェベルイルード人の歯は、最近の現生人類と比較すると大きいものの、ネアンデルタール人など他の古代型ホモ属と比較すると、現生人類の方に類似しています。一方で、中期更新世ジェベルイルード人の神経頭蓋と頭蓋内の形態的特徴は、前後に長いなどより祖先的で、派生的な特徴と祖先的な特徴との混合状態を示しています。

 新たに発見された中期更新世ジェベルイルード人の年代は、直接的には1個体(Irhoud 3)の下顎歯から電子スピン共鳴法で得られ、286000±32000年前と推定されています。共伴した石器群は中期石器時代のもので、燧石製の石器は火で加熱処理されており、熱ルミネッセンス年代測定により315000±34000年前と推定されています。大小さまざまな動物化石も発見されており、動物の骨は472種が同定されました。そのうち、齧歯類の年代は374000〜337000年前と推定されています。こうした複数の推定年代から、新たに発見された中期更新世ジェベルイルード人の年代は30万年以上前と考えられています。この年代は、最古の現生人類化石とされているエチオピアのオモ(Omo)人骨(関連記事)よりも10万年以上古く、この研究は、新たに発見された中期更新世ジェベルイルード人は現生人類系統の初期段階ではないか、との見解を提示しています。ただ、シュワルツ博士(Jeffrey Schwartz)のように、この中期更新世ジェベルイルード人を現生人類と認めない研究者もいます。

 ただ、この研究は現生人類の起源地に関して、これまで有力視されていたアフリカ東部説に代わってアフリカ北部説が有力になったと主張しているわけではなく、より広くアフリカ全体での進化を検証しなければならない、と指摘しています。現生人類の起源に関しては、アフリカ単一起源説が今ではほぼ通説になっていると言えるでしょうが、最近では遺伝学の分野から、アフリカ単一起源説を前提としつつ、アフリカ内の多地域進化を想定する説も提示されています(関連記事)。26万年前頃と推定されている南アフリカのフロリスバッド(Florisbad)人骨にかなりの現生人類的特徴が認められるとされていることからも(Klein, and Edgar., 2004,P237-244)、現生人類のさまざまな(派生的な)解剖学的特徴は、特定の小集団にのみ時間をかけてじょじょに出現して定着していったというよりも、時として遺伝的にやや離れた集団に個別に出現し、交雑により拡散して(何らかの理由があったか、もしくは偶然により)定着していった、と考えるのが妥当かもしれません。この研究はサハラ砂漠以北をも対象としており、現生人類アフリカ内多地域進化説を拡大・補強すると言えるかもしれません。これと関連して、まだ査読前ではありますが、南アフリカの2000年前頃の少年のDNA解析の結果、この少年と現代のアフリカ集団との分岐年代が26万年以上前と推定された、との見解も注目されます。

 考古学的にも興味深い見解が提示されています。ジェベルイルードは直接的に年代測定された最初期の中期石器時代遺跡となり、これまでは離れていた中期石器時代の始まりと現生人類の起源年代がより接近するのではないか、というわけです。ただ、中期石器時代的な要素はアフリカにおいて50万年以上前から見られ(関連記事)、もちろん、現生人類的な要素がその頃からじょじょに形成されていった、という可能性もあるわけですが、石器製作技術と人類の進化とを直接的に結びつけることには慎重でなければならない、と思います。

 ジェベルイルード遺跡で新たに発見された(人間ではない)動物の骨に関しては、解体痕(cut marks)のような人類が食べた痕跡がどの骨にあるのか、検証されました。その結果、人類は、ガゼルやシマウマやウサギやカメや淡水の軟体動物など、多様なサイズ・生息域(陸棲か水棲か)の動物を食べていたことが明らかになりました。小型動物の比率は低く、ガゼルの比率が高かったことから、大型動物の狩猟が本格的に行なわれていたことが窺えます。また、長い骨の切り傷から、骨髄が食べられていた、と考えられています。この頃には、大型動物をも積極的に対象とする、本格的な狩猟が行なわれていたのでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古人類学:モロッコのジェベル・イルード由来の新たな化石およびホモ・サピエンスの汎アフリカ起源

古人類学:モロッコのジェベル・イルード由来のヒト族化石の年代および中期石器時代の起源

Cover Story:ヒトの起源:モロッコの化石によってホモ・サピエンスの出現時期が早まった

 ホモ・サピエンス(Homo sapiens)が出現した正確な場所と時期は、化石記録が乏しく、多くの重要な標本の年代が確定されていないために、まだ明らかになっていない。今回、J Hublinたちがモロッコのジェベル・イルードに由来する新たなヒト化石を報告しており、また別の論文では、S McPherronたちがこれらの化石の年代を決定している。これら2報によって、この遺跡で発見された遺骸が約35万〜30万年前にさかのぼることが示された。これらの標本の顔、下顎、歯の形態を含む多くの特徴は、初期または最近の現生人類のものと一致していたが、神経頭蓋と頭蓋内の形態的特徴はより原始的であることが明らかになった。総合すると、ジェベル・イルードのヒト族化石は、ホモ・サピエンスの最初期の進化段階ものであると、著者たちは考えている。



参考文献:
Hublin JJ. et al.(2017): New fossils from Jebel Irhoud, Morocco and the pan-African origin of Homo sapiens. Nature, 546, 7657, 289–292.
http://dx.doi.org/10.1038/nature22336

Klein RG, and Edgar B.著(2004)、鈴木淑美訳『5万年前に人類に何が起きたか?(第2版第2刷)』(新書館、第1版1刷の刊行は2004年、原書の刊行は2002年)
関連記事

Richter D. et al.(2017): The age of the hominin fossils from Jebel Irhoud, Morocco, and the origins of the Middle Stone Age. Nature, 546, 7657, 293–296.
http://dx.doi.org/10.1038/nature22335


追記2017(年6月10日)
 ジェベルイルード遺跡の中期更新世人のDNA解析は成功しなかった、とのことです。また、ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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