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zoom RSS 後期ネアンデルタール人の新たなゲノム配列(追記有)

<<   作成日時 : 2018/03/23 00:00   >>

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 これは3月23日分の記事として掲載しておきます。後期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の新たなゲノム配列についての研究(Hajdinjak et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。古代DNA研究を制約しているのは、時間経過と、微生物および現代人のDNAによる試料汚染です。時間経過に関しては、環境が大きな要因となっており、同じくらい古い年代でも、高温多湿環境よりも寒冷乾燥環境の方がDNAは多く保存されています。

 本論文は、試料汚染除去のための次亜塩素酸塩処理を用いた新手法により、新たにネアンデルタール人5個体のDNAを解析し、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の配列とともに、全ゲノム配列を決定しました。これまでのネアンデルタール人の全ゲノム配列は5個体分でしたから、一挙に2倍に増えたことになります。本論文で新たにゲノム配列が決定されたネアンデルタール人が発見された場所は、ベルギーのゴイエット(Goyet)とスピ(Spy)、ロシアのコーカサス地域のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)、フランスのレスコテス(Les Cottés)、クロアチアのクロアチアのヴィンディヤ(Vindija)です。

 ヴィンディヤのネアンデルタール人の年代は44000年以上前としか明らかになっていませんが、他のネアンデルタール人の年代は放射性炭素年代測定法により詳しく明らかになっており、較正年代では、ゴイエットが43000〜42080年前、スピが39154〜37876年前、メズマイスカヤが44600〜42960年前、レスコテスが43740〜42720年前です。これらの年代はおおむね、以前に全ゲノム配列の得られたネアンデルタール人よりも新しいと推測されており、後期の西方ネアンデルタール人と区分できるでしょう。これら5個体のネアンデルタール人のゲノム配列の網羅率は1〜2.7倍となり、高くはありません。

 これら5個体も含めて、後期ネアンデルタール人の遺伝的類似性は地理的位置とよく相関しています。核DNAでは、ベルギーのゴイエットとスピの個体が相互に最も近縁で、この2個体と近縁なのがレスコテスの個体、これら3個体とやや離れて高品質のゲノム配列が得られたヴィンディヤの個体(関連記事)、さらに離れてコーカサスのメズマイスカヤの個体となり、高品質のゲノム配列が得られている南西シベリアのアルタイ地域の個体(関連記事)は、これら西方の後期個体群とは系統関係的にかなり離れています。mtDNAでも類似した結果が得られましたが、レスコテスの個体がベルギーやクロアチアの個体と系統関係的にやや離れています。Y染色体が確認されたのはスピとメズマイスカヤの個体で、予想されていたように、相互に現代人よりも近い関係にあります。

 本論文は、この新たな後期西方ネアンデルタール人のゲノム配列と以前に決定されたゲノム配列とを比較し、ネアンデルタール人の人口史や現生人類との関係を検証しています。以前に全ゲノム配列が報告されていた、やや古い年代のメズマイスカヤの個体(Mezmaiskaya 1)は、本論文で全ゲノム配列が報告されたメズマイスカヤの個体(Mezmaiskaya 2)も含めて後期西方ネアンデルタール人個体群とは系統関係的にやや離れているので、後期西方ネアンデルタール人の間では、相互に移動・置換があったのではないか、と推測されています。ネアンデルタール人は広範囲に拡散しており(同時期の地理的範囲はそこまで広くはなかったのでしょうが)、地域集団間の差もある程度以上はあったのではないか、と考えられます。

 非アフリカ系現代人に遺伝的影響を及ぼしたネアンデルタール人集団は、アルタイ地域のネアンデルタール人系統と15万年前頃に分岐した後、本論文で新たにゲノム配列が決定された後期西方ネアンデルタール人集団群の系統と、遅くとも7万年前頃には分岐した、と推測されています。本論文で新たにゲノム配列が決定された後期西方ネアンデルタール人のうち4個体は、初期現生人類がヨーロッパに到達した後に生存していたと推測されていますが、現生人類からの遺伝子流動は検出されませんでした。そのため、遺伝子流動は、後期西方ネアンデルタール人から初期現生人類への一方向のみだったかもしれない、と指摘されています。ただ、本論文で新たに報告されたネアンデルタール人のゲノム配列は網羅率が低いので、検出されていないだけかもしれません。最近、後期ホモ属の進化史における系統樹と交雑についてまとめましたが(関連記事)、本論文も含めて、その後の研究成果を取り入れて、いつか改訂版を掲載する予定です。


参考文献:
Hajdinjak M. et al.(2018): Reconstructing the genetic history of late Neanderthals. Nature, 555, 7698, 652–656.
http://dx.doi.org/10.1038/nature26151


追記(2018年3月29日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



【遺伝学】後期ネアンデルタール人の来歴に関する新知見

 3万9000〜4万7000年前に生きていた後期ネアンデルタール人(5体)のゲノムについて説明した論文が、今週掲載される。

 ネアンデルタール人の遺伝的多様性や、後期ネアンデルタール人集団が最後に初期現生人類と相互に影響し合っていた頃から最終的に消失するまでの間の後期ネアンデルタール人集団間の関係は、ほとんど解明されていない。

 今回、Mateja Hajdinjakたちの研究グループは、ベルギー、フランス、クロアチア、およびロシアのコーカサス地方で採取された骨と歯の断片から、5人の後期ネアンデルタール人のゲノムの塩基配列を解読し、解析した。Hajdinjakたちは、他のネアンデルタール人ゲノムと比較することで、全ての後期ネアンデルタール人が約15万年前にシベリアの共通祖先から分岐しており、後期ネアンデルタール人における近縁性は地理的な隣接性と相関していると推定した。また、今回の分析で、ネアンデルタール人から初期現生人類への遺伝子流動の大部分が、今回の分析対象となった後期ネアンデルタール人から分岐した単一または複数の集団が起源となっており、その分岐が起こったのは、少なくとも7万年前だったことが示唆されている。

 Hajdinjakたちは、この5人のゲノムをそれより古い時代のコーカサス地方で見つかったネアンデルタール人のゲノムと比較した上で、ネアンデルタール人の歴史の末期にかけて、コーカサス地方またはヨーロッパ全土で集団の入れ替わりがあったという考えを示している。それは、気候の顕著な変動があった6万〜2万4000年前のことで、その当時の北ヨーロッパにおける極端な寒冷期が引き金となってその地域のネアンデルタール人集団が絶滅し、その後、南ヨーロッパまたは西アジアからの再定住が起こった可能性がある。

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