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zoom RSS 現生人類と古代型ホモ属との交雑の論点整理

<<   作成日時 : 2018/06/03 18:55   >>

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 現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のデニソワ人(Denisovan)など古代型ホモ属との交雑に関する論点を整理した研究(Wolf, and Akey., 2018)が公表されました。近年の諸研究がまとめられており、たいへん有益だと思います。この問題に関しては、当ブログでも以前まとめてみました(関連記事)。古代型ホモ属および現生人類のゲノム解析は、人類進化史の研究に革命をもたらしました。これにより、現生人類と古代型ホモ属との交雑も明らかになりましたが、依然として多くの未解明の問題が残されており、その解明にはより多くの古代ゲノムおよび現代人のゲノム解析が必要となります。本論文は現時点で未解明の問題のうち、両者の交雑頻度、遺伝的浮動と選択の影響、現代人の表現型への影響といった観点からの諸問題を取り上げています。以下、本論文の取り上げた諸問題を簡潔にまとめていきます。

●現生人類と古代型ホモ属との交雑の最初の水準
 非アフリカ系現代人全員のゲノムに占める、古代型ホモ属から継承したと推定される領域の割合は2〜7%程度です。オセアニア系現代人集団は、他地域の現代人集団よりもデニソワ人から強い遺伝的影響を受けており、その分他地域よりも古代型ホモ属の遺伝的影響が強くなります。しかし、これはあくまでも現代人における頻度であり、最初の交雑の水準は不明です。ネアンデルタール人由来のゲノム領域のうち、有害なもの(適応度を下げるもの)があれば、それらは選択的に排除されたと考えられます。したがって、交雑後の初期世代のゲノムにおける古代型ホモ属由来の領域の割合は、3%以上だったと推定されます。古代ゲノム解析の結果、現生人類のゲノムに占めるネアンデルタール人由来と推測される領域の割合が、ユーラシアの最初期の現生人類では3〜6%だと推定されています(関連記事)。じっさい、4万年前頃の東アジアの現生人類のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の推定領域は4〜5%です(関連記事)。また、ルーマニアの42000〜37000年前頃の現生人類のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の推定領域は6〜9%です(関連記事)。ただ、ルーマニアの事例は、ネアンデルタール人との交雑から4〜6世代以内のことで、このルーマニアの初期現生人類から現代人への遺伝的寄与はおそらくないだろう、と推測されています。交雑初期世代のゲノムに占めるネアンデルタール人由来の領域の割合が現在よりも高い場合、ネアンデルタール人由来の領域はじょじょに減少すると予想されますが、そのなかに弱い有害な(適応度を下げる)対立遺伝子が含まれていれば、初期に急激に低下した後、緩やかに減少していくと予想されます。最初の交雑の水準・交雑の持続期間・古代型配列喪失の割合の解明には、交雑の時期により近い古代の現生人類とネアンデルタール人の標本の継続的収集が必要です。デニソワ人の交雑の最初の水準に関する推定はまだありません。それは、データが少なく、交雑がどこでいつ起きたのか、不確かだからです。

●ネアンデルタール人との交雑は何回あったのか
 当初、非アフリカ系現代人各地域集団間のネアンデルタール人からの遺伝的影響はほぼ同じと推定されたので、ネアンデルタール人と現生人類との交雑は、非アフリカ系現代人の祖先集団が各地域集団に分岐する前の1回のみの事象と考えられました。その後、現代人各地域集団の比較対象が増加し、解析が改善されデニソワ人(Denisovan)やネアンデルタール人の高品質なゲノム配列が得られると、現代人各地域集団間で、ネアンデルタール人からの遺伝的影響にわずかながら有意な違いがある、と明らかになってきました。たとえば、ヨーロッパ系現代人よりも東アジア系現代人の方がネアンデルタール人の遺伝的影響は強い、というわけです。こうした違いは0.1〜0.5%です。この違いの説明として、1回交雑説は依然として説得的です。ヨーロッパ系現代人の祖先集団はネアンデルタール人の遺伝的影響をほとんど受けなかった「基底部ユーラシア人」系統の遺伝的影響を強く受けたので、東アジア系現代人よりもゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の割合が低いのではないか、というわけです(関連記事)。また、環境の違いや有効人口規模が小さかったことから、東アジア系現代人にはヨーロッパ系現代人よりもネアンデルタール人の遺伝的影響がわずかながら強く残った、との見解も提示されています。一方、東アジア系現代人の祖先集団とネアンデルタール人との追加の交雑、つまり複数回交雑説も提示されています(関連記事)。ただ本論文は、2回交雑モデルでもまだ単純化されているかもしれない、と指摘しています。

●遺伝子流動に性的偏りはあったのか
 現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人の遺伝的影響は、X染色体では常染色体の1/5程度となり、現生人類とネアンデルタール人の交雑では性的偏りがあったのではないか、と推測されています。これに関しては、ネアンデルタール人のX染色体上の遺伝子と常染色体上の遺伝子とで、選択圧に違いがあったのではないか、と推測されています。これとは異なる説明も提示されており、ネアンデルタール人と現生人類との交雑では、現生人類女性とネアンデルタール人男性の組み合わせが、その逆よりも潜在的には3倍以上多かったため、交雑当初よりネアンデルタール人の遺伝的影響はX染色体よりも常染色体の方が強かった、と想定されています。これは、現代人のミトコンドリアDNA(mtDNA)にネアンデルタール人由来と推定されるものが見つからない理由を説明できます。逆に、現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動に関しては、異なる性的偏りも想定されます。

●デニソワ人の系統的位置づけ
 デニソワ人については以前まとめました(関連記事)。デニソワ人は南シベリアのアルタイ地域でのみ確認されていますが、デニソワ人の遺伝的影響を強く受けているのは、遠く離れたオセアニア地域の現代人集団です。そのため、デニソワ人の生存範囲および現生人類との交雑の起きた場所が問題となります。現時点での証拠からは、デニソワ人はシベリアから東南アジアまで広範囲に存在したとも考えられますが、では、なぜその中間地帯に位置する東アジア系現代人集団では、オセアニア系現代人集団よりもデニソワ人の遺伝的影響が弱いのか、との疑問が生じます。これに関しては、デニソワ人には東アジアと東南アジアに異なる系統が存在し、前者が東アジア系現代人集団と、後者がオセアニア系現代人集団と交雑した、との見解が提示されています(関連記事)。また、東アジア系現代人集団はデニソワ人の遺伝的影響を受けなかった集団と交雑したため、オセアニア系現代人集団よりもデニソワ人の遺伝的影響が弱くなった、との見解も提示されています。現生人類・ネアンデルタール人・デニソワ人の系統関係が、mtDNAと核DNAで異なる問題に関しては、デニソワ人が現生人類やネアンデルタール人とは異なる古代型ホモ属、たとえばエレクトス(Homo erectus)やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)と交雑した可能性が指摘されています。これらの問題の解決には、デニソワ人や他の古代型ホモ属遺骸の発見がもっと必要となります。また、この問題に関しては、デニソワ人という分類群の有効性を疑問視する見解も注目されます(関連記事)。

●アフリカにおける古代型ホモ属との交雑の可能性
 アフリカには中期更新世後期まで、おそらくはネアンデルタール人よりも現生人類系統とは遠い関係にあると思われるホモ属が存在しており(関連記事)、まだ確認されていないだけで、現生人類系統ではないホモ属が後期更新世まで存在した可能性もじゅうぶん考えられます。その意味で、アフリカでも現生人類と古代型ホモ属との交雑が起きても不思議ではありません。じっさい、アフリカにおける現生人類と古代型ホモ属との交雑の可能性は指摘されています(関連記事)。ただ、アフリカの気候条件からすると、古代型ホモ属のゲノム解析は難しそうなので、この問題の解明には、アフリカ系現代人集団のゲノム解析をさらに蓄積していくことが必要になります。

●現代人には継承されなかった古代型ホモ属のゲノム領域
 非アフリカ系現代人のゲノムには、ネアンデルタール人由来のDNAが見られない領域もあります(関連記事)。これに関しては、複数の説明が提示されています。まずは、ボトルネック(瓶首効果)による遺伝的多様性の喪失です。次に、古代型ホモ属の遺伝子多様体のなかに、適応度を下げるもの(有害な多様体)があった、との説明です。これに関しては、人口規模の違いにより、小規模な古代型ホモ属では排除されなかった多様体が、より人口規模の大きい現生人類では排除されたという可能性も、ネアンデルタール人の環境では有利だった多様体が、現生人類の環境では不利に作用した可能性も指摘されています。また、排除された古代型ホモ属の領域すべてを説明できるわけではないとしても、古代型ホモ属もしくは現生人類系統に逆位領域があったとしたら遺伝子流動を妨げるかもしれない、と指摘されています。ただ、系統特異的な逆位の同定は難しい、とも指摘されています。

●交雑による表現型への影響
 現生人類が古代型ホモ属との交雑により表現型でどのような影響を受けたのか、という問題については多くの研究があります。とくに、古代型ホモ属との交雑により新たに獲得した免疫機能については、現生人類のアフリカからの拡散に寄与した、と想定されています。この他には、肌の色や高地適応関連遺伝子なども、現生人類が新たな環境に適応するのに役立った、と考えられています。ただ、現生人類が古代型ホモ属との交雑により獲得した表現型のうち、当初は有利か中立的だったものが、環境変化により不利に作用するようになった事例も指摘されています(関連記事)。

●現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動
 これまでの研究は、おもに古代型ホモ属から現生人類への遺伝子流動に注目してきました。今後は、現生人類から古代型ホモ属への遺伝子流動にも注目が集まるでしょう。すでに、現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動が指摘されています(関連記事)。現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流動は、遅くとも145000〜130000年前頃までには起きた、と推測されています(関連記事)。mtDNAの解析からは、現生人類系統もしくはネアンデルタール人よりも現生人類に近い系統とネアンデルタール人との交雑が、27万年前頃までに起きた可能性も指摘されています(関連記事)。


参考文献:
Wolf AB, Akey JM (2018) Outstanding questions in the study of archaic hominin admixture. PLoS Genet 14(5): e1007349.
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1007349

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