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みんなの「社会科学」ブログ


水資源保全対策における文化の違い

2017/11/18 00:00
 これは11月18日分の記事として掲載しておきます。水資源保全対策における文化の違いに関する研究(Castilla-Rho et al., 2017)が公表されました。地下水は、気候変動に直面する世界の食糧安全保障と、数百万世帯の農村生活の維持に重要です。農業のための水資源の濫用は世界中で深刻に懸念されていますが、地下水利用者による保全政策への遵守を促すものが何かということについては、ほとんど分かっていません。地下水保全のモニタリングおよび執行は長い時間とコストを要し、政治的に困難な側面があります。文化によって異なる考え方を理解することは、費用効果の高い管理法の立案において重要です。

 この研究は、農民による灌漑のための地下水利用を、地下水の汲み上げの抑制が必要な3地域(オーストラリアのマレーダーリング盆地、アメリカ合衆国カリフォルニア州のセントラルバレー、インド・パキスタン国境付近のパンジャーブ地方)を対象にモデル化を行ないました。さまざまな地域における協力および法令遵守に対する社会的態度に関するデータを集めた結果、パンジャーブ地方のような協力的とされる文化においては強い懲罰的な手段が有効であるものの、マレーダーリング盆地やセントラルバレーのように個人主義がより強いとされる文化では、懲罰的な手段はそれほど有効ではない、と明らかになりました。

 この研究は、地下水の保全に対する社会規範を変化させる最も有効な介入法は、ロールモデルとなる法令遵守者の数を集団中に増やすことである、と明らかにしましたが、社会における受け入れの規模を変えるために必要な法令遵守者の数は地域差が大きい、とも指摘しています。この研究は、同様のモデルは水産物や森林といった他の共有天然資源にも適用できる、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


水資源保全の文化を理解する

 水資源の保全法に対する人々の反応に文化の違いがどのように影響するかということと、そうした知見を踏まえて各国の文化に適した有効な介入手段を見つける方法が、今週のオンライン版に掲載された論文で報告されている。

 地下水は、気候変動に直面する世界の食糧安全保障、および数百万世帯の農村生活の維持に重要である。農業のための水資源の濫用は世界中で深刻に懸念されているが、地下水利用者による保全政策への遵守を促すものが何かということについてはほとんど分かっていない。地下水保全のモニタリングおよび執行は長い時間を要し、コストを要し、政治的に困難な側面がある。文化によって異なる考え方を理解することは、費用効果の高い管理法の立案においてカギとなる。

 Juan Carlos Castilla-Rhoの研究チームは、農民による灌漑のための地下水利用を、地下水の汲み上げの抑制が必要な3つの地域(オーストラリアのマレー・ダーリング盆地、米国カリフォルニア州のセントラル・バレー、インド・パキスタン国境付近のパンジャーブ地方)を対象にモデル化を行った。さまざまな地域における協力および法令遵守に対する社会的態度に関するデータを集めた結果、協力的な文化(パンジャーブ地方)においては強い懲罰的な手段が有効であるが、個人主義のより強い文化(米国やオーストラリア)においては、懲罰的な手段はそれほど有効ではないことが分かった。研究チームは、地下水の保全に対する社会規範を変化させる最も有効な介入法は、ロールモデルとなる法令遵守者の数を集団中に増やすことであることを見出したが、社会における受け入れの規模を変えるために必要な法令遵守者の数は地域差が大きい。研究チームは、同様のモデルは、水産物や森林といった他の共有天然資源にも適用できると結論している。



参考文献:
Castilla-Rho JC. et al.(2017): Social tipping points in global groundwater management. Nature Human Behaviour, 1, 640–649.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0181-7
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無神論者にたいする偏見

2017/11/10 00:00
 これは11月10日分の記事として掲載しておきます。無神論者にたいする偏見に関する研究(Gervais et al., 2017)が公表されました。この研究は、宗教性のひじょうに強い社会(アラブ首長国連邦やインド)から世俗性のひじょうに強い社会(中国やオランダ)まで、5大陸13ヶ国の3000人を対象に、不道徳な行為と無神論を結びつける認識について調べました。この研究は、無神論者にたいする偏見の程度を定量化するために、調査参加者たちに動物への虐待が高じてスリルを求めて殺人に及ぶ「モラルに反する人物」について書かれた文章を読ませました。この研究は、参加者の半数にたいして、罪を犯したその人物が(1)教師か(2)宗教心のある教師のどちらの可能性が高いか、残りの半数には、(1)教師か(2)神の存在を信じない教師のどちらの可能性が高いか尋ね、各群の回答者がどれほどの頻度で(2)より(1)を選択したかを測定しました。

 その結果、参加者はきょくたんな不道徳性を、信仰者の指標としてよりも、無神論者の指標としてほぼ2倍多く見なしていること(フィンランドと、程度は低いもののニュージーランドの2ヶ国を除く)と、自身を無神論者と認める参加者たちも、無神論者にたいして同様の偏見を抱いていることが明らかとなりました。この研究から、無神論者にたいする道徳上の直感的な疑念は、普遍的とまでは言えないにしても、文化の壁を越えて広く認められ、世俗的および宗教的な社会を問わず、さらには信仰者の間にも無神論者の間にも認められることが判明しました。また、宗教と道徳性の関係をめぐる科学的および一般的な認識にはかなりの多様性があることも明らかになりました。この研究は、中心となる道徳的直感は宗教とほぼ無関係に現れたようではあるものの、道徳性と宗教の間には避けがたい結びつきがあるとする一般的な見方は、ひじょうに根強いことを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


無神論者でさえ、「モラルのない人はおそらく無神論者である」と直感的に推測する

 信仰心の厚い人も神の存在を信じない無神論者も、連続殺人などの極度に不道徳な行為を犯す者はおそらく無神論者だろうと直感的に推定することが、今週オンライン版に掲載される論文で報告される。研究では、無神論者に対するこうした偏見が、対象とされた13の宗教的な国および世俗的な国の大半で認められることが明らかとなった。この結果は、多くの国であからさまな宗教性が否定されつつある状況であっても、長年に及ぶ人類の宗教経験が、「道徳性には信仰が必要である」という払拭しがたい思考を強めてきたことを示唆している。

 Will Gervaisの研究チームは、宗教性の非常に強い社会(アラブ首長国連邦やインド)から世俗性の非常に強い社会(中国やオランダ)まで、5大陸13か国の3000人を対象に、不道徳な行為と無神論を結びつける認識について調べた。無神論者に対する偏見の程度を定量化するために、研究チームは調査参加者たちに、動物への虐待が高じてスリルを求めて殺人に及ぶ〈モラルに反する人物〉について書かれた文章を読ませた。そして参加者の半数に対しては、罪を犯したその人物が(1)「教師である」か、または(2)「宗教心のある教師である」のどちらである可能性が高いかを尋ねた。また残りの半数には、(1)「教師である」か、または(2)「神の存在を信じない教師である」のどちらである可能性が高いかを尋ねた。そして研究チームは、各群の回答者がどれほどの頻度で(2)より(1)を選択したかを測定した。

 その結果、参加者は極端な不道徳性を、信仰者の指標としてよりも、無神論者の指標としてほぼ2倍多く見なしていること(フィンランドと、程度は低いもののニュージーランドの2か国を除く)、そして自身を無神論者と認める参加者たちも、無神論者に対して同様の偏見を抱いていることが明らかとなった。今回の研究から、無神論者に対する道徳上の直感的な疑念は、普遍的とまでは言えないにしても、文化の壁を越えて広く認められ、世俗的および宗教的な社会を問わず、さらには信仰者の間にも無神論者の間にも認められることが判明した。また、宗教と道徳性の関係をめぐる科学的および一般的な認識にはかなりの多様性があることも分かった。今回の研究は、中心となる道徳的直感は宗教とほぼ無関係に現れたようであるものの、道徳性と宗教の間には避けがたい結びつきがあるとする一般的な見方は非常に根強いことを示唆している。



参考文献:
Gervais WM. et al.(2017): Global evidence of extreme intuitive moral prejudice against atheists. Nature Human Behaviour, 1, 0151.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0151
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フェイクニュースや作り話が広まる理由

2017/11/08 00:00
 これは11月8日分の記事として掲載しておきます。フェイクニュースや作り話が広まる理由に関する研究(Qiu et al., 2017)が公表されました。これまでの研究では、ソーシャルネットワークの構造と、人の注意力の有限性の組み合わせが、急速に伝播するミーム(伝達され得る情報やアイデアの断片)が出現する十分条件だと示されていました。情報の質が、どの情報が急激に伝播するかを決めることは当然のように思えますが、ソーシャルメディア上におけるフェイクニュースの誤った情報の伝播についてはそうではないことが示唆されています。

 この研究は、行動上の限界が、ソーシャルメディア・プラットフォームによる、情報の質の高低を識別する能力を低くする、と明らかにしました。この研究は、ミームの拡散モデルを開発し、情報負荷(単位時間あたりに受け取られるミームの平均数)ならびに個人の注意力が、ミームの質と相互作用し、その注目度にどのように影響するのか、調べました。

 この研究は、情報の質と多様性との間の良好なトレードオフが達成されるソーシャルメディア市場が、理論的に可能なことを明らかにしたものの、このモデルを、ツイッターやタンブラーからの情報負荷および注意に関する現実世界の測定値で較正したところ、情報はその質の高低を問わず同程度の速度で共有されることも明らかにしました。この研究は、ソーシャルメディアによる識別力を高め、誤った情報の伝播を防ぐ一つの方法として、ソーシャルメディアを質の低い情報で満たす「ボット」の使用を抑制することを提案しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


フェイクニュースや作り話が広まる理由

 人の注意力には限界があることと情報量の増大によって、フェイクニュースや作り話などの質の低い情報がソーシャルメディア上にあっという間に広まる現象を説明できるかもしれないとの報告が、今週のオンライン版に掲載される。フェイクニュースが急速に拡散する理由が分かれば、虚偽の情報の伝播を抑える新たなツールを開発する上で大いに役に立つ。

 これまでの研究では、ソーシャルネットワークの構造と、人の注意力の有限性の組み合わせが、急速に伝播するミームが出現する十分条件であることが示されていた。情報の質が、どの情報が急激に伝播するかを決めるというのは当然のように思えるが、ソーシャルメディア上におけるフェイクニュースの誤った情報の伝播についてはそうではないことが示唆されている。

 Diego Fregolente Mendes de Oliveiraたちの研究チームは、行動上の限界が、ソーシャルメディア・プラットフォームによる、情報の質の高低を識別する能力を低くすることを明らかにした。今回の研究では、ミーム(伝達されうる情報やアイデアの断片)の拡散モデルが開発され、情報負荷(単位時間あたりに受け取られるミームの平均数)ならびに個人の注意力がミームの質と相互作用してその注目度にどのように影響するかが調べられた。研究チームは、情報の質と多様性との間の良好なトレードオフが達成されるソーシャルメディア市場が理論的に可能なことを明らかにした。しかし、このモデルを、ツイッターやタンブラーからの情報負荷および注意に関する現実世界の測定値で較正したところ、情報はその質の高低を問わず同程度の速度で共有されることが分かった。

 結論として研究チームは、ソーシャルメディアによる識別力を高め、誤った情報の伝播を防ぐ1つの方法として、ソーシャルメディアを質の低い情報で満たす「ボット」の使用を抑制することを提案している。



参考文献:
Qiu X. et al.(2017): Limited individual attention and online virality of low-quality information. Nature Human Behaviour, 1, 0132.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0132
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不公平にたいする感受性と鬱病の関係

2017/10/13 00:00
 これは10月13日分の記事として掲載しておきます。不公平にたいする感受性と鬱病の関係についての研究(Tanaka et al., 2017)が公表されました。過去の研究では、富の不平等な分配(経済的不平等)が、うつ病をはじめとする精神疾患の増加に寄与することが示唆されていましたが、その背後にある神経機構は不明でした。この研究は、仮想的なパートナーからバーチャル・マネーを受け取るコンピューターゲーム(最終提案ゲーム)をプレイ中の健常者の脳活動を測定しました。ゲームにおいてパートナーとプレイヤーは、「公平」か「不公平」かの状況に置かれます。「公平」な状況では、両者は同じ額のバーチャル・マネーを受け取りますが、「不公平」な状況では、プレイヤーが受け取るバーチャル・マネーはパートナーの半分以下または半分以上となります。

 実験の結果、不公平な提案に反応したときの脳内の海馬と扁桃体の反応が、実験時に感じる抑鬱症状と相関することが明らかになりました。同じ尺度(不公平な提案に反応する扁桃体および海馬の活動の変化)はまた、実験実施時と実験から1年後の間における抑鬱症状の変化とも相関が見られました。社会性を重視する(この実験では、あらゆるタイプの不公平を嫌う)被験者については、(ゲーム参加者当人の利益となる提案を含む)不公平さを含むあらゆる提案にたいする脳の反応から、抑鬱症状の変化を予測することができました。この研究は、臨床的な抑鬱症状の見られない健常者を対象に実施されたものですが、不公平に対する反応が気分に大きな影響を及ぼすことが明らかとなりました。この成果を元に、今後の研究では、精神疾患の発症リスクの高い人を見つけて支援する方法を考案することができる可能性があります。こうした不公平への反応は、人類が進化の過程で獲得したものなのでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


不公平に対する感受性からうつ病の発症を予測する

 コンピューターゲーム上で遭遇する不公平に対する脳の反応を調べることで、健常者が将来、うつの症状を訴えるか否かを予測できることを示した論文が、今週掲載される。この研究をきっかけとして、不公平に反応して気分障害を発症する特別のリスクがある人に関する理解が深まる可能性がある。

 過去の研究では、富の不平等な分配(経済的不平等)が、うつ病をはじめとする精神疾患の増加に寄与することが示唆されていた。しかし、その背後にある神経機構は不明であった。

 脳情報通信融合研究センターの田中敏子(たなか・としこ)研究員の研究グループは、仮想的なパートナーからバーチャル・マネーを受け取るコンピューターゲーム(最終提案ゲーム)をプレイ中の健常者の脳活動を測定した。ゲームにおいてパートナーとプレイヤーは、「公平」か「不公平」かの状況に置かれる。「公平」な状況では、両者は同じ額のバーチャル・マネーを受け取るが、「不公平」な状況では、プレイヤーが受け取るバーチャル・マネーはパートナーの半分以下または半分以上となる。実験の結果、不公平な提案に反応したときの脳内の2つの領域(海馬と扁桃体)の反応が、実験時に感じる抑うつ症状と相関することがわかった。同じ尺度(不公平な提案に反応する扁桃体および海馬の活動の変化)はまた、実験実施時と実験から1年後の間における抑うつ症状の変化とも相関がみられた。

 社会性を重視する(今回の実験では、あらゆるタイプの不公平を嫌う)被験者については、不公平さを含むあらゆる提案(ゲーム参加者当人の利益となる提案を含む)に対する脳の反応から、抑うつ症状の変化を予測することができた。今回の研究は、臨床的な抑うつ症状のみられない健常者を対象に実施されたものであるが、不公平に対する反応が気分に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。今回の成果を元に、今後の研究では、精神疾患の発症リスクの高い人を見つけて支援する方法を考案することができる可能性がある。

 関連するNews & Viewsでは、Megan SpeerとMauricio Delgadoが、「示唆に富む今回の研究は、そうした問題を検討するための有望な方法を提供し、うつ病にみられる消耗性の性質を促進あるいは悪化させる危険因子を明らかにすることにつながるだろう」と述べている。



参考文献:
Tanaka T, Yamamoto T, and Haruno M.(2017): Brain response patterns to economic inequity predict present and future depression indices. Nature Human Behaviour, 1, 748–756.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0207-1
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ISとその対立集団の兵士が戦争に参加する動機

2017/09/14 00:02
 ISとその対立集団の兵士が戦争に参加する動機に関する研究(Gómez et al., 2017)が公表されました。ISは2014年夏にその勢力をイラク全土に大きく広げました。ISの戦意の高さについて提案された理由の一つは、IS兵士が「熱烈な行為者(Devoted Actor)」として行動するためというものでした。IS兵士は、譲ることのできない神聖な価値(物や金銭による補償との交換を拒絶する価値)を守ろうとする時に、自ら進んで大きな犠牲を払って過激な行為へと向かうのではないか、というわけです。

 この研究は、「熱烈な行為者」という枠組みが戦意の理解に使えることを示す新たな証拠を提示しています。この研究は、(1)拘束されたIS兵士を含むイラク北部の前線の兵士たちを対象とした2015年2月〜3月の現地インタビュー、(2)ISと交戦中の56のクルド人民兵組織(ペシュメルガ)・イラクのクルド人武装組織・スンニ派アラブ人の軍事組織を対象に2016年2〜3月に実施された定量的現地調査、(3)6000人以上のスペイン人を対象とした一連の大規模なオンライン調査を組み合わせて分析しました。

 その結果、自らの命や近親者の幸福などコストの大きい犠牲を進んで払う意志・神聖な価値の重視・自身が属する集団が敵より精神的に強いという認識の三者に共通する関係が見出されました。この研究は、クルドの言語・歴史・土地への責任を感じる感覚である「クルド性」というような抽象的理念の尊重が戦意の説明となることを示唆しているものの、さらなる研究を要する同様に重要な疑問は、なぜ一部の集団は他の集団よりも抽象的な理念への忠誠度が高くなるのかということだ、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


ISのための精神、ISに立ち向かうための精神

 IS(イスラム国)と対立する集団のために戦う兵士、またISの兵士自身は、「神聖な価値」を奉ずること、神聖な価値を優先して近親者との絶縁をいとわないこと、敵と比較して自身の属する集団の精神力の強さを疑わないことのために、自ら進んで戦場に赴いて命を捨てようとする。今週報告された知見からは、個人が戦場へ出ていく動機が何かということについての理解が得られそうである。

 ISが2014年の夏にその勢力をイラク全土に大きく広げたとき、このテロ集団の戦場の拡大は多くの人を驚かせたが、それはイラクの軍隊が当初、戦意の弱い集団であると見なされていたためであった。ISの戦意の高さについて提案された理由の1つは、IS兵士が「熱烈な行為者(Devoted Actor)」として行動するためであるというものであった。つまり彼らは、譲ることのできない神聖な価値(物や金銭による補償との交換を拒絶する価値)を守ろうとする時に、自ら進んで大きな犠牲を払って過激な行為へと向かうという理由が考えられた。

 Scott AtranとAngel Gomezたちの研究グループは今回、〈熱烈な行為者〉という枠組みが戦意の理解に使えることを示す新たな証拠を提示している。研究グループは、(1)イラク北部の前線の兵士たち(拘束されたIS兵士を含む)を対象に2015年2月〜3月に実施された現地インタビュー、(2)ISと交戦中の56のクルド人民兵組織(ペシュメルガ)、イラクのクルド人武装組織、スンニ派アラブ人の軍事組織を対象に2016年2〜3月に実施された定量的現地調査、(3)6000人以上のスペイン人を対象とした一連の大規模なオンライン調査を組み合わせて分析を行った。

 その結果、コストの大きい犠牲(自らの命や近親者の幸福など)を進んで払う意志、神聖な価値の重視、自身が属する集団が敵より精神的に強いという認識の三者に共通する関係が見出された。研究グループは今回の調査は、(クルドの言語、歴史、土地への責任を感じる感覚である「クルド性」というような)抽象的な理念の尊重が戦意の説明となることを示唆しているものの、さらなる研究を要する同様に重要な疑問は、なぜ一部の集団は他の集団よりも抽象的な理念への忠誠度が高くなるのかということだと指摘している。

 News & ViewsではJohn Horganが、「前線の兵士たちを対象とした研究が(研究グループの言うように)「難しい」というのは控え目な表現である。むしろ今回の研究をいっそう重要なものとしているのは、内容の濃い学際的な理論的枠組みが明らかにし、かつ問いかける、民族誌的で実験的なインタビューに基づく研究の複雑さにある」と述べている。



参考文献:
Gómez Á. et al.(2017): The devoted actor’s will to fight and the spiritual dimension of human conflict. Nature Human Behaviour, 1, 673–679.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0193-3
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序列を維持する心

2017/07/15 00:00
 序列を維持する心に関する研究(Xie et al., 2017)が公表されました。これまでの研究では、経済ゲームにおいて人は不平等な支払いを拒否することが報告されており、平等を強く望む心は、文化の違いを越えた社会規範であると示唆されていました。しかし、そうした証拠にもかかわらず、所得の不均衡は依然として解消されておらず、他の要因の関与の可能性が疑われていました。この研究は、さまざまな文化を対象に一連の経済ゲームを実施し、序列が2人の人間への支払いを等しくしたいという人々の意欲にどれほど影響を及ぼすのか、調べました。

 その結果、実験参加者の大多数は、序列が全体として変わらないと予想される状況では、富む者から貧しい者へ金を再分配することを選択する(この場合、富む者は貧しくなるものの富んだ状態は変わらず、一方で貧しかった者は当初より富むものの貧しい状態で変わりません)が、大半の参加者は、再分配が2人の序列を逆転させる(富む者が貧しくなり、所有する金額が少なくなる一方で、貧しかった者が富み、所有する金額が多くなる)状況になりそうな場合は再分配を望まないことが明らかになりました。

 子供を対象とした同様の実験では、不平等の回避は4歳までには現れますが、「序列の逆転」の回避は6歳になるまで現れないことが明らかになりました。この知見は、階層の維持が人々にとって不平等な扱いを拒否することに等しい社会規範であることを示唆しています。このような研究は、不平等の存続を許容する個人レベルの信念と行動に関する理解を深めると考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


序列を維持する心

 経済的不平等を嫌う人は多いが、そうした人であっても、富む人がより少ない金を受け取り、貧しい人がより多い金を受け取るような再分配が行われて既存の「富の序列」が覆されることを望まないことが、今週のオンライン版に掲載された論文で報告されている。この知見は、階層の維持が、人々にとって不平等な扱いを拒否することに等しい社会規範であることを示唆している。

 先行研究では、経済ゲームにおいて人は不平等な支払いを拒否することが報告されており、平等を強く望む心は、文化の違いを越えた社会規範であると示唆されていた。しかし、そうした証拠にもかかわらず、所得の不均衡は依然として解消されておらず、他の要因の関与の可能性が疑われていた。

 Xinyue Zhouたちの研究グループは、さまざまな文化を対象に一連の経済ゲームを行い、序列が2人の人間への支払いを等しくしたいという人々の意欲にどれほど影響を及ぼすのかを調べた。その結果、実験参加者の大多数は、序列が全体として変わらないと予想される状況では、富む者から貧しい者へ金を再分配することを選択する(この場合、富む者は貧しくなるものの富んだ状態は変わらず、一方で貧しかった者は当初より富むものの貧しい状態で変わらない)が、大半の参加者は、再分配が2人の序列を逆転させる(つまり富む者が貧しくなって、所有する金額が少なくなる一方で、貧しかった者が富み、所有する金額が多くなる)状況になりそうな場合は再分配を望まないことが判明した。子どもを対象とした同様の実験では、不平等の回避は4歳までには現れるが、〈序列の逆転〉の回避は6歳になるまで現れないことが判明した。この結果は、「平等を求める」という規範が、発達の途上で学習されるものであることを示唆している。

 このような研究は、不平等の存続を許容する個人レベルの信念と行動に関する理解を深めると考えられる。



参考文献:
Xie W. et al.(2017): Rank reversal aversion inhibits redistribution across societies. Nature Human Behaviour, 1, 0142.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0142
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保守派とリベラル派の科学書の読書傾向の違い

2017/06/10 00:00
 これは6月10日分の記事として掲載しておきます。保守派とリベラル派の科学書の読書傾向の違いに関する研究(Shi et al., 2017)が公表されました。自らの政治的信念に合致する狭い範囲の情報にのみ曝される、「反響室」や「フィルターバブル」と呼ばれる現象は、両極端に位置する政党に共鳴するそれぞれの人々の相互理解を妨げる恐れがあることから、政治学において懸念が高まっています。この研究は、世界最大級の二つのオンライン書籍小売業者の購入履歴を解析することで、実験室外において同問題を調べた数少ない研究の一つについて報告しています。この研究は、「共購買ネットワーク」を構築し、どのジャンルの科学書が「保守派」寄り、または「リベラル派」寄りの政治関連本とともに購入されているかを解析しました。

 その結果、さまざまな科学の主題に対する関心に全般的に明らかな差があるだけでなく、保守派とリベラル派が同じ主題のなかでも異なる本を選ぶことが明らかになりました。たとえば、リベラル寄りの書籍の購入者は、物理学や天文学などの基礎科学系の本を好むのに対し、保守寄りの書籍の購入者は、犯罪学や地球物理学などの応用科学系の本を好むことが示されています。この研究は、「反響室/フィルターバブル」への選択的曝露を減じ、政治的議論への科学の寄与を回復させ、党派的な熱狂を鎮めるためには、さらなる研究が必要なことが明らかになった、との見解を提示しています。

 この研究について、政治学者のボルセン(Toby Bolsen)博士は、こうした行動パターンは、科学および政治の異なる情報源の党派的な選択が、自身の見解を強化する自分と似たような考えを持つ他者の見解へと自らを選択的に曝す「反響室」へ至りかねないという、より強い懸念と軌を一にする、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


保守派とリベラル派が読む科学書は異なる

 政治関係の書籍を購入する米国の保守派またはリベラル派の人々は、科学書に対する関心は全般的に同等なものの、同じジャンルの科学書を手に取るわけでは必ずしもないという報告が、今週のオンライン版に掲載される。オンラインでの書籍購入を数百万件にわたって解析した結果、消費者の選択には大きな差があることが判明し、リベラル寄りの書籍の購入者は、物理学や天文学などの基礎科学系の本を好むのに対し、保守寄りの書籍の購入者は、犯罪学や地球物理学などの応用科学系の本を好むことが明らかとなった。

 自らの政治的信念に合致する狭い範囲の情報にのみ曝される、「反響室」や「フィルターバブル」と呼ばれる現象は、両極端に位置する政党に共鳴するそれぞれの人々の相互理解を妨げる恐れがあることから、政治学において懸念が高まっている。

 Michael MacyとJames Evansの研究グループは、世界最大級の2つのオンライン書籍小売業者の購入履歴を解析することで、実験室外において同問題を調べた数少ない研究の一つについて報告している。研究グループは、「共購買ネットワーク」を構築して、どのジャンルの科学書が「保守派」寄り、または「リベラル派」寄りの政治関連本とともに購入されているかを解析した。その結果、さまざまな科学の主題に対する関心に全般的に明らかな差があるだけでなく、保守派とリベラル派が同じ主題のなかでも異なる本を選ぶことが判明した。

 そして、「反響室/フィルターバブル」への選択的曝露を減じ、政治的議論への科学の寄与を回復させ、党派的な熱狂を鎮めるためには、さらなる研究が必要なことが明らかになったと研究グループは結論している。

 関連するNews & Viewsの記事では、「今回の研究で見出された行動パターンは、科学および政治の異なる情報源の党派的な選択が、例えば人が、自身の見解を強化する自分と似たような考えを持つ他者の見解へと自らを選択的に曝す「反響室」へ至りかねないという、より強い懸念と軌を一にする」と政治学者のToby Bolsenが述べている。



参考文献:
Shi F. et al.(2017): Millions of online book co-purchases reveal partisan differences in the consumption of science. Nature Human Behaviour, 1, 0079.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0079
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テロリストの道徳的判断

2017/06/08 00:00
 これは6月8日分の記事として掲載しておきます。テロリストの道徳的判断に関する研究(Baez et al., 2017)が公表されました。テロは、一般社会から容認されない行為とみなされるのが普通ですが、テロリストは自らの行為を、「目的は手段を正当化する」という論理により正当化します。しかし、テロリストがこのトレードオフをどのようにとらえて道徳的判断を下しているのか、よく分かっていません。典型的な成人の道徳的判断は、人が行為の意図および結果についての情報を表現して統合する能力に基づいています。多くの場合、道徳的判断は主に意図によって決定されますが、意図と結果が対立すると、道徳的判断は通常、両方の要素を考慮することで下されます。

 この研究は、テロ行為の罪で投獄されたコロンビア人(全員が殺人罪で起訴され、1人あたりの犠牲者数は平均33人)の右派民兵組織に属する66人と、社会人口学的にマッチさせた非犯罪者(対照群)66人と、投獄中の殺人犯13人を対象に一連の認知・心理テストを実施しました。テストでは、道徳的認知・知能指数(IQ)・実行機能・攻撃的行動・情動認識が評価されました。その結果、テロリストは非犯罪者と比較して、高いレベルの攻撃性および低いレベルの情動認識を示し、道徳的認知にみられる差は、テロリストと対照群のあいだで著しく大きいことが分かりました。

 この研究は、テロリストは他者の行為が道徳的に許容されるか否かを判断するさい、対照群に見られるように意図と結果の両方を統合するのではなく、主に結果に注目することを明らかにしました。この知見は、テロリストの行動規範が手段よりも目的を重視することを示唆している、と指摘されています。さらにこの研究は、歪んだ道徳的判断というパターンは、テロリストのプロファイルの重要な構成要素であるものの、道徳的判断の源と時間経過に伴うその変化を理解するためには、さらに研究が必要だと結論づけています。異なる文化・思想背景のテロリストにも通ずるのか、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


テロリストの道徳的判断

 テロリストの道徳的判断は、行為の結果への異常ともいえる過度の依存に導かれていることが、このたびオンライン版で発表される論文で示唆された。

 テロ行為は、一般社会から容認されない行為であるとみなされるのが普通だが、テロリストは自らの行為を、「目的は手段を正当化する」という論理によって正当化する。しかしながら、テロリストがこのトレードオフをどのようにとらえて道徳的判断を下しているかは十分に分かっていない。典型的な成人の道徳的判断は、人が行為の意図および結果についての情報を表現して統合する能力に基づく。多くの場合、道徳的判断は主に意図によって決定される。しかし、意図と結果が対立すると、道徳的判断は通常、両方の要素を考慮することで下される。

 今回の研究でSandra Baezたちは、テロ行為の罪で投獄されたコロンビア人(全員が殺人罪で起訴され、1人あたりの犠牲者数は平均33人)の右派民兵組織に属する66人と、社会人口学的にマッチさせた非犯罪者(対照群)66人、および投獄中の殺人犯13人を対象に一連の認知・心理テストを行った。テストでは、道徳的認知、知能指数(IQ)、実行機能、攻撃的行動、情動認識が評価された。その結果、テロリストは非犯罪者と比較して、高いレベルの攻撃性および低いレベルの情動認識を示すが、道徳的認知にみられる差は、テロリストと対照群のあいだで著しく大きかった。Baezたちは、テロリストは他者の行為が道徳的に許容されるか否かを判断する際、対照群についてみられるように意図と結果の両方を統合するのではなく、主に結果に注目するということを明らかにした。この知見は、テロリストの行動規範が、手段よりも目的を重視することを示唆していると論文では指摘されている。

 Baezたちは、歪んだ道徳的判断というこのパターンは、テロリストのプロファイルの重要な構成要素であるが、道徳的判断の源、および時間経過に伴うその変化を理解するためには、さらに研究が必要であると結論づけている。



参考文献:
Baez S. et al.(2017): Outcome-oriented moral evaluation in terrorists. Nature Human Behaviour, 1, 0118.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0118
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究極の利他的行為の動機

2017/05/04 00:00
 これは5月4日分の記事として掲載しておきます。究極の利他的行為の動機に関する研究(Vekaria et al., 2017)が公表されました。腎臓を見知らぬ人に提供する行為は、痛みを伴い、犠牲が大きく、標準的ではなくて極めてまれであり、利他主義の典型例とみなすことができます。ヒトの利他主義傾向を高める要因は何なのか、また、その寛大さは他者への純粋な共感から生まれるのか、それとも利己的な動機に由来するのか、といった疑問に対する答えはいまだ得られていません。

 この研究は、腎臓を見知らぬ他人に提供した21人と、マッチする対照者39人の参加者たちによる実験を実施しました。マッチする対照者39人の参加者たちはまず、自身の知る100人を親密さに従って「血縁者」・「友人」・「知人」・「見知らぬ他人」のいずれかに分類しました。次に参加者は、評価後の個々の人たちのそれぞれに対してどれだけの金銭を与える(もしくは与えない)かを決める、「金銭割り当て課題」を行ないました。この課題により、参加者による他者に対する親密さの認識(社会的距離)と、参加者による他者の幸福への価値づけ(社会割引)が測られます。

 課題の結果、極端な利他主義者(自分の腎臓を見知らぬ他者へ提供した人々)は、社会的距離については対照者集団と同様に評価するものの、自分と距離のある他者へ多くの金銭を配分することが判明しました。この研究では、極端な利他主義者は、彼らの社会的距離の認識が誤っているわけではなく、一般的な人々と比較して、見知らぬ他人の幸福に価値を見いだすのだろう、と示唆されています。この結論は、利他的行為の動機は、近縁者を助けたいという願望あるいは互恵行動にある、というじゅうらいの見解と対照的です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


究極の利他主義者

 見知らぬ人に自分の腎臓を提供する人は、一般の人々と比べて、他者の幸福に対する関心が強いことが、今週オンラインで掲載される論文で報告される。今回の研究では、そうした極端な利他主義の基盤を理解するための知見が得られ、犠牲の大きい利他的行為を、友人や家族を越えて見知らぬ人々へも拡張しうる心理学的機構の存在が示唆された。

 腎臓を見知らぬ人に提供する行為は、痛みを伴い、犠牲が大きく、標準的ではなく、極めてまれであり、利他主義の典型例とみなすことができる。ヒトの利他主義傾向を高める要因は何なのか、またその寛大さは、他者への純粋な共感から生まれるのか、それとも利己的な動機に由来するのかといった疑問に対する答えはいまだ得られていない。

 Kruti Vekariaたちによる研究において、腎臓を見知らぬ他人に提供した21人と、マッチする対照者39人の参加者たちはまず、自身の知る100人を親密さに従って、〈血縁者〉、〈友人〉、〈知人〉、〈見知らぬ他人〉のいずれかに分類した。次に参加者は、評価後の個々の人たちのそれぞれに対してどれだけの金銭を与える(もしくは与えない)かを決める「金銭割り当て課題」を行った。この課題によって、参加者による他者に対する親密さの認識(社会的距離)と、参加者による他者の幸福への価値づけ(社会割引)が測られる。課題の結果、極端な利他主義者(自分の腎臓を見知らぬ他者へ提供した人々)は、社会的距離については対照者集団と同様に評価するものの、自分と距離のある他者へ多くの金銭を配分することが判明した。研究チームはこの結果を受けて、極端な利他主義者は、彼らの社会的距離の認識が誤っているわけではなく、一般的な人々と比較して、見知らぬ他人の幸福に価値を見いだすのだろうと示唆している。この結論は、利他的行為の動機は、近縁者を助けたいという願望にある、あるいは互恵行動にある、という従来の考えと対照を成す。

 同時掲載のNews & Views記事ではTobias Kalenscherが、「ナショナリストの抱く保護主義、またポピュリストの抱く個人主義がはびこる昨今の風潮からすれば、今回の研究の結果は未来への希望につながる」と述べている。



参考文献:
Vekaria KM. et al.(2017): Social discounting and distance perceptions in costly altruism. Nature Human Behaviour, 1, 0100.
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-017-0100
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長谷川眞理子、 山岸俊男『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』

2017/04/23 00:00
 これは4月23日分の記事として掲載しておきます。集英社インターナショナルより2016年12月に刊行されました。本書は著者二人の対談で、一般読者層にもたいへん読みやすくなっていると思います。あとがきにあるように、編集者の力量が優れている、ということなのでしょう。さすがに第一人者同士の対談だけあって、じゅうぶん読みごたえがありましたし、教えられるところが多々ありました。

 本書の基調は、人間を特定の環境に適応してきた進化の産物と把握していることです。人間の認知は長期にわたる狩猟採集生活への適応として進化してきたものであり、農耕開始以降の大規模な集団での生活に適応できるだけの進化的時間を経過していない、というわけです。心は「空白の石板」ではなく、たとえば人間の情動には生得的なものもある、という進化学的な知見を前提として、社会を設計していかねばならない、と本書は強調しています。少子化などの社会問題は「心がけ」で解決するものではなく、制度設計が重要ですが、人間の頭脳は進化の産物なので、どんな制度設計も可能というわけではありません。

 人間には他人の心理・意図を推論する能力が備わっているものの、それはあくまでも想像でしかない、ということも本書では強調されています。本書は、破滅へといたる社会の暴走、たとえばアメリカ合衆国との戦争へと突入した日本社会の心理状況についても、そのような観点から説明できるのであり、真珠湾攻撃に喝采した人々が多くいたことも、一方で真珠湾攻撃を知って日本の敗北まで考えた人もいたことも、矛盾するものではない、と指摘しています。歴史の解明にしても、進化学的な観点が必要なのだな、と改めて思った次第です。

 差別と偏見を分けて考えねばならない、との見解など、本書の見解に興味深いものは多く、その全てに直ちに同意するわけではありませんが、今後調べていきたい、と思わせる問題提起が多く、たいへん有益な一冊になっていると思います。本書はグローバル化する現代社会への対応として、「安心社会」から「信頼社会」への移行を提言していますが、正直なところ、著者二人とは大きく異なり「才能のある強い個人」ではない私は、自分にとってはたいへん難しいことだな、とも思ってしまいました。まあ、たいへん情けない話ではありますが。


参考文献:
長谷川眞理子、山岸俊男(2016)『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』(集英社インターナショナル)
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タイトル 日 時
亀田達也『モラルの起源 実験社会科学からの問い』
 これは4月16日分の記事として掲載しておきます。岩波新書(赤版)の一冊として、岩波書店より2017年3月に刊行されました。本書は、人間社会のモラルの基盤を、さまざまな分野の研究成果から検証しています。本書はこれを「実験社会科学」と呼んでいます。実験社会科学とは、経済学・心理学・政治学・生物学など複数の分野の研究者たちが集まり、「実験」という共通の手法を用いて、人間の行動や社会における振る舞いを検討しようとする、新たな学問領域です。 ...続きを見る

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2017/04/16 00:00
加齢によるリスク選好の変化は脳構造の変化に起因する
 これは2月25日分の記事として掲載しておきます。加齢によるリスク選好の変化に関する研究(Grubb et al., 2016)が公表されました。ヒトがリスク(予測できない結果)を伴う意思決定を行うさいには、右後部頭頂皮質という脳領域が活動しています。これまでの研究では、この領域の灰白質の量が若年成人のリスク選好と相関していることが明らかになっています。ヒトでは、昔から知っていて見慣れたものを選ぶ傾向は、年齢を重ねるにつれて顕著になります。ヒトは年をとるとリスクのある決定をあまりしなくなるわけで... ...続きを見る

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2017/02/25 00:00
「男脳」「女脳」のウソはなぜ、どのように拡散するのか
 これは2月20日分の記事として掲載しておきます。表題の記事がナショナルジオグラフィックに掲載されました。正直なところ、表題を読んだ時には、男女には本質的な違いはないとか、性別を重視すること自体が社会的に構築されたものだとか、性別自体が生物学的に否定されているとかいった言説が展開されるのではないか、とかなり警戒したのですが、以前からの私の見解にひじょうに近いところがあり、かなり同意できる内容でした。もっとも、表題の記事で男女差の事例とされた課題実験も、社会的に構築された性差の構造に起因するものに... ...続きを見る

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2017/02/20 00:00
不正を続けると不正への脳の感受性が低下する
 不正直な行動と脳の感受性に関する研究(Garrett et al., 2016)が公表されました。この研究は、18〜65歳の80人に参加してもらい、第1被験者に1ペンス銅貨入りのガラス瓶の画像を見せて銅貨の数を見積もらせ、その数を第2被験者に伝えさせる、という実験を行ないました。この研究は、(1)第2被験者が不利益を受けて第1被験者が利益を得る、(2)第1被験者も第2被験者も利益を得る、(3)第1被験者が不利益を受けて第2被験者が利益を得る、(4)第1被験者だけが利益を得て、第2被験者は影響を... ...続きを見る

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2017/02/16 00:00
社会規範の違反の程度と応答
 これは2月8日分の記事として掲載しておきます。社会規範の違反の程度と応答に関する研究(Balafoutas et al., 2016)が公表されました。この研究は、ドイツの駅で軽微な違反行為(コーヒー用の紙コップのポイ捨て)と重大な違反行為(コーヒー用の紙コップと何かが入っている紙袋のポイ捨て)を演出し、800回以上の試行によって旅行者の反応を記録しました。これらの試行で、違反の大小はポイ捨てをした者が叱責される可能性や叱責の程度に影響を及ぼしませんでした。 ...続きを見る

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2017/02/08 00:00
社会的ネットワークにおける富の不平等と可視性
 社会的ネットワークにおける富の不平等と可視性についての研究(Nishi et al., 2015)が公表されました。富の不平等と富の可視性は、社会における協力行動のレベルや全体的な経済的繁栄のレベルに影響を及ぼす可能性があります。この研究は、オンラインゲームを用いて、この両要因がどのように相互作用するのか、調べました。その結果、プレーヤーが他者の富について知らないかぎり、富の不平等だけでは協力行動も全体の富も損なわれないことが明らかになりました。しかし、プレーヤーの富が他者に見える場合には、不... ...続きを見る

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2015/10/22 00:35
人間の協力性
 人間の協力性についての研究(Peysakhovich et al., 2014)が公表されました。この研究は、1400人以上の被験者の参加した協力ゲーム・規範強制型懲罰ゲーム・競争ゲームの結果から、協力するという決定がさまざまなシナリオにわたって相関するかどうか、検証しました。その結果、さまざまな協力ゲームにおける参加者の意思決定に相関が認められ、ゲームにおける意思決定がゲーム以外の状況下での自己申告に基づく協力の指標および実際の協力の指標の両者と相関していたことも明らかになりました。さらに、... ...続きを見る

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2014/09/25 00:00
社会学と生物学
 昨日このブログにて取り上げた高橋征仁「遺伝子共同体としての家族―マルクス主義フェミニズムからダーウィニアン・フェミニズムへの道」にはたいへん興味深い指摘が色々とあり、昨日の記事では取り上げきれなかった問題もあるので、少し補足しておきます。高橋論文では安藤寿康『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(関連記事)も引用されています。同書では「環境論者」が熱心に批判されているのですが、私はこの問題に疎いので、「環境論者」が本当に遺伝子の影響を軽視したような主張をしていたのか、あるいは「環境... ...続きを見る

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2014/07/19 00:00
高橋征仁「遺伝子共同体としての家族―マルクス主義フェミニズムからダーウィニアン・フェミニズムへの道」
 表題の論文を(高橋.,2013)読みました。ひじょうに興味深い論文で、納得できるところが多々ありました。本論文が社会学の研究者の間でどのように受け止められたのか、社会学に疎い私にはよく分かりませんが、社会学の研究者と会話をする機会があれば、尋ねてみたいものです。社会学に疎い私でも、進化学関連で色々と情報を収集していると、社会学の側に生物学への警戒感が根強くありそうだな、とは感じてきました。本論文は、義務でもないのに、進化や遺伝子という言葉を掲げ、ジェンダー研究や家族社会学の領域に足を踏み入れよ... ...続きを見る

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2014/07/18 00:02
人種・民族の違いと人種差別
 「人種と民族の違いを知っていますか?」という表題のブログ記事が話題になっていたので読みました。「gingin1234」氏の ...続きを見る

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

2012/08/23 20:19
視覚的な人種偏見
 テレビでの非言語的振る舞いが、視聴者の人種的偏見に継続的な影響を及ぼしていることを指摘した研究(Weisbuch et al., 2009)が公表されました。この研究では、人気番組から集めた複数の場面が編集され、特定の登場人物が一場面から取り除かれて、その場面の他の登場人物が、まだ見ぬその登場人物にどのていど好意的に接しているかを評価するよう、大学生のグループに指示されました。学生らは、ゴールデンタイムに放送される人気番組11本の登場人物について、否定的な非言語的行動が白人よりも黒人に対して示... ...続きを見る

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2010/01/26 06:50
指導者選出の基準は顔?
 指導者選出の基準について論じた研究(Antonakis, and Dalgas., 2009)が公表されました。この研究では、指導者選出の基準の1つとして、顔が重要なのではないか、と指摘されています。これは、多くの人の直感的な考えとも一致するでしょうし、常識に近い見解の再確認と言えるかもしれません。ただ、そうしたことをしっかりと実証していくことこそ学問と言うべきでしょう。 ...続きを見る

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2009/03/01 00:00

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