『イリヤッド』101話「始皇帝の墓」(『ビッグコミックオリジナル』8/5号)

 最新号が発売されたので、さっそく購入しました。今回は巻頭カラーで、しかも、7月6日に述べたように、前号に期待させてくれる次号予告が掲載されていたので、本当に楽しみに待っていたのですが(笑)、その内容はというと・・・まずは、いつものように解説を交えつつ粗筋の紹介を。

 前号の予告通り、今回の舞台は中国の始皇帝陵です。入矢とゼプコ老人と呉文明(リチャード=ウー)は、始皇帝陵の盗掘を計画し、始皇帝陵に集結しました。呉文明は掘削用の道具だけではなく、ガスマスク・拳銃・ナイフも用意しました。
 『史記』には、始皇帝陵の地下には水銀の海や川が作られた、との記述があり、じっさい、中華人民共和国になってからの調査で、始皇帝陵の水銀濃度がひじょうに高いことが判明しているので、その対策としてガスマスクが必要というわけです。また、拳銃・ナイフは、「山の老人」対策です。

 場面は変わって香港の翼馬グループのビルの一室です。異母弟の呉文明より翼馬グループ総帥の座を受け継いだ呉規清が、一人の老人を呼び、面会しています。じつはこの老人こそ、翼馬グループに買収工作を仕掛けていた人物で、裏で呉規清ともつながっていたというわけです。
 呉規清は、この老人の株買占め計画に乗り、弟に株を売るか否か態度を明確にせず、弟を困らせる、というつもりだったのですが、意外にも弟が自分に翼馬グループ総帥の座を譲ったので、予定変更になったと告げるために老人を呼んだというわけです。

 呉規清は、弟は趣味の世界に身をおきたいと言い、我々兄弟のわだかまりは氷解し、友情すら芽生えた、と老人に語ります。これにたいして老人は、「で、彼をアトランティスの旅に送り出した?」と呉規清に問いかけます。
 老人が弟の趣味がアトランティスであることを知っていたのに驚いた呉規清は、この老人が、弟より聞いていた暗殺結社の一員であることに気づきます。老人は、「参商の如し」については独自の解釈をもっていると言い、兄弟は本当に仲が悪かったのだろうか?と疑問を呈します。さらに老人は、「あなたは暗殺者・・・・・・」との呉規清の発言を受けて、「むやみに人を殺す結社なぞ、存在しませんよ。我々はいつもやりたくないんだ」と言います。グレコ神父の言動などからも明らかでしたが、「山の老人」は好き好んでアトランティス探索者を殺害しているというわけでない、ということが改めて確認できる発言です。
 最後に老人は、買収をしかけて呉文明を本業に釘付けにして、アトランティスに手を出せないような状況に追い込んだのに、兄であるあなたがうかれて総帥の座を継いだ、呉文明に何かあったらあなたの責任だ、と言い放ち、立ち去ります。これを聞いた呉規清は、自分の行為(明確に描写はされていませんが、おそらくは、軽率に弟から総帥の座を継ぎ、弟自ら望んだこととはいえ、弟を危険なアトランティス探索に向かわせてしまったこと)を後悔します。

 一方、始皇帝陵に終結した、入矢・ゼプコ老人・呉文明の三人は、『千一夜物語』の中国語版に見える「二十八、二十一、三、左後ろ足を東南に伸ばし、空色の龍に向かう」との暗号の解読とともに、始皇帝の謎に迫るもうひとつの手がかりとなる『秦始皇伝奇』について論議していました。
 それによると、始皇帝の実父である呂不韋には、正妻との間に信という長男がいて、彼は徐福のような方士であり、始皇帝のために不老不死の薬を捜し求めていたが、始皇帝に殺され、始皇帝も彼のために殺されたとあります。病に伏したとき、異母兄である呂信が調合した 水銀入りの薬を飲んだため、始皇帝は死亡したというわけです。
入矢は、呂信・始皇帝兄弟の話が、「参商の如し」の故事の原型ではないかと推測します。『秦始皇伝奇』には、始皇帝が異母兄の呂信を殺すさい、「吾は神となり不死となり現世を治むる・・・・・・兄は死して冥界の王となれ・・・・・・吾甦る時、冥界の王の許しを乞わん」とあり、お互いに活躍の場を分けようという考えが、「参商の如し」の故事に通じるというのです。
 また入矢は、呉規清と面会した老人と同様に、兄弟の仲は悪いだけではなく、良いという側面もあったのではないか、と推測しています。「冥界の王」といえば、テネリフェ島の山中ピラミッドに安置されていたミイラもそう呼ばれていました。「冥界の王」も重要な鍵となりそうです。

 西安市内の料理店に入った三人は、検討を続けます。中国では古代より、国を守るには四匹の神獣が東西南北に必要だったとされています。すなわち、東方蒼龍(青龍)・北方玄武・西方白虎・南方朱雀です。
 前号で、「二十八、二十一、三」はオリオン座のことと判明していますので、問題は、「左後ろ足を東南に伸ばし、空色の龍に向かう」の箇所です。オリオン座は、古代中国では西方白虎の四肢と考えられていました。始皇帝陵にオリオン座を重ねて四肢を伸ばすと、東南に伸びた脚は驪山にぶつかります。オリオン座と対で語られるさそり座は、中国では空を舞う龍とされていて、「空色の龍に向かう」と合致しそうです。
 驪山では、文字の刻まれた亀甲・獣骨が出土し、中国人はそれを長く龍の骨と信じていました。また、驪山付近には、「方士塚」という名の洞穴があります。これらのことから入矢が、始皇帝は自らの甦りを信じ、異母兄の塚から地上に通じる抜け道を作っていたのではないか、と推測するところで今回は終了です。

 今回は、盗掘の準備段階の描写で、話が大きく進んだというわけではありませんが、『秦始皇伝奇』などから新たなヒントが示され、なかなか興味深い回だったと思います。ただ、派手な前号予告からすると、少々期待はずれでした。
 今回の冒頭で、始皇帝が不老不死の秘密を求め、学者や賢者を東西南北世界中に派遣した、と語られています。となると、98話にて始皇帝陵に「ソロモン王の壺」がある可能性が語られたとき、推測したように、徐福伝説と絡ませるのかな、と思ったのですが、どうやら本命は、呂不韋の長男である呂信という架空の人物で、徐福はあまり関わらないようです。

 おそらく、不老不死について興味をもった始皇帝は、異母兄の呂信などに不老不死の薬を探させている途中で、アトランティス伝説を知ったのでしょう。黄金の楽園アトランティスに興味をもった始皇帝は、そこに不老不死の薬を得る手がかりがあると考え、アトランティスの探索を進めさせ、呂信経由で「ソロモン王の壺」を入手したものと思われます。
 ここで問題となるのは、異母兄弟の関係にある始皇帝と呂信がお互いを殺しあった理由です。『秦始皇伝奇』の「吾は神となり不死となり現世を治むる・・・・・・兄は死して冥界の王となれ・・・・・・吾甦る時、冥界の王の許しを乞わん」との記述からは、どうもよく分かりません。この記述からは、たんに仲たがいして異母兄を殺害したというわけでもなさそうです。あるいは、「人類がぜったい知るべきではない、太古の呪われた秘密」とも関係があるのでしょうか。

 次号では、三人が「方士塚」に赴いて抜け道を探すということになるのでしょうが、ピツラ博士やバトラー神父から、始皇帝陵に「ソロモン王の壺」があると「山の老人」が昔より知っている、との報告を受けていると思われるのに、資産家の呉文明が護衛を連れてきていないのは納得がいきません。確かに、盗掘するのだから大人数では目立ってよくない、との考えはあるでしょうが、それにしても、ある程度の護衛は必要でしょう。
 「山の老人」の幹部たちは、テネリフェ島の「冥界の王」のピラミッドを入矢たちが調査した件について、後手に回ったと後悔していましたので、今回は、早めに手を打ってくるでしょう。入矢がアトランティス探索に乗り出してからというもの、「入矢側」の主要人物で死んだ者はいないのですが、この始皇帝編では、ゼプコ老人と呉文明のどちらか、あるいは両方とも命を落としそうな気がします。二人ともお気に入りのキャラなので、何とか無事でいてほしいのですが・・・。

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