『イリヤッド』104話「廟の中」(『ビッグコミックオリジナル』9/20号)

 最新号が発売されたので、さっそく購入しました。前号では、入矢・ゼプコ老人・呉文明(リチャード=ウー)の三人がついに始皇帝陵の地下宮殿に到達し、その中央にある始皇帝の廟へとつながっている橋をどう渡るか思案中・・・というところで終わりました。
 「山の老人」の一員である張が、「私は殺し屋を差し向けるつもりは毛頭ない」と言っていたので、自動発射仕掛けの弩以外の罠がいくつかあるのではないか、と推測していたのですが・・・。

 さて、今回の話は、イタリアのシエナにある広場で仰向けに寝て空を眺めているグレコ神父を、102話で登場した「山の老人」の連絡員が訪ねる場面から始まります。台湾の張を訪ねてきた連絡員は、始皇帝陵には恐ろしい仕掛けがあるので、ぜったいに生きて戻れないから、わざわざ追っ手を差し向ける必要はない、との張の言葉をグレコ神父に伝えます。さらに連絡員は、張によると、中国の「山の老人」は代々始皇帝陵を守り続けてきて、「彼の島」の手がかりを取り除いた、とも報告します。
 二人はレストランに入り、シエナの名物であるピィチと兎肉のラグーソースを食べます。兎は最古の文明を築いた人々、つまりアトランティス人の象徴ですから、このさりげない描写にもなにか意味があるのかもしれません。グレコ神父は、始皇帝陵には手がかりがない、という張の報告に懐疑的で、「山の老人」が見つけられなかった何かとんでもないものを入矢が見つけるのではないか、と不安に思い、胸騒ぎを覚えます。

 一方、ついに始皇帝陵の地下宮殿に侵入した入矢・ゼプコ老人・呉文明の三人ですが、始皇帝の廟へとつながっている自動発射仕掛けの弩を前に、どう渡ってよいものかと悩み、入矢が、「わかったぞ、馳道だ!皇帝のみが通れる道だ!!」と叫んだところで前号は終了しました。
 ところが今回、入矢はすぐには橋を渡らず、地下宮殿の壁面を調べ、デジカメで撮影します。「冥界の王」のピラミッドを調査したときはカメラを持っていかなかったようですが、今回はしっかりと用意していたのには安心しました(笑)。

 壁面を調べた入矢は、始皇帝陵にはアトランティスの手がかりがないと悟ります。入矢は、壁画が自然風化したように偽装されているが、じつは何者かに剥がされていることに気づき、アトランティスの手がかりは、「山の老人」が取り除いたのだろう、と推測します。13話(2巻所収)にて、始皇帝陵には「太古に西の海で消えた巨大な都市の絵」が描かれていた、との記述が『東方見聞録』祖本にある、と語られていますので、それが剥がされたのかもしれません。また、自動発射仕掛けの弩も、「山の老人」が定期的に保守していたのだろう、というわけです。
 そうなると、三人が探していた「ソロモンの玉」も、すでに持ち去られたということになります。入矢は、始皇帝の廟には危険を冒してまで行く必要はないが、判断はそれぞれに任せる、と言います。入矢は、危険を承知で橋を渡るというわけで、これを聞いたゼプコ老人と呉文明も、ともに橋を渡ることを決意します。

 ではどうするのかというと、前号での予想通り、橋の真中を貫く、細くて盛り上がった通路を馳道とみなして、そこを渡って行くというわけです。入矢を先頭に、ゼプコ老人・呉文明の順で橋を渡り、先に橋を渡った入矢は、二人を待つ間、デジカメで天井を撮影します。そこには、西方白虎とオリオン座が描かれており、星の部分は金箔でできていました。
 始皇帝の廟に到着した三人は、扉を、地下宮殿の扉と同様に引いて開け、いよいよ中へと侵入すると、そこには多数の武人姿の陶俑が配置されていました。周囲の壁の材質は柏で、「黄腸題湊」という独特の防腐加工がなされていました。
 壁には、中国神話の三柱の神の絵が描かれていました。人の頭に蛇の体を持ち、八卦や文字や結婚を定めた男神「包犠」、同じく蛇の体を持ち、傾いた天地を元に戻したという女神「女媧」、頭が牛で、人間に農業・医学・商業・易をさずけた「神農」です。

 さらに奥に進むと、またしても扉があり、開けると、ついに始皇帝の棺の安置されている部屋が姿を現します。中に入った三人の前に現れたのは、二つの石像でした。一つはソロモン王、もう一つは、煎じれば不死となる魔法の草を海底から見つけたとされる、メソポタミアの英雄ギルガメッシュです。ともに中国から遠く離れた地の英雄ですが、ソロモンは、「ソロモンの玉」を求めたこと、ギルガメッシュは、不老不死を願って手を尽くしたということで、いずれも始皇帝とは強いつながりがあったのでしょう。
 ゼプコ老人は、万一「ソロモンの玉」があるとすれば始皇帝の棺の中だろうということで、すぐにも開けようとしますが、入矢は制止して、まず棺の形状や材質の調査をしよう、と言います。棺を調べていた入矢は、棺の側面に落書きがあるのに気づきます。それはラテン語で、入矢が「偉大なるアーサー王」と解読したところで、今回は終わりです。
 暗殺部隊を差し向けようとしない張の余裕からすると、自動発射仕掛けの弩以外にも何か仕掛けがありそうですが、今のところそれらしきものはなく、あっさりと始皇帝廟の侵入に成功してしまいました。もし、入矢・ゼプコ老人・呉文明が重要な手がかりをつかんで生還したとしたら、張は処刑されるのでしょうか。

 今回は、注目すべき新情報はありましたが、その謎解きまでは進まず、次号がじつに待ち遠しくなります(笑)。予告では、「始皇帝陵から脱出をはかる入矢に思わぬ窮地が・・・」とありますので、始皇帝の棺で何かを得た後脱出しようとすると、新たな罠が待ち構えているということなのでしょうか。
 始皇帝陵からアトランティスの手がかりは取り除かれている、と102話で語られていただけに、この始皇帝編ではあまり新情報は期待できないかな、とも思っていたのですが、グレコ神父の危惧通り、どうやら「山の老人」が見落とした手がかりを入矢が見つけそうで、次号以降も見逃せません。
 注目すべき新情報は、始皇帝の棺に書かれていたラテン語の「偉大なるアーサー王」です。そもそも、入矢はアーサー王の研究者で、アーサー王の聖杯伝説が「山の老人」の成立の謎と関わっていることが、59話(8巻所収)にて語られています。ついに、これまで張られてきたさまざまな伏線が結びつき、アトランティスにまつわる謎の解明に向かうことになるのでしょうか。

 101話の予告にて、「入矢は遂に、アトランティスの謎に迫る“真の道”へと歩を進める。だがそれは、進むことも戻ることも許されぬ危険な道だった・・・!?」と謳われていたわりには、どうも「真の道」はまだ遠そうだなあ、という展開が続いていたのですが、ついに、「山の老人」も見落としていた、「真の道」へと進む手がかりを、始皇帝の棺で発見することになるのかもしれません。
 「偉大なるアーサー王」と記した人物が何者なのか、その目的が何なのか、現時点では私にはさっぱり分からないのですが、次号にて、その謎の一部でも解明されることを期待していますし、本当に楽しみです(笑)。

 さて、これで単行本では13巻分まで連載が進んだことになります。13巻は始皇帝編の途中で終わることになるので、区切りのよい11巻とは異なり、単独での評価は難しいところですが、ヒューマンストーリーを盛り込みつつ歴史ミステリーが進行するという『イリヤッド』らしい構成で、100話「参商の如し」のような高水準の話も入っていることから、なかなか読み応えのある内容になっています(発売はずいぶんと先でしょうが)。
 単行本別でみると、13巻は11巻に次ぐ面白さになっています。次号からは、14巻所収予定となりますが、14巻が、11巻以上の面白さになることを期待しています。そろそろまとめに入ったかな、という感じなので、単行本でいうと、16~17巻あたりで完結でしょうか。

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