更新世中期の人類の分類学(ハイデルベルゲンシスとは何者か?)

 フィラデルフィアで開催された米国自然人類学会総会のフロレシエンシスに関する報告については、3月31日分でも述べましたが、
http://sicambre.at.webry.info/200703/article_32.html
ほかにもいろいろと興味深い報告があり、今回はそのうちの一つについて述べようと思います。
http://www.physanth.org/annmeet/aapa2007/aapa2007abstracts.pdf
のP167に概要が掲載されています。

 更新世中期の、脳が大きくエレクトスではない人類については、以前は「古代型ホモ=サピエンス」と分類されることが多かったのですが、近年では、「ホモ=ハイデルベルゲンシス」と分類されることが多くなりました。しかし、ハイデルベルゲンシスと分類されている人類集団の多様性は大きく、複数種に分類するほうがよいのではないか、との見解もあります。そこで、ハイデルベルゲンシスと分類されている人類集団の頭部・顔面のデータを集め、現代人・更新世後期の現生人類・ネアンデルタール人・エレクトス(エルガスター)と比較したところ、一つの種に収まらないほどの変異幅がある、との結論にいたりました。

 ハイデルベルゲンシスまたは古代型ホモ=サピエンスと分類されている人骨には、アフリカのボドとカブウェ出土のもの(年代は曖昧ですが、ともに30万年前頃とされています)や、中国の大茘出土のもの(23~18万年前頃とされています)などがあります。ボドとカブウェの人骨は、頭の高さと顔面の形状の点で、他のハイデルベルゲンシスと大きく異なり、大茘の人骨は、頭の低さと突出していない顔面という独特の解剖学的特徴を示していました。こうした分析の結果、ハイデルベルゲンシスまたは古代型ホモ=サピエンスと分類されている人骨は、ヨーロッパ・アフリカ・アジアで系統的に異なり、複数種に分類するのが妥当だろうという結論になっています。

 人類種区分の難しさはいまさら言うまでもありませんが、古代型ホモ=サピエンスまたはハイデルベルゲンシスについては、ホモ=ハビリスのように、分類に悩む人骨を何でも放り込んできたという側面があり、種の水準で異なるかどうかはともかくとして、複数の集団に分類したほうがよい、との見解が提示されるのは当然だろうと思います。私も昨年執筆した文章では、
http://www5a.biglobe.ne.jp/~hampton/052.htm
ハイデルベルゲンシスについて、「多様性が大きく、複数種に区分するほうが妥当である、という可能性はつねに念頭においておきたい」と述べました。

 ただ、更新世中期の人骨は少ないので、この時代の各地の人骨の種区分や系統関係については、今後もはっきりしない状況が続くものと思われます。また、人類進化はひじょうに複雑だったでしょうから、その意味でも、更新世中期の人骨の種区分や系統関係を解明するのは難しいところがあります。東アジアの大茘人にしても、東アジアのエレクトスから進化したという可能性もありますが、更新世中期のアフリカの人類との関係も考えられます。

 大茘人と現代人との関係についても断言は難しく、大茘人(が属する人類集団)がそのまま東アジアの現代人になった可能性はほとんどないでしょうが、かといって、絶滅したとただちに結論づけるのは時期尚早だと思います(その可能性が高いのは否定できませんが)。あるいは、大茘人のようなユーラシアの先住人類は、完全に絶滅したのではなく、アフリカ起源の現生人類と混血し、吸収される形でその解剖学的特徴を喪失したのかもしれません。

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