人類による海洋資源の利用と象徴的思考の起源

 人類の沿岸地域での居住・恒常的な海洋資源の利用・象徴的思考の起源についての研究報道されました。南アフリカのピナクルポイント付近にある海食洞の更新世中期の堆積物(16万4千年前頃)から、ムラサキイガイを中心とした海洋生物と獣骨とが発見された、とのことです。海洋資源の恒常的な利用の確かな証拠としては、現時点では最古のものとなります。海洋資源の利用は、人類の生活をより定住的にして、人口の増加と社会の複雑化をもたらしたのではないか、と指摘されています。

 そうした社会の複雑化を示唆していると思われるのは、この堆積層から発見されたオーカー(鉄分を多く含んだ粘土)です。オーカーは顔料としても用いられることから、オーカーの使用は人類の象徴的思考の証拠とされています。また、この堆積層からは細石刃も発見されていますが、これは現時点では細石刃の最古の確実な例となり、アフリカの人類は早くから洗練された石器を使用していたことになります。こうした新たな食資源の開発と生活様式の採用は、この時期の寒冷で乾燥した気候に対応したためではないか、と指摘されています。


 以上、この研究と報道についてざっと紹介しました。ピナクルポイント遺跡の担い手がどの人類種なのか、確定していませんが、現生人類である可能性が高いでしょう。昨年9月13日分の記事 でも紹介したように、象徴的思考の起源は20万年前頃でさかのぼる可能性が高くなりました。

 しかし、人類の象徴的思考の起源については、5万年前頃に神経系の突然変異によりもたらされたとする、「創造の爆発論」がリチャード=クライン博士らにより主張されています。ピナクルポイント遺跡の遺物ように、後期石器時代よりも前の象徴的思考の起源の証拠とされるものにたいして、「創造の爆発論」からは、散発的であり象徴的思考の全面的な開花ではない、との批判がなされています。

 しかし、後期石器時代よりも前の象徴的思考の起源を示唆するような証拠は次第に増えてきており、「創造の爆発論」は今ではかなりに劣勢になってきているように思われます。「創造の爆発論」を否定するには、証拠を地道に積み重ねていくしかないのですが、その意味で、ピナクルポイント遺跡の遺物は貴重なものだと言えます。

 おそらく、象徴的思考の起源は20万年前頃よりもさらにさかのぼり、現生人類の直近の祖先種(分類名は一致していませんが、古代型サピエンス、ホモ=ハイデルベルゲンシス、ホモ=ヘルメイなどの名称が用いられています)から現生人類への移行期間(すべてのハイデルベルゲンシスやヘルメイが現生人類に進化したわけではないでしょうが)においてすでに、アフリカの人類(の少なくとも一部)には象徴的思考能力があったのでしょう。

 それが後期石器時代・上部旧石器時代まで全面的に開花しなかったのは、人類の文化の蓄積が一定水準を超えることがなかったからだと思われます。この研究で指摘されているように、気候の変化に伴う人類の食性と生活様式の変化などにより、象徴的思考がじょじょに現れていき、そうした文化的蓄積がある水準を超えると、人類の潜在的な象徴的思考能力が全面的に開花したのでしょう。

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