履物の歴史

 中国の周口店近くの天元洞窟から出土した趾節骨の分析により、人類が遅くとも4万年前には履物を使用していたことが確認された、との研究報道されました。天元洞窟(4万年前頃)と、豪華な副葬品で有名なロシアのスンギール遺跡(27000年前頃)出土の人骨とともに、ネアンデルタール人や現代のプエブロ族・イヌイット族も分析の対象となりました。

 素足で生活していると、趾節骨のうち第三趾骨に大きな力がかかって頑丈になり、靴を履くと親指に大きな力がかかるので、第三趾骨はさほど頑丈にはなりません。じっさい、素足で生活している現代のプエブロ族は頑丈な第三趾骨をしています。靴を履き、たいへん活動的な生活様式のイヌイット族は、やや頑丈な第三趾骨をしています。

 ネアンデルタール人はたいへん頑丈な第三趾骨をしていたので、靴を履いていた様子がまったくない、と解釈されました。天元とスンギールの人類は、体の大きさのわりに第三趾骨が華奢だったので、靴を履いていたと解釈されました。このことから、上部旧石器時代中期までには、人類の履物使用の頻度が高くなったのではないか、と推測されます。

 チューレン大学准教授のトレントン=ホリデイ博士は、この研究におおむね賛同しつつも、ネアンデルタール人の解釈については、おもに氷期の欧州に居住していたネアンデルタール人が、まったく履物を使用しなかったことはありそうにない、と疑問を呈しました。ネアンデルタール人は、足に解剖学的変化をもたらさないような柔らかい素材のものを足に履いていたのではないか、とホリデイ博士は推測しています。

 ホリデイ博士の指摘を受けて、論文の著者の一人でネアンデルタール人研究の世界的権威であるエリック=トリンカウス博士は、現代でもブルガリア東部やルーマニアのように寒冷な地域において靴を履かない人がいると指摘し、ネアンデルタール人は頻繁に素足で行動しただろうと言いつつも、ネアンデルタール人は履物を使用した可能性がある、とのホリデイ博士の見解に同意しました。

 以上、この研究と報道についてざっと見てきましたが、趾節骨の分析から履物の使用を検証するという試みは、なかなか興味深いものです。都合よく古人類の趾節骨が残っているということはあまりありませんが、今後、さらに分析対象を拡大して検証が進むことを期待しています。


参考文献:
Trinkaus E, and Shang H.(2008): Anatomical evidence for the antiquity of human footwear: Tianyuan and Sunghir. Journal of Archaeological Science, 35, 7, 1928-1933.
http://dx.doi.org/10.1016/j.jas.2007.12.002

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