FOXP2遺伝子の研究からみたネアンデルタール人と現生人類の混血の可能性

 言語能力に関わるとされるFOXP2遺伝子は、現生人類の進化の研究において注目されてきました。現生人類のFOXP2遺伝子には特有の変異があり、この変異がここ20万年間の間に生じたとされていたので、これにより当時の一部の現生人類は現代人と変わらないような言語能力を獲得し、この変異を持たない他の現生人類(解剖学的現代人)集団や、ネアンデルタール人など当時まだ存在していた現生人類以外の人類集団にたいして優位に立ったのではないか、と推測されました。

 しかし、ネアンデルタール人も現代人と同じFOXP2遺伝子の変異を持っていることを報告した研究(Krause et al., 2007)が昨年公表され、このブログでも昨年10月24日分の記事で取り上げました。そのときに紹介しましたが、ネアンデルタール人のDNA標本が現代人のDNAにより汚染されている可能性は、研究者たちも認めていました。


 こうしたなか、今回新たにオンライン版で、この問題についての報告(Coop et al., 2008)が公表されました。オープンアクセスではないので、要約しか読んでいませんが、ジョン=ホークス博士のブログの記事でやや詳しく内容を知ることができました。

 上記の研究では、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統とが分岐する前に、現代人の持つFOXP2遺伝子の変異が生じたのではないか、とされています。したがってその変異が生じたのは、少なくとも30万年以上前ということになります。しかしこの報告では、ネアンデルタール人のDNA標本が現代人によって汚染された可能性を排除するだけの強い根拠は認められないとされ、改めて汚染の可能性が指摘されています。

 さらにこの報告では、現代人型のFOXP2遺伝子において、直近の共通祖先の存在年代が42000年前頃と推定されることから、現代人による汚染ではなく、本当にネアンデルタール人も現代人型のFOXP2遺伝子の変異を持っていたとしても、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統が分岐する前にこの変異が起きたとは考えにくく、現生人類からネアンデルタール人へ、またはその逆方向で、低頻度ながら遺伝子流動があったのではないか、と示唆されています。

 ネアンデルタール人と現生人類との間交雑(混血)の有無をめぐる議論は、古人類学界において高い関心を集めている問題です。今後、ネアンデルタール人のゲノム解読が進むとともに、より多くのネアンデルタール人骨からDNAを抽出できるようになれば、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑があったことが証明されるのではないか、と期待されます。


参考文献:
Coop G. et al.(2008): The Timing of Selection at the Human FOXP2 Gene. Molecular Biology and Evolution, 25, 7, 1257-1259.
http://dx.doi.org/10.1093/molbev/msn091

Krause J. et al.(2007): The Derived FOXP2 Variant of Modern Humans Was Shared with Neandertals. Current Biology, 17, 1908-1912.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2007.10.008
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