柳江人頭蓋のスキャン画像と現生人類の起源(追記有)

 1958年に中国の広西チワン族自治区で発見された人骨(柳江人)はホモ=サピエンス(現生人類)に分類されており、東アジアでは最古のサピエンス人骨とされています。その柳江人の頭蓋の3DのCTスキャン画像を作成し、分析した研究(Wu et al., 2008)が報道されました。この報道で紹介されていた元論文に接続できなかったので、この報道に依拠して雑感を述べていくことにします。

 この研究によると、柳江人と現代中国人を比較すると、縮小した小脳などの点で違いがあるものの、丸い形の脳・膨らんで広い前頭葉・脳の高さ(エレクトスやネアンデルターレンシスのように額が低いのではなく高い)など、共通する特徴が見られ、柳江人の頭蓋は現生人類のものとされましたが、それ自体は意外なことではありませんでした。

 しかし、恥ずかしながら今回はじめて知ったのですが、柳江人の年代は少なくとも68000年前頃になるものの、139000~111000年前という可能性のほうが高そうで、あるいは153000年前までさかのぼる可能性がある、と指摘した研究(Shen et al., 2002)が6年も前に公表されているとのことです。もしその年代が妥当なものだとすると、この研究はサピエンスの起源をめぐる論争にも重要な意味を持つことになります。

 柳江人の年代については、67000年前頃とされているものの、おそらくもう少し新しいのではないか、との見解(Lewin.,2002,P174)くらいしか知らなかったので、10万年以上前までさかのぼる可能性が指摘されていたとは、本当に驚いてしまいました。中国の形質人類学・考古学において、現生人類の多地域進化説がいまだに有力な説とみなされている理由の一つは、おそらくこの年代測定結果があるからなのでしょう。

 ただ、柳江人の年代には曖昧なところがあります。上限値を採用した場合は、エチオピアのヘルト人(ホモ=サピエンス=イダルツ)と同じくらいの年代となりますが、それでも195000年前頃とされるエチオピアのオモ1号よりは新しいことになります。もっとも、オモ1号の年代も曖昧ではありますが、最近の研究からは、20万年前に近い可能性が高くなったように思います(関連記事)。ほとんど現代的と言ってよいオモ1号が20万年前近くにアフリカにいたとなると、アフリカにおけるサピエンスの起源は30~20万年前頃までさかのぼる可能性があります。ただ、オモ1号は復元にも疑問が呈されています(Tattersall.,1999,P157)。

 現時点では、オモ1号も柳江人もその位置づけに曖昧な点が残されていますが(ヘルト人の年代はこれらと比較するとかなり厳密と言えます)、現在通説となっている現生人類のアフリカ単一起源説を通説から引きずりおろすためには、柳江人の年代が153000年前までさかのぼることと、オモ1号の年代が15万年前以降であるか、オモ1号の復元が間違っている(サピエンス的特徴が弱い)ことを証明する必要があります。これは証明が難しそうですし、おそらく可能性も低いでしょう。現時点では、現生人類のアフリカ単一起源説を否定するのは無理だろう、というのが私の率直な感想です。

 柳江人の年代が139000~111000年前だとすると、興味深いのは、ジャワ島では現生人類のものと思われる125000年前頃の歯が発見されている、との指摘です(Morwood et al.,2008,P115)。現生人類は、通説よりもずっと早い15万年前頃に、ユーラシアとその周縁部に進出した可能性があります。もっとも、これまでの遺伝学的研究成果からは、出アフリカを果たしたこの早期現生人類は絶滅してしまい、現代人の祖先にはならなかった、とも考えられます。

 しかし、現代の非アフリカ人の主要な遺伝子供給源となった、7~6万年前頃に出アフリカを果たした集団と、ユーラシアとその周縁部に早期に進出した現生人類集団との間で交雑があり、前者のほうが数で優勢だったため、後者に由来するミトコンドリアやY染色体のDNAが現代人には発見されていない、との想定も可能でしょう。

追記(2008年10月4日)
 この報道の元論文(WU et al., 2008)を見つけました。なお、柳江人の年代がさかのぼる可能性を指摘した研究について、上記では恥ずかしながらはじめて知ったと述べましたが、じつは昨年読んだ本のなかに記述されていることに気づきました(Oppenheimer.,2007,P197-198)。恥の上塗りとはまさにこのことであり、己の不注意を恥じるばかりです。



参考文献:
Lewin R.著(2002)、保志宏訳『ここまでわかった人類の起源と進化』(てらぺいあ、原書の刊行は1999年)

Morwood M, and Oosterzee PV.著(2008)、馬場悠男監訳、仲村明子翻訳『ホモ・フロレシエンシス』上(日本放送出版協会、原書の刊行は2007年)
関連記事

Oppenheimer S.著(2007)、仲村明子訳『人類の足跡10万年全史』(草思社、原書の刊行は2003年)、関連記事

Shen G. et al.(2002): U-Series dating of Liujiang hominid site in Guangxi, Southern China. Journal of Human Evolution, 43, 6, 817-829.
http://dx.doi.org/10.1006/jhev.2002.0601

Tattersall I.著(1999)、高山博訳『別冊日経サイエンス 最後のネアンデルタール』(日経サイエンス社、1999年、原書の刊行は1995年)

WU XiuJie. et al.(2008): The brain morphology of Homo Liujiang cranium fossil by three-dimensional computed tomography. Chinese Science Bulletin, 53, 16, 2513-2519.
http://dx.doi.org/10.1007/s11434-008-0263-z

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