『イリヤッド』におけるありそうな設定

 『イリヤッド』はフィクションなので、当然のことながら創作史料・遺跡などが出てくるのですが、それらのなかには、あっても不思議ではなさそうなものも多く、『イリヤッド』がきょくたんに現実離れした作品にならなかった要因になっているように思われます。たとえば、作中で重要な役割を担った『東方見聞録』祖本は、じっさいに存在していたとしてもまったく不思議ではありません。

 『東方見聞録』祖本ほど、作中で重要な役割を担ったわけではありませんが、呂不韋の長男である呂信も、じっさいに存在していても不思議ではありません。『イリヤッド』では、始皇帝の実父は呂不韋という説が採用されており、呂信は始皇帝にとって異母兄との設定になっています。呂不韋には始皇帝以外に息子がいたのか、『史記』では定かではありませんが、始皇帝よりも年長の息子が呂不韋にいたとしても、不思議ではありません。

 『三國志蜀書』「李呂馬王張傳第十三」の裴松之の注によると、孫盛『蜀世譜』には、秦は呂不韋の子弟や一族を蜀漢に移住させた、との記述があるそうです。ここでも、呂不韋に息子がいたか定かではありませんが、この記述を信用するならば、子弟とあることから、呂不韋に息子がいた可能性は高そうです。もっとも、『蜀世譜』は東晋時代の作なので、500年以上も前の出来事が正確に伝えられているのか、疑問が残るところです。


参考文献:
司馬遷著、野口定男訳(1996)『平凡社版中国の古典シリーズ1 史記 中』初版第16刷(平凡社、第1刷は1972年刊行)

陳寿著、裴松之注、井波律子訳(1993)『正史三国志5 蜀書』(筑摩書房)

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この記事へのコメント

kiki
2009年01月02日 02:53
あけましておめでとうございます!
今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

ご無沙汰しております!
コメントはしていませんが、ときどきチェックに伺っていますw。
今年も劉公嗣さんの興味深い記事を楽しみにしています。

今、劉公嗣さんの記事に刺激されて13巻を読み直していますw。

私の最近一番面白かったとおもったのは、ツタンカーメンのCTスキャンの
リポートでした。考古学ってとても興味深いです。




2009年01月02日 09:53
kikiさん、お久しぶりです。

『イリヤッド』について言及する機会は激減してしまいましたが、今後もよろしくお願い申しあげます。

もう一度『イリヤッド』を最初から読み直してみようとも考えているのですが、未読の本・論文がたまっているので、『イリヤッド』まで手が回らないという状況です。

最初から読み直せば、新たな発見もあるかな、とも思うのですが。
イリヤノファン
2009年09月03日 23:20
管理人さん、お久しぶりです。
イリヤッドの続編・・・やっぱないですよねぇ。

今日は小説の紹介です。デイビッド・ギビンスの「アトランティスを探せ」です。
作者は元水中考古学者。本編の主人公も水中考古学者。
アトランティス探索のロマンと、テロリストとの戦闘アクションが融合した作品です。やや、潜水艦や軍事兵器の専門用語や地質学の専門用語が多くて分かりにくいですが・・・

本作品では、アトランティスは黒海にあるとしています。主な設定は以下のとおりです。

・紀元前六千年頃まで、ボスポラス海峡は陸で塞がっており、黒海は淡水湖であった。
・アトランティスは肥沃な土地で、都市国家を築いた。
・氷河が溶けて海面が上昇、さらに地殻変動が伴って、地中海からボスポラス海峡を超えて海水が流れ込み、アトランティスは黒海に沈んだ。
・アトランティス人は黒海から脱出。エジプト、インダス、クレタ、トロイ等に移り、文明の祖となる。
・アトランティスこそインドヨーロッパ語族の祖先。
・脱出の記憶がノアの箱舟の伝説になる。
・アトランティスは神官王が支配。
・神は旧石器時代から続く、地母神。
・火山を聖域にしている。生贄は雄牛。
・世界初の青銅文明
・アトランティスの文字はフェストスの円盤と同じ。

まぁ、小説と言えば小説ですが、「なるほど」と思わせる内容でした。
それも、この本の元ネタである「黒海洪水説」の信憑性次第なのですが。
読んでみてはどうですか?
2009年09月04日 07:07
これはお久しぶりです。

面白そうなので、読んでみるつもりです。アトランティス黒海説は、それなりに知名度が高いかな、と思います。

『イリヤッド』の続編は、残念ながらやはりなさそうですね。

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  • デイビッド=ギビンズ『アトランティスを探せ』上・下

    Excerpt:  遠藤宏昭訳で、扶桑社ミステリーの一冊として扶桑社より2009年7月に刊行されました。原書の刊行は2005年です。以前、コメント欄でイリヤノファンさんにご教示いただき、面白そうなので読んでみました。 .. Weblog: 雑記帳 racked: 2010-01-28 00:01