横山宏章『中国の異民族支配』

 集英社新書の一冊として、集英社より2009年6月に刊行されました。現代の中華人民共和国の民族政策へといたる、ダイチン=グルン(いわゆる清朝)末期以降の思想史的系譜を追った一冊です。本書では、この間の思想的動向が、「華夷之辨」と「大一統」という二つの概念で整理されています。

 現代の中華人民共和国の民族政策は「大一統」に基づいていますが、それは辛亥革命前夜から決定的だったのではなく、「華夷之辨」との相克の末の結果であり、その間にはマルクス主義などからの民族主義の影響もあって、現在の中華人民共和国の在り様とは異なる国家体制・あるいは複数国家の並立がありえたことが窺えます。

 また、「大一統」にも「華夷之辨」にも民族差別(優劣)主義的傾向が濃厚にあったことが指摘されており、後進的な者を先進的な者が導くという善行、との帝国主義的言説が現在の中華人民共和国でもほとんどまったく克服されておらず、それが中華人民共和国の民族政策に暗い影を落としていることも窺えます。中華人民共和国の帝国主義国家たる所以は、たんに領土が広大で多数の人口と民族を抱えていることのみならず、その民族観・民族政策にもあるのだ、ということが諒解されます。

 本書で紹介された史実で興味深かったのは、チベット・モンゴル・現在でいうところの新疆ウイグル自治区は来るべき新中国から除外し、朝鮮とベトナムは新中国領とせよ、との章炳麟の1907年の提言です。日清戦争とその後の朝鮮のダイチン=グルンからの独立以降は、朝鮮を「中国」領とすべきとの言説はほとんど主張されなかったのかと思っていただけに、章炳麟ほどの人物がそのようなことを主張していたとは意外で、自分の不見識を恥じるばかりです。

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