藤本強『考古学でつづる世界史』

 『市民の考古学』第6巻として、同成社より2008年10月に刊行されました。対象となる年代は、石器時代初期から10世紀頃までとたいへん長くなっています。もちろん、いわゆる歴史時代以降も、考古学の対象となるわけですが、石器時代初期から10世紀頃までの単独執筆による一冊となると、珍しいことではないかな、と思います。世界史と題されているだけあって、対象となる地域も広いのですが、アメリカ大陸・オーストラリア大陸・ニューギニア・ポリネシアなどはほとんど対象外となっており、アフリカ南部についての記述も少ないので、おおむねユーラシアとアフリカ北部(地中海沿岸)が対象になっていると言えるでしょう。

 本書の特徴は、この主要な考察対象地域を東西に分け、それぞれが中期旧石器時代以降独自の特徴を持ちつづけて発展していき、その違いが古代社会を経て現代の東西の価値観の違いにまで影響を及ぼしている、という壮大な仮説を提示していることです。森林の東と草原の西、自給自足的な東と交易の盛んな西、政治的な圧力により「お上」の立場から都城が形成された東と、市場としての性格が強く自然発生的な都市を形成した西、というように両者の対照性が指摘されます。壮大な仮説だけに魅力的ではありますが、このような単純化については、慎重な検証が必要であることは、言うまでもないでしょう。正直なところ、このような図式化には、かなり疑問が残ります。

 本書でもう一つ疑問なのは、世界各地における中期旧石器時代から後期旧石器時代への考古学的な連続性を根拠として、考古学の立場からは現生人類の起源としてアフリカ単一起源説よりも多地域進化説のほうが説得的だ、とされていることです(P15)。しかし、たとえばヨーロッパにおける中部旧石器時代(中期旧石器時代)から上部旧石器時代(後期旧石器時代)への移行が考古学的に連続的と言えるのかというと、はなはだ疑問です。また、古人骨が少ないだけに断定は難しいところがありますが、西アジアや中央アジアなどにおける中部旧石器時代から上部旧石器時代への連続性は、同じ現生人類集団が担い手だったから、と考えるほうがよさそうに思われます。現生人類の出アフリカは、上部旧石器文化または後期石器文化を備えてからではなく、それ以前である可能性のほうが高いでしょう。

 他の地域についていえば、東アジアや東南アジアには下部・中部・上部という旧石器時代区分は適切ではなさそうで、どの人類種が担い手かということも含めて、石器文化の分類と人類進化との関係については、さらなる検証が必要となってくるでしょう。南アジアについては、私があまりにも無知なので、考古学的な時代区分や連続説の有無について、現時点ではなんとも言えません。アフリカ南部(サハラ砂漠以南)には別の時代区分(前期・中期・後期石器時代)があり、中期石器時代から後期石器時代への連続性は、現生人類のアフリカ単一起源説にとって不利ではないでしょう。もちろん、アフリカ南部の各地域についてのさらなる考古学的検証が必要になってきます。日本の考古学界ではいまだには現生人類の多地域進化説が根強いようですが、大御所の藤本強氏でさえ多地域進化説支持となると、私が考えていた以上に多地域進化説が支持されているのかもしれません。

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