中国の初期現生人類?

 中国の広西壮族(チワン族)自治区で、10万年以上前と推定されるホモ=サピエンス(現生人類)の人骨(下顎骨と歯)が発見された、と『サイエンス』で報道(Stone., 2009)されました。まだ一部しか読めていませんが、なかなか興味深い発見です。この報道によると、この発見は、現代人の祖先は5万年前頃にアフリカから世界各地へと進出していった、とする現在では通説となっている現生人類アフリカ単一起源説(年代については、もう少しさかのぼる見解も提示されています)に見直しを迫るものだ、と中国の研究者は主張しているそうです。

 しかし、上記報道でも紹介されているように、人骨は断片的であり、現生人類と区分するのは時期尚早との見解もあります。また、この人骨が現生人類のもので、年代が10万年以上前で確実だとしても、現生人類のアフリカ単一起源説を否定する根拠にはならない、というのが私の見解です。アフリカには、20万年近くまでさかのぼると考えられる現生人類人骨がありますし、父系・母系(Y染色体・ミトコンドリア)では現代人に痕跡を残していない現生人類が、10万年前頃に現在の広西チワン族自治区に進出していた可能性も考えられます(関連記事)。十数万年前までさかのぼる現生人類人骨が、今後中国領内でさらに発見される可能性はあり、その場合、今回のように、現生人類アフリカ単一起源説を否定する根拠だ、と中国の研究者から主張されることになるでしょうが、もっと強力な証拠、たとえば30万年前近くまでさかのぼる現生人類人骨が中国で発見されるようなことでもないかぎり、中国の少なからぬ人類学者・考古学者が望んでいるような現生人類中国起源説は、他国ではまともに取り上げられないでしょう。

 かりに、中国で30万年前頃の現生人類人骨が発見された場合でも、現代の非アフリカ系人類の主要な遺伝子源が10~5万年前頃のアフリカの人類集団にあったことは否定できません。そうすると、現在の中国領内に起源のある現生人類は、一部がそこからアフリカへと移住して遺伝的変異を蓄積した後、アフリカから再度世界各地へと進出し、現在の中国領内にいた「本家」の現生人類集団は、絶滅したか、アフリカから移住してきた集団に遺伝的に吸収された、というきわめて可能性の低い想定をしなければいけません。その意味でも、現生人類「中国」起源説の成立する可能性はほとんどまったくと言ってよいほどないだろう、と思います。



参考文献:
Stone R.(2009): Signs of Early Homo sapiens in China? Science, 326, 5953, 655.
http://dx.doi.org/10.1126/science.326_655a

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    Excerpt:  中国南東部の広西壮族(チワン族)自治区崇左市の智人洞窟(Zhirendong)で発見された人骨(下顎骨の前部と2個の臼歯)についての研究(Liu et al., 2010)が報道されました。中国語の.. Weblog: 雑記帳 racked: 2010-10-28 01:41