アジア人の遺伝的多様性と東アジア人の起源

 アジア人の遺伝的多様性と東アジア人の起源地についての研究(The HUGO Pan-Asian SNP Consortium., 2009)が報道されました。これは、「ヒューゴ全アジア一塩基多型協会」という名称の研究集団によるものです。この研究では、アジア人73集団約2000名と非アジア人2集団を対象として、常染色体変異の大規模な調査が行なわれ、その遺伝的関係が推定されました。この研究によると、アジアにおいては、遺伝的区分と地理および言語(もしくは民族)的区分とがおおむね一致したものの、例外もあり、その場合は、集団間での婚姻関係が最近おこなわれたか、種々の言語が使用されていたことを示唆している、とのことです。

 また、この研究ではアジア内部の遺伝的多様性の違いについても指摘されています。東アジアのハプロタイプの90%以上は東南アジアか中央・南アジアのどちらかで見つけられ、アジアにおいては、南から北へとハプロタイプの多様性が減少していく遺伝的構造が認められます。さらに、東アジアのハプロタイプの50%以上は東南アジアでのみ発見され、5%は南・中央アジアでのみ発見されました。こうしたことが示唆しているのは、東南アジアが現代東アジア人の主要な起源地だった、ということです。もちろんこれは、現生人類(ホモ=サピエンス)の出アフリカ後のことであり、現生人類がアフリカではなく東南アジアで独自に進化した、ということではありません。

 アジアへの現生人類の移住が、東南アジア経由と中央・北東アジア経由という2回あったのか、それとも1回だったのかという問題について、議論されてきましたが、この研究は後者と整合的であり、東南アジアへの1回の移住の後に、東南アジアから東・東北アジアへと現生人類が拡大していったことを示唆しています。ただ、これはあくまでも現代人の遺伝子を調査した結果であり、現代東アジア人が東南アジアから拡大していったのだとしても、現代人とは直接の遺伝的関係にない、あるいは希薄な現生人類集団が、過去に中央アジア経由で東・東北アジアまで進出した可能性も残されているでしょう。


参考文献:
The HUGO Pan-Asian SNP Consortium.(2009): Mapping Human Genetic Diversity in Asia. Science, 326, 5959, 1541-1545.
http://dx.doi.org/10.1126/science.1177074

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この記事へのコメント

Ganesa
2009年12月13日 04:55
劉公嗣さん、はじめまして。
先ほど「人類史 第4版」を拝見させて頂き、興奮冷めやらぬ為、
ご迷惑ながらコメントなぞさせて頂きました m(_ _)m
(HPの「憩いの場」では話題がずれそうだったので、こちらにしました。)
ちょっと別の方面の興味から人類の起源について
文章を書こうなどとおこがましい事を思った矢先に、
劉さんのHPを見つけ、自分の勉強不足を恥ずかしく思いました。
今後、ちょくちょくご訪問させて頂こうと思っております。
2009年12月13日 11:09
Ganesaさん、はじめまして。今後ともよろしくお願い申し仕上げます。

過分な評価をいただき、ありがとうございます。

人類史についてはそろそろ改訂版を執筆しようと思っているのですが、多忙と怠惰のため、まだまったく手をつけていません。
kuroneko
2009年12月13日 11:53
「人類史 第4版」とは?ご著作拝見したく、ご紹介ください
2009年12月13日 13:04
もちろん、著書といった立派なものではなく、ネット上で公開している人類史についての私見です。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~hampton/055.htm
集団構造や言語など、抜け落ちている問題があまりにも多く、偏っていることは否めません。
kuroneko
2009年12月13日 18:01
ご案内いただき、拝見しました。見出しだけで圧倒されまして、いかに考古学が小さい部分をいじっているか痛感。しかし日本の考古学の場合、たいてい卒論では、一地域の一時期の石器とか土器とか、でとうてい人類史の一部などさわった程度の認識のような気がします。
2009年12月13日 19:05
やや広く浅く私見を述べただけで、専門家の方の見解と比較できるようなものではない、と自覚はしています。

一地域の一時期の石器とか土器とはいっても、それらの解明が全体像の構築には必要なのであり、専門家の方の研究の積み重ねには敬意を払わねばならない、とつねに意識しています。
kuroneko
2009年12月13日 20:09
いやいや、編年や遺跡の構造などとなると百家争鳴、ぜんぜんまとまってこないようでして、結局、専門領域の学会や研究会でのはなし、となるようです。いまだにわたしなど、旧石器の出てくる順番くらいしか認識できません。それもぼんやりと、です。結局見たいものによって歴史の捉え方も違うようなんです。それを専門性といっていいかどうか、かえって他分野から大きく見ていただいたほうが、足元も見えるようでして。結局、デイシカッションに耐えられるかどうかなのかも。
2009年12月14日 00:02
百家争鳴とはいっても、研究の進んでいるヨーロッパや西アジアの編年なんかは、かなり共通認識・合意が形成されているのではないかな、とも思います。おもに、一般向け概説書を読んでの一般的な感想にすぎませんが。

見たいものによって歴史の捉え方も違うというのは、本当にその通りですねぇ。人文・社会科学の分野だけではなく、自然科学の分野でもそうした傾向がありますし。

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