長崎尚志『アルタンタハー 東方見聞録奇譚』

 講談社より2010年1月に刊行されました。『イリヤッド』の原作者である長崎氏(『イリヤッド』では東周斎雅楽名義)の初の小説ということで、読んでみました。「東方見聞録奇譚」との副題なので、『東方見聞録』がじゅうような役割をになうのかと思ったら、そうでもなかったのは意外でした。また、「東方見聞録奇譚」との副題から、歴史ミステリーとしての性格の強い作品なのかと予想していたら、サスペンス・ヒューマンストーリー的性格のほうがずっと強かったのも意外でした。この点では予想が外れたのですが、最後まで早く続きを読みたいと思わせるような展開はさすがで、サスペンス・ヒューマンストーリーとしてはなかなかの出来になっていると思います。本書は二部構成になっており、それぞれ別の視点で別の物語が進むのですが、それらが緻密に絡み合っていく構成もさすがだな、と感心します。

 この作品で注目していたのは、「東方見聞録奇譚」との副題なので、フビライ=ハーンがじゅうような役割をになうのではないか、ということだったのですが、この予想は外れました。『イリヤッド』では、アトランティスに興味を示した東方の偉大な4人の王が存在したということになっています。その4人の王とは、アレクサンドロス大王と始皇帝とチンギス=ハーンとフビライ=ハーンのことですが、始皇帝以外の3人は、アトランティスとどのように関わったのか、『イリヤッド』では明かされていません。本当は他の3人も絡めて物語を展開させる予定だったのに、打ち切りなどの事情で省略したのか、それとも、最初から始皇帝だけに触れる予定だったのか、よく分かりません。本書では、『イリヤッド』では取り上げられなかったフビライ=ハーンにまつわる話が展開されるのかと期待していただけに、やや残念でした。

 『東方見聞録』ネタはもちろんのこと、シュリーマンについての言及やプロレスについての薀蓄や人物造形でも『イリヤッド』と共通するところがあり、『イリヤッド』を読んだ人にとっては、そうした観点からも楽しめるのではないか、と思います。シュリーマンは、『イリヤッド』では偉人として位置づけられていますが、本書では、近年になって日本でもよく知られるようになった、シュリーマンの胡散臭い側面にも言及されています。人間が一生のうちにふるえる勇気の量は決まっているという話は、『イリヤッド』でのバトラー神父の話と同じで、著者のお気に入りの人物設定なのでしょう。

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