大河ドラマ『風と雲と虹と』第38回「良子脱出」

 沼のほとりに潜む将門は、病の克服に努めていましたが、なによりも気がかりなのは、良子と豊田丸の安否でした。その頃、下野の藤太の館では、旅立つことを決意した武蔵が、藤太に自分のことを打ち明けていました。武蔵は、この国は腐っており、一揺すり二揺すり強い力で大きく揺さぶれば、必ず倒れる、との純友言葉を伝えます。殿も倒れるとお思いか、と武蔵が藤太に尋ねると、藤太は肯き、やはり、と言って武蔵は笑います。それが純友という人の志か、と藤太が尋ねると、はっきりとは純友は言いませんでしたが、大望とも言っていました、と武蔵は答えます。純友の大望は大きすぎて夢物語だと思っていたが、民人があっという間に砦を築くのを見て、純友の言っていることが夢ではないと考えるようになり、伊予にいる純友に会いたくなったのだ、と武蔵は言います。それで、別れるときにすべてお話します、との自分との約束を思い出してくれたのか、と藤太は愉快そうに言います。しかし藤太は、すぐに真剣な顔になり、それだけではあるまい、自分がやがてどう動くか知りたいのだな、と言います。すると武蔵は、殿は怖い、と言います。武蔵は、坂東で将門と真に対立する力があるのは藤太だけであり、西の純友と東の将門の力が合する日がきたとき、最大の味方になるのも、もっとも危険な敵になり得るのも、藤太であることを理解していました。

 翌日、藤太は旅立つ武蔵を見送りに出かけ、途中で休憩をとると、18歳のときに反逆の罪で5年の流刑となったことを武蔵に語ります。若気の至りで、国府の役人を殴り倒しただけのことだが、たまたま相手が死んでしまった、と藤太は武蔵に語り、最近よく思いだすとして、かつて下野国府の前でこれから流罪に処されるというときに、ある少年と出会った想い出を武蔵に話します。この場面は第1回で描かれましたが、この少年が後の将門です。ただ、将門が名乗らなかったこともあり、この少年が将門であることを藤太は知らず、身分のありそうな10歳くらいの旅姿の少年、と藤太は記憶していました。その少年がいきなり近づいてきて、餞奉りたいと言って自分の刀を藤太に差し出したことを藤太は語り、その少年が今はどうしているのか、と感慨に耽ったような表情で言います。その少年の目は輝いていたが、それは自分に対してではなく、反逆という言葉に気を昂らせていたのだ、と藤太は言います。今の殿は反逆についてどう思うのか、と武蔵に尋ねられた藤太は、若気の至りだ、と笑います。

 そこへ、藤太の郎党の佐野八郎(第27回の初登場時には役名がありませんでした)が現れ、これから進もうとする道のある村から、藤太の名前をだしたところ通行許可を得られた、と報告します。藤太は、武蔵を見送るついでに、民人の築いた砦を観察することにします。注意深く砦を観察した藤太は、砦に太刀があることに注目します。さらに馬を進めた藤太は、民人が開墾に精を出しているところをみて、わざと手綱をひいて馬を暴れさせ、民人たちの反応を見ようとします。民人たちは一瞬にして戦闘態勢に入り、藤太は、大事無い、この馬は癇症でな、と言ってその場を取り繕います。すると民人たちは、すぐに戦闘態勢を解き、再び開墾に戻ります。武蔵は、いつまでも藤太に見送ってもらうわけにもいかないということで、別れを切り出し、ご恩はけっして忘れません、と言います。また会いたいな、と藤太は言いますが、武蔵は一礼をし、では、と言うだけでした。次に武蔵と会うときは、案外敵味方かもしれない、と藤太は思います。

 良兼の館では、捕らわれた良子が連れてこられたことで、良兼の心境は複雑でした。娘の良子に会いたいと思う良兼でしたが、妻の詮子はそれを快く思いません。良子に会おうとする良兼にたいして、良兼はこの家の主なのだから、すべては良兼の決めることだ、と詮子は言います。しかし詮子は、親子として対面するのか、それとも捕らわれ人として会うのか、と良兼に言います。良子が、良正の正妻の差し金により、里帰りでもするように気楽にやってきたが、将門とは交戦中なのだ、と詮子は良兼を牽制します。詮子はさらに、良兼は早々に戦場から立ち去ったと嫌味を言い、良兼は、源扶や良正や貞盛に任せてきたのだ、と弁明します。しかし詮子は、将門の首をまだ誰も見ていない、と良兼にさらに念押しします。将門の首を見るまでは、自分にとって戦は終わらない、と詮子は言います。

 良兼は、良子は正当に将門に嫁いだわけではなく略奪されたのであり、当家にとっては奪われたものを取り返したということであり、良子は通常の捕らわれ人ではない、と言ったものの、最後は弱気になり、機嫌を伺うような弱々しい声で詮子に尋ねます。しかし詮子は、良子が将門によく仕えて働き、人々から誉められ、さらには将門との間に子を儲けている、と言って良子が将門側の人間であることを強調します。それでも詮子は、自分は良兼の妻だから、夫のやることに依存はない、とわざとらしく言います。そこへ、良兼の三人の息子である公雅・公連・公元が元気にやって来ますが、詮子を見ると途端に沈黙してしまいます。詮子は、公元の顔を拭いて機嫌をとろうとしますが、三人の息子たちは詮子にまったく心を開かず、公連と公元は、兄様申してください、と言って逃げ出します。

 兄弟で一人残された公雅は、姉の良子に会いたいが、詮子の侍女たちに隔てられて会えない、と良兼に訴えます。詮子が、戦では血を分けた姉弟とはいえ敵味方なのだ、と窘めると、では姉の良子は敵なのか、と公雅は尋ねます。そうは思いたくないが、物事にはけじめというものがあり、それを定めるのは良兼だ、と言います。自分は姉に会ってはいけないのか、と公雅が尋ねると、良兼の苦しい胸のうちを説明しているのだ、と詮子は言います。詮子は、良子に会いたいという公雅たちの気持ちは分かるが、はっきりと言ってください、と良兼に決断を迫ります。すると公雅は、もう結構です、と言って立ち去ります。良兼は公雅を呼び止めて、かまわないから、良子に会ってやれ、自分もすぐに良子に会いに行くと伝えてくれ、と公雅に言い、誰が何と言おうと親と子だ、と言います。すると、自分への良兼の寵愛を確信し、良子に会わないよう良兼が息子たちに命じると期待していた詮子は、驚きと怒りの表情を浮かべます。

 公雅・公連・公元は良子と豊田丸に会いにいき、そのすぐ後に良兼も良子を訪ねます。良兼には、良子が将門に嫁ぐ(略奪される)前より大人びてやつれているように見え、良子には、良兼がさらに老いたように見えました。良兼は、感極まったように、やっと自分のところに戻ってきたなと言い、良子に勧められて孫の豊田丸を嬉しそうに抱き、眉のところは自分に似ている、と言いますが、皆は私よりも父親似だと言っています、と良子は言います。その言葉に、一瞬良兼は複雑な表情を浮かべますが、すぐに笑顔に戻り、豊田丸をあやします。公雅・公連・公元も良兼・良子・豊田丸を取り囲み、6人は楽しい時を過ごします。その様子を遠くから見ていた詮子は、寂しげに立ち去ります。

 衝撃を受けた詮子は良兼の許可なく実家の源家へと帰り、そのことを知った良兼は詮子の身勝手さに怒り、詮子のために自分の家の平和が乱され、将門との争いも詮子の差し金から起きたことを思い、詮子と離別する決意をします。ところが、興奮しすぎたためか、良兼は発作を起こして倒れ、自分の命が長くないことを覚ります。そうすると、詮子ほどの女性には二度と会えない、との強烈な想いにとらわれ、良兼は詮子を迎えに、詮子の父の源護の館へと向かいます。郎党の蓮沼五郎から、良子の扱いをどうするか尋ねられた良兼は、大事にするようにと指示しつつ、捕らわれ人でもあるから将門側の者が取り返しに来るのを念のために警戒せよ、と言います。

 良兼が源護の館へと向かった後、公雅が良子を訪ね、良兼のいないうちに逃げてください、と進言します。良子は、警戒が厳しいので難しいのではないか、と決心がつきませんが、公雅は父の良兼が信用できないと言います。すると、そこへ玄明と桔梗が現れ、良子の脱出を手助けすることになり、良子も脱出する決心をします。公雅・玄明・桔梗の手引きにより、良子は無事脱出することに成功し、迎えに来た玄道とともに将門のもとへと向かいます。

 その頃、民人が将門を迎えに来ますが、将門は迷惑をかけたと言い、跪いて民人に詫びます。将門は、自分一人の力で民人を守ると自惚れていたのだ、と言います。皆の力で自分も郎党も助かったのだ、と言う将門は、もう脚気が完治して足も問題ないことを示し、皆のために命をかけることを約束します。村長は将門を頼もうと言い、皆も賛同します。その民人のなかには、螻蛄婆もいました。将門・郎党・民人が、自信に満ちた明るい表情で行進するところで、今回は終了です。

 今回は良子の脱出が主題で、良子の脱出劇もなかなか見所があったのですが、それ以上に、良兼と詮子のやり取りのほうが、微妙な心理状況を上手く表現できており、喜劇的要素もあって面白く、これは脚本・演出もさることながら、演じる長戸勇氏と星由里子氏の功績が大きいと思います。また、良兼・良子・公雅・公連・公元・豊田丸が血のつながった家族の絆を見せて楽しく過ごしている様子を、詮子が遠くから寂しげに見ている姿も、詮子の嫁ぎ先での孤立をよく示しており、印象深いものがありました。詮子が実家に執着しているという設定に説得力をもたせる描写だった、と思います。

 今回もこのように見所が多かったのですが、もっとも印象に残ったのは藤太と武蔵のやり取りで、藤太の人物像がかなり明らかになるとともに、将門と藤太の違いを示唆する描写ともなっており、結末へと上手くつながる描写になっているのではないか、と期待しています。これまでの描写でも明らかでしたが、今回、藤太が慎重で洞察力に優れた人物であることがますます印象づけられました。その藤太は、若い頃に反逆の罪で流刑に処されたことを武蔵に語りますが、それは若気の至りだった、と過去の自分をはっきりと切り捨てています。流刑に処されるときに、太刀を自分に献上しようとした少年の目が輝いていたことを藤太は覚えていましたが、それは自分に向けられたものではなく、反逆という言葉に向けられたものであったことを、藤太は冷静に観察していました。

 藤太は、その少年が将門であることに気づいていませんが、将門のほうはもちろん覚えており、第28回における、農繁期に民人の迷惑もかまわず大軍を動員した良兼・良正に藤太が誼を通じなかったことに、将門が喜んでいた描写からして、藤太が今でも自分に近い人間ではないのか、と将門は期待しているように思われます。しかし、藤太は過去の自分をあっさりと切り捨てており、両者の人生観というか価値観の違いが、最終的には両者の対決へと向かうのではないかな、と思います。藤太はこれまで、主要人物としては登場回数が少なかったのですが、今後は登場する回が多くなりそうで、さらに人物像が明かされていくでしょうから、楽しみです。

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