橋本雄『中華幻想』

 勉誠出版より2011年3月に刊行されました。他者崇敬としての中華と自己投影としての中華という観点から、「対外関係」を中心として、室町時代の人々の中華にまつわる認識が検証されています。自己投影としての中華という室町時代の「日本人」の「幻想」が、どのような背景・契機で当時の人々に選択されたのか、努めて実証的に叙述していこうとする姿勢が窺え、好感が持てます。正直なところ、私の見識では、本書で展開された議論の細部にいたるまで、充分に理解できたと言えるのかというと、自信はありませんが、ともかく、きわめて読み応えのある一冊でした。

 本書の実証的姿勢は、室町時代の日本と明との関係の見直しにもよく表れており、おもに古代史の分野において議論となっている「冊封体制論」は、室町時代のそれにおいてこそ早急に検討されねばならない、と主張されています。冊封体制論の見直しはまた、「東アジア」相対化論でもある、とも指摘されています。「冊封体制論」ではもっとも「理想的な冊封体制」が現れているかに見える明代ですが、冊封・朝貢の儀礼がどのようなもので、どの程度「正確に」履行されていたのか、また外交文書はどのような様式だったのか、明はどの程度被冊封国同士の通交に規制を加えたのかなど、基礎的な事実すら明らかになっていないことを、著者はまず指摘し、「冊封体制論」を内在的に批判・克服していこうとします。

 そこで著者は、足利義満の冊封関係の基礎的事実を検証していくのですが、その結果示された著者の見解は、義満は天皇に代わる権威を明の皇帝に求めた、という義満による「王権簒奪」につながるような説を根本から否定し、経済的・財政的動機から義満の対明外交を説明しています。また、義満の明に対する態度が、「冊封」という言葉から受ける印象とは異なり、かなり「尊大」なものだったのではないか、とも指摘されています。さらには、以前から指摘されていることでもありますが、日本国王号が、義満をはじめとして歴代の室町将軍にとって、「国内」において政治的権威を高めるものではなかったことも、改めて確認されています。本書は、さまざまな史実の解明のみならず、重要な論点を多数提示しており、時間を作って再読する必要がありそうです。

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