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zoom RSS ウルツィアンの担い手についての見直し

<<   作成日時 : 2011/11/25 00:00   >>

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 『ネイチャー』の今週号には、ヨーロッパにおける現生人類(ホモ=サピエンス)の拡散についての論文が2本掲載されています。そのうちの一つ(Higham et al., 2011)については、今月6日付の記事で取り上げましたが、南ヨーロッパのウルツィアン(ウルツォ文化)の担い手の見直しを主張した、もう一つ(Benazzi et al., 2011)については見落としていました。ウルツィアンは西ヨーロッパのシャテルペロニアン(シャテルペロン文化)との類似性が認められており、中部旧石器文化から上部旧石器文化への移行的性格を示すことが指摘されています。

 この論文(Benazzi et al., 2011)でも指摘されていますが、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)の認識能力と絶滅理由、さらには現生人類がヨーロッパでネアンデルタール人に取って代わった年代・理由という、古人類学でひじょうに関心の高い問題を理解するにあたって、ウルツィアンやシャテルペロニアンは重要です。ウルツィアンもシャテルペロニアンも、前世紀後半以降、ネアンデルタール人の所産とされてきましたが、この論文で指摘されているように、化石と関連づけられた証拠は不充分で断片的であり、近年では、シャテルペロニアンをネアンデルタール人の所産とする説に疑問を呈している見解も提示されています。

 この論文では、イタリア南部にあるカヴァッロ洞窟のウルツィアン層から出土した2本の臼歯が再分析され、ウルツィアンをネアンデルタール人の所産とする説に疑問が呈されています。この論文では、顕微鏡断層撮影データに基づく二つの独立した形態計測方法により、これまでネアンデルタール人のものとされてきた臼歯は、解剖学的現代人のものと考えられるので、ウルツィアンの担い手はネアンデルタール人ではなく現生人類だろう、と主張されています。また、ウルツィアン層から出土した貝のビーズが暦年代で45000〜43000年前であることから、この解剖学的現代人は現時点でヨーロッパ最古の現生人類であり、オーリナシアン(オーリニャック文化)の出現およびネアンデルタール人の絶滅前に、現生人類はヨーロッパで急速に拡散した、とこの論文では主張されています。

 以上、この論文についてざっと見てきましたが、近年のネアンデルタール人「復権」の動向とは反対に、1990年代後半〜今世紀初頭にかけてとくに盛んだった、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調する見解と整合的な論調になっています。もちろん、近年の研究動向のほうが妥当だと確定しているわけではなく、今後も検証が必要なのですが、要約を読んだかぎりでは、臼歯の年代が直接測定されたわけではなさそうなので、オーリナシアンの事例(ドイツのフォーゲルヘルト遺跡で、オーリナシアンと共伴した人骨は、じつは後期新石器時代のものでした)のように、後世のものの嵌入という可能性も考えられるのかな、とも思います(もっとも、この論文を精読したわけではないので、的外れな思いつきかもしれませんが)。

 また、カヴァッロ洞窟のウルツィアンの担い手が現生人類で、他のウルツィアンもすべて現生人類の所産だとすると、ウルツィアンの起源をどう考えるのか、さらに難しくなったように思います。ウルツィアンがネアンデルタール人の所産だとすると、現生人類との接触の影響の有無はさておき、南ヨーロッパのネアンデルタール人がムステリアンから発展させたと考えるのが妥当でしょうが、現生人類の所産だとすると、どこに起源があるのか、現時点では推定の難しいところです。今後発掘が進めば、西アジアのどこかで、ウルツィアンと似た文化が発見されるのかもしれず、あるいは、すでに発見されていても、比較・検証が進んでいない可能性も考えられます。

 しかし、ヨーロッパの初期現生人類が、ネアンデルタール人との接触の影響の有無はさておき、独自にムステリアンから発展させた、という可能性を想定してもよさそうに思います。ヨーロッパのムステリアンは、すべて現生人類以外の所産というのがこれまでの通説ですが、レヴァントの事例もありますし、人口密度の希薄な時代に、現生人類がムステリアンを携えてヨーロッパに進出した可能性を、私は考えています。もっとも、この問題の解明には、発掘・検証例のさらなる蓄積が必要になりそうで、現時点では、ウルツィアンもシャテルペロニアンも、その担い手が現生人類かネアンデルタール人なのか断定は難しく、さらに、どちらも現生人類やネアンデルタール人の一方のみが担い手ではなかった、という可能性も考慮しておく必要があるのではないか、と思います。


参考文献:
Benazzi S. et al.(2011): Early dispersal of modern humans in Europe and implications for Neanderthal behaviour. Nature, 479, 525–528.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10617

Higham T. et al.(2011): The earliest evidence for anatomically modern humans in northwestern Europe. Nature, 479, 521–524.
http://dx.doi.org/10.1038/nature10484

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2013/11/18 21:04
ウルツィアンの担い手
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2018/10/07 22:24

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