映画『アレクサンドリア』BD版

 2009年に公開されたスペイン映画で、古代末期(4世紀後半~5世紀初頭)のアレクサンドリアが舞台となっています。現代は“Ágora”で、古代地中海世界の都市国家の公共広場のことなのですが、本格的な都市国家が存在しなかったということもあってか、日本では馴染みのない単語でしょうから(高校の世界史で習ったような記憶もありますが、20年以上前のことでもあり、はっきりと覚えてはいません)、邦題が「アレクサンドリア」とされたのは、妥当だったのではないか、と思います。

 この作品の主人公は、古代末期のエジプトの学者だったヒュパティアで、異教徒ということで、キリスト教徒たちに惨殺されるという悲劇的な最期を迎えたことが知られていますが、日本での知名度は低そうです。この作品の批評をネットで読んでいて、ある人が、日本人でヒュパティアを知っているのは、古代地中海世界に興味をもち、アンチキリスト教の人だろう、と述べていましたが、私はまさにその条件に当てはまります。私は小さい頃からのアンチキリスト教で、偏見を正さなければ、と自分でも思うことがしばしばあります。

 私がヒュパティアの存在を知ったのがいつのことなのか、まったく覚えていませんが、はじめて知ったときには、キリスト教への嫌悪感をますます強めるとともに、ヒュパティアへの関心をもちました。そのめ、ヒュパティアを主人公にした映画が日本でも公開されると知って、見に行こうと考えたのですが、けっきょく時間が作れず映画館には行かなかったので、BD版の発売を知り、購入して視聴しました。それなりの値段ではありましたが、期待通りの出来になっており、値段以上の価値はあったように思います。

 ただ残念なのは、古代末期のアレクサンドリアを舞台としたスペインで製作された映画にも関わらず、登場人物は英語で話すことで、改めて英語帝国主義を痛感します。まあそれはさておくとして、この作品は、ほぼ確実とされている史実については、基本的に大きく逸脱せず話が進むので、ヒュパティアの最期は、やはり悲劇的なものとなっています。ただ、生きたまま、蠣の貝殻で肉を削ぎ落とされて殺された、という伝承と比較すると、この作品でのヒュパティアの最期は、石打の刑に処されるところを、かつてのヒュパティアの奴隷で、彼女を慕っていたダオスが、ヒュパティアに苦痛を与えないために、その前に窒息死させる、というより和らげられた描写となっています。さすがに、伝承通りの最期を描写するのは、現代の商業映画では難しかったのでしょう。

 予想した通りではありますが、この作品は、美しく正しい理性が野蛮な狂信により虐殺された、という単純な善悪二元論の物語にはなっていません。ヒュパティアと彼女を慕う奴隷ダオスとの関係も描きつつ、ヒュパティアを近代的理性の早すぎる体現者としてではなく、あくまでも古代の奴隷制の存在する社会を前提とした、誇り高く理性的な学者として描写しています。さらに、奴隷のような下層民にとって、キリスト教が救いになっていた側面があることも描かれており、話はなかなか上手く構成されているように思います。宗教的対立の激化していく社会情勢が背景にあるということもあって、最後まで緊張感のある流れになっており、飽きることなく見続けられました。

 映像に関しては、古代末期のアレクサンドリアの復元も含めて、その美しさにはなかなか見ごたえがあります。BD版ということで画質には満足していますが、これならば、やはり映画館で見ておくべきだったかな、とやや後悔しています。主演のレイチェル=ワイズ氏は、映画に疎い私が見た少ない作品のなかで、『ハムナプトラ』1・2、『スターリングラード』、『ナイロビの蜂』と、なぜか主要人物として出演したことが多いこともあって、私には馴染みの女優であり、ヒュパティアの美しさ・聡明さ・気高さをよく表現できていたように思います。

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