人類の進化に関する系統樹の問題点

 最近、ネット上の掲示板を閲覧していて思うのが、生物学的な系統樹の問題点です。それは、生物種単位であったり、Y染色体やミトコンドリアのハプログループ単位だったりするのですが、どうも、最初に分岐した系統が最古の系統であり、原始的特徴をもっとも強く保持している、という誤解を生みやすいのではないか、ということです。罫線を使って自分で系統樹を作成してみようとしたのですが、上手くできなかったので、下記サイトの図12を例に、この問題について雑感を述べてすきます。
http://www.nig.ac.jp/museum/evolution/02_c2.html

 年代について違いはあるものの、上記サイトの図12は、人間・チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの系統関係についての諸研究と一致しており、さまざまな本・論文・サイトなどでよく見られる、現代では馴染み深い系統樹と言えるでしょう。図12のような系統樹を見て、オランウータンはチンパンジーやゴリラより先に生まれたとか、オランウータンから人間が進化した、と判断する人をネット上でたまに見かけるのですが、これは明らかな間違いで、人間・チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの共通祖先から、まずオランウータンの祖先の系統と人間・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の系統が分岐し、次にゴリラの祖先と人間・チンパンジーの共通祖先の系統が分岐し、その後に人間の祖先の系統とチンパンジーの祖先の系統とが分岐した、ということを意味します。

 この場合、オランウータンの系統も人間・チンパンジー・ゴリラの系統と同じ時間だけ進化してきたのであり、オランウータンの祖先の系統と人間・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の系統が分岐した時点で、現代のようなオランウータンが存在したわけではありません。もっとも、オランウータンのゲノム解読の結果、オランウータンのゲノムの構造的進化は他の大型類人猿と比較してずっと緩やかに進行した、との研究(Locke et al., 2011)もありますが、それは偶然であり、他の生物集団間の比較における同様の系統樹で、上記の図12の系統樹におけるオランウータンの系統に位置づけられる生物集団のゲノムの構造的進化が、人間・チンパンジー・ゴリラの系統に位置づけられる生物集団のそれよりも緩やかである、という保証はまったくないわけです。

 各生物集団の近縁関係を整理した系統樹は、分かりやすいという利点がありますが、上記のような誤解を生む危険性もあります。もちろん、それは誤解するほうが悪いのだと言ってしまえばその通りなのですが、専門家相手の論文・書籍ではなく、一般向け書籍・サイトで掲載する場合には、注意書きが必要ではないのか、と思います。あるいは、もっと誤解を受けにくい表記もあり得るのかもしれませんが、さすがに私程度の見識では、思い浮かびません。


参考文献:
Locke DP. et al.(2011): Comparative and demographic analysis of orang-utan genomes. Nature, 469, 529–533.
http://dx.doi.org/10.1038/nature09687

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック