大河ドラマ『平清盛』第18回「誕生、後白河帝」

 第二部の初回だった前回があまりにも期待外れだったので、今回もかなり不安だったのですが、政治情勢が中心に描かれ、ひじょうに面白くなっていました。今回のような水準で今後も続いてくれるとよいのですが。ただ、この作品の面白い回は詰め込み過ぎなところがあり、今回もそうでした。これならば、伊勢平氏一門のファミリードラマ部分のつまらないところを省略して、皇位継承問題での忠通の思惑や、頼長が朝廷で孤立していく様など、摂関家を詳しく描いてもらいたかったものです。

 近衛帝の容態は悪化していき、朝廷では次の皇位をめぐってさまざまな思惑が渦巻きます。崇徳院は、最有力の皇位継承候補と言える長男の重仁親王が即位すれば自分が政治を取り仕切れると考え、側近の藤原教長とともに浮足立ったところを見せます。上品で繊細でありながら、狂気と俗っぽいところも見せる崇徳院は、この作品の見どころの一つになっており、保元の乱での演技が楽しみです。崇徳院は、近いうちに行われるはずの自分の院政を支えてほしい、と清盛に自分の後ろ盾になるよう頼みますが、伊勢平氏一門は鳥羽院に仕えて信用を得ており、鳥羽院と険悪な崇徳院の後ろ盾になることはできない、と清盛はきっぱりと断ります。私も含めて、主人公の清盛にもっと成長してもらいたいと思ってきた視聴者は多いでしょうが、いきなり冷徹な判断のできる棟梁になったようで、違和感が残りました。もっと前から、少しずつ成長しているところを見せてもらいたかったものです。

 清盛は伊勢平氏一門を集めて今後の対策を協議しますが、今崇徳院につくのはまずいとしても、重仁親王が即位すると今度は鳥羽院に仕えていたことが仇になるという具合で、なかなかまとまりません。この協議は喜劇調でしたが、前回までに提示しておいた伊勢平氏一門の人物像を活かして、伊勢平氏にとっても判断の難しい政治状況であることが説明されており、工夫されたなかなかよい場面だったと思います。清盛は一門の意見を聞き、鳥羽院と崇徳院との関係を修復させたいと考え、鳥羽院に崇徳との和解を勧めます。

 伊勢平氏一門の協議でも当時の政治状況が不充分ながら説明されていましたが、当時の清盛の政治的立場を考えると、おそらく史実ではないにしても、崇徳院の後ろ盾となることを断り、鳥羽院と崇徳院を和解させようとした今回の清盛の行動には説得力があるというか、それほど不自然ではないように思います。もっとも、私の解釈が妥当なのかというと、強い自信があるわけではありませんが。まず、清盛が父の忠盛とともに鳥羽院の信頼を得て出世し、そのために祗園闘乱事件でも失脚せずにすんだことを考えると、鳥羽院と崇徳院との関係が険悪ななかで、崇徳院の後ろ盾になるのを清盛がただちに決意することは難しかったように思います。

 一方で、近衛帝の後継者として最有力候補だったと言ってよい重仁親王の乳母が池禅尼(宗子)だったことを考えると、鳥羽院と崇徳院との対立が伊勢平氏一門の決定的な分裂、さらには自身の没落にもつながりかねなかったわけで、鳥羽院と崇徳院との和解を清盛が考えたというのは、それほど不自然ではないように思います。史実では、保元の乱での伊勢平氏一門の分裂はそれほど深刻ではありませんでしたが(摂関家や河内源氏と比較して)、それは結果論であり、当時の政治情勢を考えると、清盛が皇位継承問題をめぐっての伊勢平氏一門の分裂を大いに懸念していた、という想定はあり得るように思います。

 ただ、今回も重仁親王の乳母が池禅尼であることに触れられず、なぜ未だにこの史実がドラマに取り入れられないのか、どうにもよく分かりません。この件に限らず、物語の構成でもっと史実を活かせば、さらに面白くなって説得力も増すのに、と思うことがしばしばあります。もちろん、ドラマですから脚色はあってよいでしょうし、省略しなければならない史実が多数あるのは仕方ありませんが、史実を活かしたほうが物語としても面白くなりそうなことも多いだけに、惜しいと思います。

 久寿2年(1155年)7月、病弱の近衛帝がついに崩御し、次の帝をめぐる会議が開催されます。ここで鳥羽院は、近衛帝の夭折は自分が強引に崇徳帝を退位させるなど崇徳院に厳しく接してきたことの報いだと考えていたことと、清盛の進言に影響を受けたためなのか、崇徳院を気遣って重仁親王を次の帝に推挙し、それどころか崇徳院の重祚の可能性にすら言及します。おそらく史実ではそのようなことはなかったでしょうし、この時代にこだわりのある人が大いに批判しそうではありますが、鳥羽院と璋子(待賢門院)の関係もそうだったように、この作品は人間関係をややひねったものにすることがあります。今回の設定はテレビドラマとしては有かな、と思います。

 ところが、それは崇徳院の復権になるといって信西が猛反対し、雅仁親王が即位することになります(後白河帝)。ここで、崇徳院の復権(というよりも、はじめて権力を掌握すると言うべきでしょうか)は世が乱れるという理屈で信西と得子(美福門院)が鳥羽院を説得するのですが、本音は、崇徳院の復権は鳥羽院に近い人々の冷遇、さらには失脚につながる、ということなのでしょう。この場面を、戦後平和主義の悪影響だといって批判する視聴者もいるかもしれませんが、こうした場では建前が大きくものをいうというところがあるでしょうから、さほど不自然ではないように思います。また、信西や得子の世の乱れを防ぐという主張は、客観的にはとても説得力がない、という批判もあるかもしれませんが、当人たちの主観が見込み違いであるか、本音を明らかにするわけにもいかないので、建前を強調しただけだ、と解釈しておけばよいのではないか、と思います。

 近衛帝の後継者については、美福門院(得子)の養子である重仁親王とともに、同じく美福門院の養子である守仁(この時点ではまだこの名ではありませんが。雅仁親王の長男で、後の二条帝)も以前から候補とされており、守仁の即位を前提として、その父の雅仁親王が即位したという事情がありました。後の室町時代には、帝になったことのない実父の存命中に即位した後花園帝の例がありますが、信西が主張したように、確かこの時点ではそのような前例がなく、中継ぎとして雅仁親王が即位することになりました。

 しかしこの作品では、前回までに守仁の存在にまったく言及されていないため、唐突だった感は否めません。また、後白河帝が守仁即位を前提とした中継ぎだったことが明示されなかったのも、やや問題があったように思います。重仁親王の即位とその結果としての崇徳院の実権掌握の可能性には前回触れられていましたから、史実無視というわけではないのですが、伊勢平氏一門のファミリードラマ部分の出来が全体的に悪いだけに、そこをもう少し削って史実を盛り込んでくれたらよいのになあ、と惜しむ気持ちがあります。二条帝は現代日本では地味な存在かもしれませんが、当時の政治を描くドラマでは欠かせない重要人物だと思いますので、この作品では今後存在感を示していってもらいたいものです。

 これまで、変人ということが強調され、兄の崇徳院との会話でも、権力争いに関心のない浮世離れした人物であることが印象づけられていた雅仁親王は、乙前と名を変えた祇園女御と出会い、自分が誰にも期待されないこと(じつは、信西は雅仁親王に「賭けていた」のですが、事の性質上、うかつに表に出すわけにはいかないということなのでしょう)を嘆き、はじめて真情を明かします。以前の雅仁親王と得子との言い合いも踏まえたうえでの雅仁親王と乙前とのやり取りは、藤本氏らしくなかなか上手い脚本だな、と思います。作中での時間は、初回からすでに40年近く経過しているのですが、祇園女御は懸念していたよりも老けているように見えるメイクで、安堵しました。もっとも、それでもまだ若すぎるように見えますが。

 今回は皇位継承争いが中心になって描かれましたが、その他にも見所があり、なんといっても注目は、公式サイトでも大きく扱われていた源為朝でした。さすがにデフォルメが過ぎるだろう、と批判が集中しかねない外見ではありましたが、為朝はこの作品ではもっとも武勇に優れた人物として描かれるようですから、単純に迫力のある映像という意味でなかなか説得力があり、テレビドラマとしてはこのような人物造形も有かな、とは思います。保元の乱での活躍が今から楽しみです。

 鬼若(後の弁慶)の再登場にも注目していたのですが、小物感全開の為義との対比で豪胆なところが描かれ、なかなかよかったと思います。この場面には頼長も登場していましたが、頼長の増長と朝廷での孤立や、信西の謀略で皇位継承会議に出席できなかった(おそらく史実では、妻の服喪中ということと、すでに鳥羽院や得子の信用を失っていたので、最初から呼ばれなかったのでしょうが)ところは、これまでに描かれてきた人物像を活かしたもので、頼長の描写には藤本氏も気合が入っているように思います。

 今回が初登場となった藤原師光(西光)は、藤本氏の推薦ということなのか、加藤虎ノ介氏が演じていましたが、いかにも曲者といった感じで、この配役は大成功になりそうなので、今後も大いに楽しみです。その師光の養父である藤原家成は今回で退場となります。これまで、池禅尼の従兄弟ということもあり、伊勢平氏に何かと目をかけており、癖のある人物が多いこの作品にあって、穏やかな人柄でほっとさせられることが少なからずありました。今回は家成と鳥羽院との深い結びつきも描かれましたが、この二人は肉体関係にあったと言われています。

 次回は藤原信頼と滋子(建春門院)が初登場となるようで、滋子を演じるのは成海璃子氏だけに、演技に不安がないわけではないのですが、大いに期待しています。私も含めて多くの視聴者が気になっていたであろう、成人後の重盛役もやっと発表になり、
http://www9.nhk.or.jp/kiyomori/news/index.html
『ゲゲゲの女房』で池上遼一氏をモデルにした人物を演じていた窪田正孝氏が起用され、適役ではないか、と期待しています。

 重盛の妻の経子を演じる高橋愛氏は藤本氏の推薦かもしれませんが、写真を見る限りではあまり似合ってなさそうなので不安です。『篤姫』の時の堀北真希氏と同じく、貴族の姫が似合っていないということなのかもしれませんが、そもそも、貴族の姫が似合っている若手女優がどれだけ存在するのだろうか、とも思います。藤本氏脚本の『Q.E.D. 証明終了』で見たときには、髙橋氏はかなり美人に見えてお気に入りだったので、もっと美しく見えるようにしてもらいたいものです。演技面では、『Q.E.D. 証明終了』を見た限りでは、時代劇にはあまり向かないように思えるのが不安点ではあります。

 頼朝は、平治の乱からいきなり成人役の起用と予想していたのですが、少年役を間に挟むことになりました。『おひさま』の春樹兄さんの少年時代を演じた中川大志氏が起用されることになり、頼朝の繊細な感じを上手く表現できそうで、期待しています。今回の新たな配役発表で嬉しかったのは、二条天皇が大きく扱われていることで、詳しく描いて行ってもらいたいものです。演じる冨浦智嗣氏は『金八先生』の第7シリーズに出演していたそうですが、生徒名を調べてみて(中村真佐人役)少しだけ記憶に残っていました。『つばさ』では主人公の弟役を演じていましたが、その時の演技を思い起こすと、かなり不安になります。この作品では上手く役作りをしてくれることを願ってはいるのですが。

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この記事へのコメント

みら
2012年05月07日 10:18
おはようございます。

「建前が大きくものをいう」という・・とほんとその通りですね。政治とは今も昔もなんて嫌な世界なんだ(笑)

今年の大河はあらゆる批判を浴びでいますが、昨日まで視聴して感じる事は、「大河ドラマ的基準」を外してドラマとしてみれは、かなり面白いと思うのです。複雑で数々の伏線の盛り込み方、ドラマティックシーン満載脚本と演出がいいのでしょう、と感心します。なので、史実との照らし合わせは後に置き、ドラマを楽しんでみるのが一番いいかなと思ってます。
後白河は美しい・・家茂よりも本人の個性が発揮されている意外と適役・・涙が似合うしマツケンファンの私でも持奴の涙ときっと透明度が違うわ~などと思いました。
そして、低視聴率打開策として現役相撲力士を登場させるとか・・そうそう、NHKはこういう工夫に知恵を絞ればいいのです。(笑)

今回は、ドラマのテーマが何であるかを示した回だったのね。
歴史ではなく、その姿を借りた人間群像劇。個の持つエネルギー(本能かな)家族愛、団結、改革、変貌・・この不遇の日本にどうやって生き抜くべきかを自らに問いかけまた自己と他との絆の構築、など今日に抱えるテーマを持って、今年なぜ『平清盛』なのか?が、集約されていたのかな。などど考えつつ・・松田聖子がタマチャンに演技力を批判されるのは仕方ないと思うほどで・・歌はうまいけど。

冒頭に天皇家の解説が入ったのはわかりやすくていいですね。プラス傀儡のような流浪民の存在なども解説が入るとわかりやすいのに・・今度の特番では時代背景も詳しくやってくれると今ならちょうど効果的なんだけどって思います。
さて、視聴率はどれくらいになるでしょう~GWの疲れで皆みてなかったらどうしよう(笑)
えびすこ
2012年05月07日 20:27
少し本題からそれます。
平清盛の視聴率低迷もさる事ながら、大河ドラマの次の時間帯に放送されている「家族のうた」(フジテレビ系)が記録的超低水準視聴率であり、最悪の場合は今月中の打ち切りもうわさされています。
でも、今年になってから日曜の夜間は全体的にあまり視聴率が振るいません。
平清盛は追加配役が決まったので「打ち切りになる事はない」と宣言したような感じでしょうか?
ただし、来年の八重の桜はどんな理由(番組関係者の不祥事や「出演者の急逝」以外)があっても、打ち切りにする事をしては絶対にいけないと思います。
もし「どうしても放送が厳しい」と言う事情があれば、3年間大河ドラマの制作を中断すると言うのもありかと。
2012年05月08日 18:51
今回の視聴率は13.5%でした。もう、15%を超えることはなさそうなのが残念です。
えびすこ
2012年05月09日 11:25
「大河ドラマは毎年どこかからクレームが出たり、トラブルや騒動が起きるじゃないか。NHKや俳優にとって不利益になる事があれば止めた方がいいのではないか?」と言う友人がいます。
NHKや俳優、主人公などの登場人物の子孫らに「恩恵」がないとなるとやはり止める方がいいんでしょうか?
毎年クレームが出るとなると主人公の人選も苦労しそうです。
えびすこ
2012年05月09日 16:03
実際にそうであると断定できませんが、毎年どこかから出る大河ドラマに関して出るクレームの類は、主人公とかの登場人物の末裔の人の批判意見を「実際に聞き取りをした」評論家などが、「自分の意見」として代弁している可能性も少なからずあるのではないかと最近思います。
「大河ドラマの脚色等はおかしい」、「インチキ歴史ドラマの大河ドラマは嫌いだ」と言う意見は「国民の総意」ではないです。
登場人物の子孫が公の場(間接的でも)でNHKに苦言を言う事がほとんどないのも、そういう事情があるのではないかと少し勘ぐっています。登場人物の子孫は本来は「番組の制作協力者になり得る立場」だから、公の場で「あの部分はおかしい」とは言えない事情も察してはいます。
私は最近大河ドラマと言う物がわからなくなって大変困っております。
今年の「平清盛」はどうにも支持できません。
来年以降もどこかで賛否が割れると言う現象が起きるとなると、私自身の主張が正論か異論かわからなくなりそうで怖いんです。
みら
2012年05月09日 19:58
こんばんは

15%は、超えませんかね?
年末あたりは、20%くらいになって笑。
2012年05月09日 20:38
大河ドラマで、一度離れた視聴者が戻ってくることはあまりないように思います。
みら
2012年05月09日 21:09
そーですか。
ソレはまるで、覆水盆に返らずみたいな…もんですな。
男女関係みたいです。
いや、総集編は…超えるかもしれません。と願う。

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