『天智と天武~新説・日本書紀~』第1巻(2)乙巳の変

 まだ日付は変わっていないのですが、3月14日分の記事として掲載しておきます。(1)「乙巳の変前夜」の続きです。
http://sicambre.at.webry.info/201303/article_6.html

 豊璋に入鹿を殺すよう促された中大兄皇子ですが、どうやって入鹿を殺すのか、名案が浮かびません。一方、豊璋には入鹿を殺すための腹案がありました。それは、入鹿がもっとも親しくしている身内である、入鹿の従兄弟の蘇我倉山田石川麻呂を中大兄皇子・豊璋側に引きずり込むというものでした。石川麻呂に入鹿を裏切る度胸はない、と一笑に付す中大兄皇子ですが、あり得ないことであるほど虚を衝かれるもの、と豊璋は指摘します。簡単に虚を衝ける相手ではない、と言う中大兄皇子にたいして、石川麻呂の娘の遠智媛を娶ってはどうか、と豊璋は提案します。一人で豊璋の提案を検討していた中大兄皇子は、月皇子に会ってほしいという入鹿の懇願を思い出し、狂気を露わにしたかのように笑いつつ、入鹿の望み通りにしよう、と決心します。この後読み進めていくと、この決心とは、月皇子の死体に会う、ということだと分かります。

 中大兄皇子に、娘の遠智媛を娘に迎えたい、遠智媛は妃となり、そちは大臣になろう、と言われた石川麻呂は有頂天になり感謝しますが、そんな石川麻呂に、片づけねばならない懸念がある、力を貸してくれるだろうな、と中大兄皇子は言います。石川麻呂は、フジの植えられている館(豊璋の館と思われます)に連れて来られて、入鹿暗殺に協力するよう、豊璋に脅迫されます。その場には、中大兄皇子・豊璋・軽皇子(孝徳天皇)・巨勢徳太がいました。石川麻呂は上奏文を読み上げ、軽皇子は任せられている兵の動きを黙認し、徳太は兵5000を率いて蘇我本宗家へ向かい、月皇子を殺すよう指示されました。石川麻呂は抵抗しますが、豊璋と中大兄皇子に逆らえません。血を見るのは嫌いだと言う軽皇子は、仮病を使って欠席するよう中大兄皇子に指示され、次の大君(天皇)だと中大兄皇子に言われて、躊躇いつつも入鹿暗殺に協力する気になったようです。中大兄皇子は、決行は6月12日と力強く宣言します。

 645年6月12日、飛鳥は曇っており、雨が降り出しそうな天気でした。蘇我本宗家では、入鹿が三韓の朝貢の儀が行なわれる飛鳥板蓋宮の大極殿に赴くため出かけようとしていました。入鹿の父の蝦夷(この時点では明示されていませんが、後に第9話「月皇子」にて明らかとなります)は、今日は石川麻呂と一緒ではないのか、と入鹿に問いかけます。石川麻呂は大役を振り当てられたので、張り切って先に出仕したそうだ、と入鹿は笑顔で答えます。石川麻呂と一緒だとなんとなく安心なのだが、と言う蝦夷にたいして、大極殿では一緒だ、と入鹿は答えます。そこへ月皇子が現れて、お気をつけて、と入鹿に話しかけ、入鹿は息子の月皇子の頭をなでつつ、行ってくるよ、と言います。ここまで、はっきりと月皇子の顔は描かれておらず、それが話の展開と上手くかみ合っていて、効果的な演出になっています。

 大極殿に赴いた入鹿の前に俳優(ワザヒト)が現れ、滑稽な仕草で入鹿に剣を手放すよう促します。大極殿には剣を持ち込んではならないので、入鹿は剣を俳優に手渡します。『日本書紀』では、疑い深い入鹿を騙すために中臣鎌子(鎌足)が俳優に命じたということになっていますが、この作品では、鎌足とされる豊璋自身が、俳優として面をつけていたことになっています。入鹿が大極殿に入っていったのを見て、豊璋は門を閉じ、入鹿の従者たちに矢を放つよう命じます。大極殿には、皇極帝(宝皇女、斉明天皇)のもと、中大兄皇子・入鹿・石川麻呂などが控えていました。皇極帝と入鹿が愛情と信頼関係をしっかりと築いていることを示すように見つめ合っているのを、中大兄皇子は冷ややかに見ていました。

 予定通り、軽皇子は仮病で欠席し、中大兄皇子はそのことを告げて早儀式を始めるよう石川麻呂に促します。石川麻呂は上奏文を読み始めますが、緊張のあまりどもってしまい、入鹿は不審に思います。石川麻呂の表情から危険を察知した入鹿はとっさに剣を抜こうとしますが、大極殿に入るさい剣を俳優(に扮した豊璋)に渡したことを思い出し、謀られたことを悟ります。潜んでいた兵が一斉に入鹿に襲いかり、中大兄皇子は槍を手に取って入鹿に突き刺します。皇極帝は入鹿に駆け寄り、何を考えているのだ、と中大兄皇子を責めますが、一緒に斬られてもよいのか、と中大兄皇子に冷たく言い放たれます。

 瀕死の入鹿に駆け寄り涙を流す皇極帝を兵が連れ去り、入鹿は皇極帝に月皇子の今後を託そうとします。そこへ中大兄皇子が近づき、入鹿の首を斬って持ち上げますが、入鹿の表情は苦悶に満ちているのではなく、爽やかでした。入鹿の首を抱いた中大兄皇子は涙を流しますが、豊璋たちの視線に気づいたのか、入鹿への想いに浸っている表情から新たな支配者の表情へと変わり、入鹿は国を我がものにしようとした極悪人なので、豊璋と自分とで成敗した、と皆の前で力強く宣言します。巨勢徳太の率いる軍は蘇我本宗家を攻め、蘇我本宗家は滅亡します。その邸宅の焼け跡から、竹笛を握った焼死体の少年が見つかり、中大兄皇子は月皇子だろう、と判断します。

 これで乙巳の変の描写は終わりとなりますが、第2回で一気に謀議から乙巳の変まで描かれたのは意外で、もう少し引っ張るのかと予想していました。しかし、短いながらも、入鹿をめぐる中大兄皇子や皇極帝の心情なども交えた濃密な描写で、読み応えがありました。ここまで月皇子の顔がはっきりと描かれていないのは、謎解き的な性格もあるこの作品に適した演出のように思います。乙巳の変で月皇子は死なず、中大兄皇子が月皇子と判断した少年は別人だったのですが、月皇子がどのように脱出したのかということは、後に第9話「月皇子」にて明らかとなります。

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