現生人類よりも早かったかもしれないネアンデルタール人の離乳時期

 これは9月27日分の記事として掲載しておきます。霊長類の離乳時期についての研究(Austin et al., 2013)が報道されました。今年5月23日付の読売新聞でも取り上げられています。この研究が対象としているのは、霊長類の生後早期の食性の移行です。この研究では、現代人の子供とマカク属の子供の歯が調べられ、バリウムの分布が母乳育児から離乳過程へと至る食性の移行を正確に反映していることがまず示されます。これにより、霊長類の幼児の離乳の時期を復元することが可能になったわけで、たいへん意義深い研究だと言えるでしょう。離乳の時期は繁殖率に大いに関わってくるので、人口の増加にも影響することになります。

 この研究がさらに注目されるのは、化石記録においても離乳時期の推定が可能だと示したことです。この研究では、ベルギーで発見された中部旧石器時代の13~8万年前頃のネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)の少年の歯が同様に分析されました。その結果、ネアンデルタール人の少年は7ヶ月間完全な母乳で育てられ、その後の7ヶ月間は母乳と離乳食で育てられ、その後にエナメル中のバリウムが出生前の水準にまで戻ったことから、1歳2か月で母乳育児が完全に停止した、と推測されます。非産業社会の現代人集団では、離乳時期は平均して約2歳半なので、ネアンデルタール人の離乳時期は現生人類(ホモ=サピエンス)よりも早かったのではないか、と考えられます。

 ただ、報道でも指摘されているように、まだ1例でしかないので、これがネアンデルタール人社会の全体的な傾向なのか、結論を下すのは困難です。ロンドン自然史博物館の人類学者ルイス=ハンフリー博士は、ネアンデルタール人は現生人類よりも離乳が早く出産間隔が短かった可能性と、その幼児の母親が死ぬか病気になったために突然の離乳になった可能性を想定していますが、その幼児は8歳頃まで生きていたと推測されることから、いずれにしても、ネアンデルタール人集団内では育児には相互の助け合いがあったのではないか、と指摘しています。たいへん興味深い研究で、今後は対象範囲を地域・年代ともにさらに拡大して、同様の研究が進展することを期待しています。


参考文献:
Austin C. et al.(2013): Barium distributions in teeth reveal early-life dietary transitions in primates. Nature, 498, 7453, 216–219.
http://dx.doi.org/10.1038/nature12169

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    Excerpt:  ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)の歯を分析した研究(Smith et al., 2018)が報道されました。『サイエンス』のサイ.. Weblog: 雑記帳 racked: 2018-11-01 18:14