『天智と天武~新説・日本書紀~』第30話「帰朝報告」

 これは11月17日(日)分の記事として掲載することにします(その四)。『ビッグコミック』2013年11月25日号掲載分の感想です。前回は、大海人皇子が鬼室福信の襲撃から逃れ、百済残党軍の抵抗拠点である任存城を脱したものの、そのさいに足を挫き、移動もままならなくなった、というところで終了しました。今回は、大海人皇子が新羅の月城まで何とかたどり着き、その門前で倒れている場面から始まります。大海人皇子は城内に運び込まれ、看病されます。

 金法敏(後の文武王)は病床の武烈王(金春秋)にこのことを伝え、武烈王・金法敏・金庾信の三人が大海人皇子を見舞います。医師の話によると、熱を下げる薬を飲ませたものの、衰弱が激しいので危険な状態のようです。何とか助けてくれ、と武烈王が医師に頼むと、尽力しますが、このまま熱が下がらないようだったらお覚悟を、と医師は答えます。武烈王・金法敏・金庾信の三人は心配そうな表情を浮かべます。

 大海人皇子を看病している女官は、夜になり疲れたのか、つい眠ってしまいます。そこへ武烈王が現れ、こんなところで死んではならないぞ、と大海人皇子に語りかけます。すると大海人皇子は目を覚まし、申し訳ありません、交渉は失敗に終わりました、と武烈王に伝えます。女官は目を覚まし慌てますが、武烈王はとくに咎めず、女官を退出させます。私の力及ばず、と言う大海人皇子にたいして、ゆっくりと休むよう武烈王は諭します。

 朝になると大海人皇子は起き上がり、身支度を済ませていました。まだ体調が万全ではないので起きてはいけません、と女官は諌めますが、大海人皇子は意に介しません。そこへ武烈王が入ってきて、ゆっくりしろと言っているのに、と微笑を浮かべます。大海人皇子は武烈王に謝意を伝え、熱も下がったので次の手を早急に打たねばならない、と決意を表明します。武烈王が大海人皇子の足を気遣うと、もう治ったかのように大海人皇子は振る舞おうとしますが、やはりまだ完治していませんでした。

 この様子を見た武烈王は、止めても無駄だろうな、と言います。百済残党軍は一枚岩ではなかったことを我が国の開戦派に一刻も早く伝え、考えを改めさせたい、と大海人皇子は武烈王に自分の考えを伝えます。それでも戦は避けられないかもしれないが、と言った大海人皇子は、我が国がどう援軍を出そうが、百済残党軍では復興できないと確信した、「時」は貴国に微笑んでいる、このまま突き進み、必ず三韓を統一して半島の覇者になってください、と武烈王に言います。武烈王は、約束しよう、と大海人皇子に答えます。大海人皇子が武烈王と会ったのはこれが最後になりました。

 帰国した大海人皇子を見かけた鵲は大海人皇子に飛びつき、第27話にて中大兄皇子から受けた仕打ちを打ち明けます。もう二度と影武者はやりたくない、あんな怖い思いは初めてだった、今思い出しても震える、と鵲は涙目で大海人皇子に訴えます。その様子を想像して大海人皇子はつい笑ってしまいますが、笑いごとではない、中大兄皇子は鬼そのものなので気をつけてください、中大兄皇子の底知れない恐ろしさをあなたはまだ分かっていない、と鵲は真剣な表情で大海人皇子に忠告し、大海人皇子も真剣に聞き入ります。

 後飛鳥岡本宮に戻った大海人皇子は母の斉明帝を訪ねます。斉明帝は大海人皇子が無事帰国したことを喜びます。大海人皇子から交渉失敗を伝えられた斉明帝は、中大兄皇子が年明けに筑紫に軍船を送ると言ってきかない、どうすればよいのだと言い、この状況を打開する策がまったく思い浮かばないようです。大海人皇子は斉明帝に、皆を集めるよう進言します。そこで自分が朝鮮半島の状況をすべて話す、というわけです。

 斉明帝は群臣を集め、大海人皇子に朝鮮半島の状況を報告させます。大海人皇子は、新羅・唐連合軍の兵数が合わせて5万余との鬼室福信の報告が違っていた、じっさいは新羅軍だけで5万余で、唐軍と合わせて18万の大軍だった、と強く訴えます。これを聞いた群臣は、桁が違う、これでは戦は無理だ、と囁きあい始め、動揺します。さらに大海人皇子は、百済残党軍の結束はひじょうに脆く、この状況下で仲間割れをしている、それでも火を見るより明らかな百済の負け戦に貴重な人材と軍備を投入するつもりなのか、と力強く主張します。

 すると中大兄皇子が笑い始め、新羅贔屓の腰抜けめ、と大海人皇子を嘲ります。中大兄皇子は立ち上がり、皆の者、騙されてはならない、大海人皇子の発言をどこまで信用できる?誰が保証する?と力強く訴え、しょせんは戦を回避したいための作り事だ、情けない奴よのう、と言います。百済残党軍の言葉は疑わず、同国の、しかも身内の自分の言葉は疑うのか、と大海人皇子が言うと、中大兄皇子は憎悪と冷酷さをうかべた表情で、「そなたなど、身内と思うたことは一度もないわ」と言い放ちます。

 いつものように息子二人の言い合いに斉明帝はすっかり困惑します。正月が過ぎたら兵と共に筑紫に行くことに変わりはないから、皆お帰りください、戯言に付き合う必要はありませんぞ、と中大兄皇子が言うと、群臣は退出し始めます。大海人皇子は群臣を引き留めようとし、斉明帝の方に目を向けますが、中大兄皇子が大海人皇子の背後から憎悪を込めたような視線を斉明帝に向けると、斉明帝は視線をそらして退出します。群臣も斉明帝も退出し、残っているのは大海人皇子・中大兄皇子・豊璋だけとなりました。

 中大兄皇子が豊璋に、我々も帰るとするか、と促すと、大海人皇子が豊璋に、任存城で道琛という僧侶に会った、と伝えます。元気にしていましたか、と豊璋は懐かしそうに尋ねます。冷静な判断のできる、百済復興軍にとってなくてはならない人物と見受けた、と大海人皇子が言うと、智謀に長けた男ですから、勇猛な鬼室福信との両輪で軍を守りたててくれていることでしょう、と豊璋は穏やかな表情で言います。豊璋は道琛の智謀を深く信頼しているようです。

 ところが、残念ながら道琛は鬼室福信によって殺された、と大海人皇子が伝えると、豊璋は驚愕します。大海人皇子は豊璋に、新羅からの和平案を持ちかけたために自分も殺されかけた、道琛は和平案に賛成し、鬼室福信は反対だった、道琛は豊璋の判断を仰ごうと書状をしたためていたところ、鬼室福信に斬首されたのだ、と伝えます。豊璋はすっかり意気消沈し、なぜ・・・そんな・・・と呟きます。すると中大兄皇子は、かえってよかったではないか、新羅の和平案はどうせ屈辱的な条件だったはずだから、賛成する奴は殺されても仕方ない、鬼室福信は何一つ間違っていない、しくじったのはそなたを殺せなかったことだけだな、と冷ややかな調子で大海人皇子に言い放ちます。

 ここで大海人皇子は、朝鮮半島への船中で聞いた鬼室福信の真意を中大兄皇子と豊璋に伝えます。それは、豊璋はお飾りの王であり、百済復興の暁には鬼室福信自身が実権を握り、豊璋王が鬼室福信の意に反するようなら殺す、という内容でした。これを聞いた豊璋がまたしても驚愕の表情を浮かべ、中大兄皇子の表情も余裕のあるものから真剣なものへと変わったところで、今回は終了です。

 今回で、4回にわたった大海人皇子の朝鮮半島での和平工作の話も終了しました。百済復興軍の内紛という史実と、大海人皇子が過去に武烈王・金庾信と一度会っていたという設定を活かした、なかなか面白い創作になっていました。この創作により、白村江の戦いの背景をある程度説明することに成功しているのではないか、と思います。このところ展開が遅くなってきた感がありますが、こうした創作で話が進むのならば、大歓迎です。

 今回、武烈王と大海人皇子とは父子のようにも見えました。自分と同じく肉親を無残に殺され、復讐を強く誓っているということや、その人柄・能力などから、武烈王が大海人皇子に好意を抱いていることは間違いないでしょうし、その逆もまたしかりでしょう。ただ、それだけではなく、以前豊璋が述べた、蘇我入鹿と武烈王はどこか似ている、との発言を踏まえての、今回の大海人皇子と武烈王との描写だったように思います。その意味でも上手い描写だったと私は考えているのですが、あるいは的外れな解釈かもしれません。

 大海人皇子の影武者をしたことが中大兄皇子に知られて以降の鵲の心境も気になっていました。鵲が大海人皇子を裏切って中大兄皇子につくような展開も少し予想したのですが、どうもそうはならないようです。もっとも、鵲がいつまで生きるのか、大海人皇子が帝となってから二人の関係がどう変わるのか、まだ予想しにくいところはあります。どうも、大海人皇子は倭(日本)国最高の権力者となってから、かなり言動が変わってくるような気がします。もっとも、この作品がどの時代までを主に描くのか、まったく予想がつきません。少なくとも、中大兄皇子の死までは詳しく描かれるだろう、と予想してはいるのですが。

 大海人皇子は中大兄皇子の底知れない恐ろしさをまだ理解していない、との鵲の忠告は、おそらく今後の展開の伏線なのでしょうが、今回の後半の描写でも活かされていました。斉明帝の子であると公表されてからの大海人皇子は、中大兄皇子や豊璋にも入鹿の息子の月皇子であることを否定しなくなりました。大海人皇子にとって、中大兄皇子との兄弟関係はもう自明のものになっていたのでしょうが、中大兄皇子の側には、入鹿・斉明帝・大海人皇子にたいする愛憎の混じった複雑な想いが依然として強く残っている、ということなのでしょう。この大海人皇子の身内発言は、大海人皇子の甘さを示しているように思います。また、以前中大兄皇子が豊璋に明かした、大海人皇子にしろと言われればしたくなくなり、構うなと言われれば構いたくなる、という心理の現れでもあるのでしょう。

 今後の展開で大いに注目されるのは、大海人皇子が豊璋に百済復興軍の実情を伝えたことです。道琛が鬼室福信に殺されたことと、鬼室福信が自分を傀儡の王とし、殺害さえ考えていることを大海人皇子から伝えられた豊璋は、すっかり狼狽していました。百済滅亡以降の豊璋には、中大兄皇子を操り、冷酷非情にして完全無欠と大海人皇子・鵲に言われていた頃の面影が薄れた感は否めません。かつては上手く操っていた中大兄皇子にも、すっかり主導権を握られています。まあ、中大兄皇子が「怪物化」していることもありますし、何よりも、祖国が滅亡して援軍を倭に乞うているので立場が弱くなっている、という事情があるので仕方のないところかもしれませんが。

 この豊璋の変化が、今後の展開に大きく影響してくるのではないか、と予想しています。大海人皇子は、豊璋の息子である真人(定恵)を遣唐使の一員とするよう手配した頃より、豊璋と中大兄皇子とを離間させようと考えていました。今回の描写を見ると、中大兄皇子は依然として朝鮮半島への出兵に積極的である一方で、豊璋は朝鮮半島に帰還して復興百済の王となることに迷いが生じ始めているように思います。

 大海人皇子はとりあえず豊璋と中大兄皇子に事実を伝えたまでであり、それにより両者を直ちに離間させようと考えていたわけではないかもしれませんが、豊璋と中大兄皇子との間の溝が、一時的にせよ、今後深まっていくかもしれません。おそらく今後も大枠では史実通り話が展開するでしょうから、豊璋は朝鮮半島に渡り復興百済の王となって鬼室福信を殺し、倭・百済連合軍は唐・新羅連合軍に白村江の戦いで惨敗するのでしょう。そのさい、豊璋が鬼室福信を殺害したことが敗因だった、として中大兄皇子が豊璋を批判するという展開も考えられます。

 また、白村江の戦いの後に帰還してきた真人(定恵)を、孝徳帝の実子かもしれない(これは作中の設定ですが)との理由で中大兄皇子が殺そうとして、豊璋と中大兄皇子との関係がさらに悪化するのではないか、との展開も予想しています。もっとも、真人(定恵)は665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算)に殺されるのではなく、大海人皇子に助けられて粟田真人になるのではないか、と私は予想していますが。

 その場合、豊璋を父の仇と考える大海人皇子と、それを認識している豊璋との関係も変わってきそうです。大海人皇子が酒宴で槍を板に突き刺し、中大兄皇子(天智帝)が激怒して大海人皇子を殺そうとしたところ、中臣鎌足(この作品では豊璋と同一人物)がとりなした、という有名な逸話も取り入れられるのではないか、と予想しています。今後、中大兄皇子・大海人皇子・豊璋という主要人物間の関係がどう変わってくるのか、現時点では未登場ながら重要な役割を果たすだろう鸕野讚良皇女(持統天皇)や大友皇子がそこにどう関わってくるのか、大いに楽しみです。

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