門脇誠二「アフリカと西アジアの旧石器文化編年からみた現代人的行動の出現パターン」

 まだ日付は変わっていないのですが、11月18日分の記事として掲載しておきます。西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人─旧石器考古学からみた交替劇』所収の報告です(関連記事)。本報告は、現代人的行動の出現について、その定義にまで踏み込みつつ、近年の考古学的研究成果を概観しています。本報告が対象とするのはアフリカおよび西アジアですが、後者については、遺跡の調査数の問題からアラビア半島とザグロス地域は省略され、レヴァントのみが取り上げられています。アフリカは、サハラ・マグレブ・シリア・ナイル川流域・西部・東部・中央・中央南部・南部に地域区分されています。本報告は海洋酸素同位体ステージ(MIS)9~2(30万年前頃~1万年前頃)におけるこれらの地域の文化編年を表にまとめています。この表を見ると、アフリカには発掘空白地域・年代の多いことがよく分かります。

 本報告はまず、現代人的行動の出現に関する仮説をいくつかに区分して紹介します。簡潔にまとめると、アフリカにおいてじょじょに出現した(早期出現説)、5万年前頃に遺伝的変異により生じた(後期出現説、神経学仮説、創造の爆発説)、ネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)など現生人類(ホモ=サピエンス)以外の人類にも見られる(多系進化説)、となります。本報告では、多系進化説はさらに3区分できる、とされています。

 本報告は現代人的行動の考古学的指標について問いかけます。よく用いられているのは、生態(新環境への適応や食資源の多様化)・技術(石刃などの新石器技術および骨や角といった新素材の道具の使用など)・経済と社会構造(遠距離間の交換網や計画的な資源開発など)・象徴行動(装身具や顔料の使用など)といったものです。本報告は、こうした指標はヨーロッパの上部旧石器時代の考古学的指標から経験的に導かれたものであり、他地域に適用できるのか、という疑問を提起します。本報告は、現代人的行動の考古学的指標を最初から限定するのではなく、まずは幅広い指標を考古学的編年と対応させることを目的とし、大きく3期に区分して検証しています。

 第1期は30万年前頃~15万年前頃で、形質人類学ではこの時期に最初期の現生人類(解剖学的現代人)が出現したとされています。第1期の特徴は、石刃を含む多様な石器製作技術がアフリカと西アジアにおいて出現したことです。石刃が出現したからといってアシューリアンが直ちに廃れたわけでもなく、アシューリアンを代表する石器のハンドアックスが石刃と共伴することもあります。細石器もすでに第1期に出現していましたが、後の典型的細石器と比較すると非定形で、またとくに二次加工されてはいないようです。

 第2期は15万年前頃~9万年前頃で、現生人類がレヴァントへと進出します。第2期においては考古学的記録が不明な地域がアフリカに多く、アフリカにおける現生人類拡散の様相の推定が難しくなっています。第2期で注目されるのはレヴァントのタブンC型で、副葬品・顔料・ビーズといった象徴的行動示す遺物が発見されています。一方、同時期のアフリカにおいては象徴的行動の考古学的指標が少ないのですが、東部では遠隔地物資の調達の痕跡が若干見られます。

 第3期は9万年前頃~4万年前頃で、この時期に現生人類が出アフリカを果たしたとされます。第3期には、アフリカにおいて細石器や骨角器の使用(技術革新)とビーズの加工(象徴的行動)など現代人的行動の考古学的指標の事例が増加します。レヴァントでは、ネアンデルタール人が担い手とされるタブンB型の石器のなかに、線刻模様のある打製石器が1点発見されていますが、人骨が共伴していないので、ネアンデルタール人の所産と言えるのか、断定はできないそうです。

 本報告は現代人的行動の考古学的指標をこのように3期に区分し、表にまとめています。それによると、第1期から第3期にかけて現代人的行動の考古学的指標が少しずつ増加したように見えます。しかし本報告は、そもそも考古学的指標が妥当なのかと問いかけます。たとえば石刃の起源はかなり古くまでさかのぼりそうなので(関連記事)、そもそも現代人的行動の考古学的指標として妥当なのか、という疑問が生じます。本報告は、顔料の単純な使用についても、同様に指標足り得るのか、疑問を提起します。

 本報告はそうした疑問の残る指標を除外して新たに表にまとめています。その結果、現代人的行動の考古学的指標は第2期のMIS5の頃にまとめて出現したように見えます。また本報告は、現代人的行動の考古学的指標で継続する例は少なく、散発的に見えることも指摘します。さらに本報告は、継続している事例にしても、現生人類が担い手とされるタブンC型とネアンデルタール人が担い手とされるタブンB型における線刻模様の石器のように、同一集団による文化的蓄積とは断定できない、と指摘しています(上述したように、タブンB型の線刻模様の石器がネアンデルタール人の所産とは断定できませんが、だからといってそうではないとも断定できません)。では、現代人的行動はモザイク状に出現・発展していったのかというと、そうとも断定できず、考古学的記録の空白地域・年代の多さによる不完全なデータが原因の可能性もある、と本報告は指摘しています。

 本報告はまとめにて、現代人的行動が5万年前頃に突発的に進化したという仮説は支持できない、としています。だからといって、現代人的行動が漸進的に発展したという仮説を支持できるのかというと、第2期に現代人的行動がまとめて出現したように見える表も作成可能なことから、慎重な姿勢を崩しません。本報告は第2期のレヴァントの事例から、現代人的行動がアフリカ以外の場所で促進された可能性も想定しています。また本報告は、ネアンデルタール人の所産とされるタブンB型が同年代のアフリカにおける現生人類の文化と比較して現代人的行動の要素に乏しいことも指摘していますが、考古学的記録の乏しさから、これが両者の学習能力の違いに起因すると言えるのか、判断を保留しています。

 質疑応答では興味深いやり取りがありました。現代人的行動の考古学的指標とされる石器技術革新の担い手として、ホモ=ハイデルベルゲンシスの可能性が想定されています。象徴的行動の考古学的指標については、近年と比較して丁寧ではなかった昔の発掘では見落とされていた可能性が指摘されています。三次元の造形物や写実的な絵画表現といった「本物の」象徴的行動がまずヨーロッパで出現したのは、ネアンデルタール人との接触の影響もあるのではないか(レヴァントのスフールやカフゼーとも共通する、フロンティア的な現象)、という可能性も指摘されています。

 本報告は全体的に、現代人的行動の出現の様相をめぐる議論について、終始一貫して慎重な姿勢を崩さず、現代人的行動の考古学的指標の見直しなど、根源的なところから問いかけています。その分、歯切れが悪いとも言えるかもしれませんが、本報告でまとめられているように考古学的記録に乏しい地域・年代が多いという事情もありますから、良心的な姿勢だと思います。本報告は近年のアフリカ・レヴァントにおける考古学的成果を簡潔に幅広くまとめており、私にとってはたいへん有益でした。


参考文献:
門脇誠二(2013)「アフリカと西アジアの旧石器文化編年からみた現代人的行動の出現パターン」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人─旧石器考古学からみた交替劇』(六一書房)P21-37

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック