西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人─旧石器考古学からみた交替劇』

 まだ日付は変わっていないのですが、11月8日分の記事として掲載しておきます。六一書房より2013年1月に刊行されました。2010~2014年にかけて、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究として「ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究」が行なわれることは、このブログでも以前取り上げました(関連記事)。この研究計画には公式サイトが設置されており、さまざまな情報が公開されています。この研究計画と関連して、デデリエ洞窟での発掘(関連記事)や読売新聞の記事(関連記事)について以前ブログで取り上げたことがあります。

 この研究計画は複数の研究班に分かれて行われており、研究項目A01「考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究」はそのうちの一つです。本書は、2012年6月16日~17日にかけて研究項目A01班主催により行なわれたシンポジウムの報告です。各研究者の報告および質疑応答と、総合討論が掲載されています。シンポジウムでの報告なので文体は口語調になっており、全体的に文章として読むとやや引っかかるところもありますが(その場にいれば自然に聞こえたのでしょう)、その分柔らかい文体になっている、とも言えるでしょう。後書は書き下ろしなので、読むことを前提としている文章として自然になっています。

 本書は研究項目A01「考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究」によるシンポジウムの報告なので、当然のことながら考古学的成果に基づく報告が中心になっています。ただ、4部構成のうちの第1部は、形質人類学からの報告になっており、遺伝学的研究への言及もあります。本書の構成は以下の通りです。


第1部:化石人類学からみた交替劇
●海部陽介「ホモ・サピエンスのユーラシア拡散─最近の研究動向」

第2部:ネアンデルタール世界
●門脇誠二「アフリカと西アジアの旧石器文化編年からみた現代人的行動の出現パターン」
●佐野勝宏「ヨーロッパにおける旧石器文化編年と旧人・新人交替劇」
●加藤博文「シベリアの旧石器編年と交替劇」
●長沼正樹「中央アジアにおける旧石器編年と旧人・新人交替劇」

第3部:非ネアンデルタール世界
●野口淳「南アジアの中期/後期石器時代─「南回りルート」と地理的多様性」
●石村智「東南アジア・オセアニアにおける新人の拡散─人類の海洋への適応の第一歩─」
●加藤真二「考古学からみた中国における旧人・新人交替劇」
●長井謙治「朝鮮半島における旧人・新人「交替劇」」
●仲田大人「日本列島で交替劇は起きたか?」

第4部:総合討論
●「旧石器考古学からみた旧人・新人交替劇」

●西秋良宏「交替劇の時期と過程をめぐる諸問題─あとがきにかえて─」


 本書を読み始める前は、一つの記事にて本書の全報告について言及しようと考えていたのですが、各報告が充実しているので、各報告を個別の記事にて取り上げ、ブログに掲載するたびにこの記事にトラックバックを送ることにします。本書は「旧人・新人」という表記を採用しており、研究計画の公式サイトでも同様です。これは、猿人→原人→旧人→新人という人類進化の図式に基づくもののようです。

 当初は、「旧人」とは現生人類(ホモ=サピエンス)以外の絶滅ホモ属のことを意味しているのかな、とも思ったのですが、どうもそうではないようです。本書でも、「原人」と「旧人」を使い分けている解説が見られます。猿人→原人→旧人→新人という人類進化の図式はもう妥当ではないと私はずっと考えており(関連記事)、じっさい管見の限りでは、この十数年間の英語の論文・報道で「旧人」に相当する‘Paleanthropine’を用いて人類進化を把握している事例はありません(研究史的な解説では用いられることもあるでしょうが)。近年では、日本で云うところの「旧人」や「原人」は、‘Archaic Humans’という用語でまとめられることが多いように思います。

 なお、「新人」に該当する用語は‘Neanthropine’ですが、こちらも管見の限りでは、この十数年間の英語の論文・報道では用いられていません。近年では、日本で云うところの「新人」は‘Modern Humans’という用語でまとめられることが多いように思います。もっとも、これはあくまでも非専門家の私の考えにすぎないので、今でも猿人→原人→旧人→新人という人類進化の図式がかなり有効なのかもしれませんが。本書はかなり充実した報告になっているようなので、全報告をブログにてまとめるのにはそれなりに時間を要しそうですが、最後まで地道に進めていくつもりです。


参考文献:
西秋良宏編(2013)『ホモ・サピエンスと旧人─旧石器考古学からみた交替劇』(六一書房)

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この記事へのコメント

kurozee
2013年11月25日 17:20
 近年の考古学・人類学・遺伝系統学におけるいろいろな新発見は、謎を解明するというよりも、謎をさらに深め、少しずつ「ほんとうの謎」に近づいている感があります。現生人類に至る道は従来考えられていたように単純ではなく、ますます複雑な様相を深めているようですね。
 本書でも保守的と思えるほど慎重な姿勢を崩していないようで、学問的な良心を感じると同時に、アマチュアとしては欲求不満がたまるところも正直ありますが、これが本来の学問ということなのでしょう。
 本書は版元でも品切れで、近隣の大学図書館にもなく、高価なコレクター本を買うか六一書房の電子書籍を閲覧するしかありません。その意味で、このブログのシリーズは私にとってたいへんありがたいと思っています。どうか最後までがんばってください!
2013年11月25日 19:01
本書の報告は、確かに全体的に慎重で、禁欲的だと思います。ご指摘のように、これが本来の学問ということだと思います。

本書がもう品切れになっているとは驚きました。入手できて幸運だったと思います。

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