『天智と天武~新説・日本書紀~』第36話「斉明崩御」

 まだ日付は変わっていないのですが、2月11日分の記事として2本掲載しておきます(その二)。『ビッグコミック』2014年2月25日号掲載分の感想です。前回は、中大兄皇子が母の斉明帝の首を絞めるという衝撃的な場面で終了しました。今回はその続きで、蛍が飛び交うなか、中大兄皇子が斉明帝の首を絞め、斉明帝が抵抗する場面から始まります。中大兄皇子は、母の斉明帝に抵抗されても、狂気の様相で母の首を絞め続けます。斉明帝も抵抗するものの、やがて力尽きて亡くなります。死んだ直後の斉明帝の表情と、虚無的な中大兄皇子の表情とが、何とも不気味です。

 中大兄皇子は母の死体を冷たく見下ろし、刀を抜くと、大声を出しながら刀を振り回し、周囲の物を切っていきます。燭台も倒れて火が燃え移り、部屋からは煙が出ます。さすがにこうなると斉明帝の使用人たちも気づき、慌てて斉明帝の寝所に駆けつけます。そこで使用人たちが見たのは、横たわっている斉明帝と、茫然と立ち尽くす中大兄皇子でした。使用人の一人が医者を呼ぼうとしますが、別の使用人が、斉明帝がすでに亡くなっていることを確認し、その場の者に告げます。

 何があったのか、と使用人の一人に問われた中大兄皇子は、自分が席を外した隙に、入鹿の怨霊が現れて斉明帝の首に手をかけ殺してしまった、と答えます。入鹿の怨霊は大笠をかぶり、自分に気づくと、静かに振り向いて笑った、自分はすぐに斬りかかったが、手遅れだった、と中大兄皇子は斉明帝の使用人たちに説明します。その説明を聞き、斉明帝の使用人は悲鳴を上げます。大海人皇子はその悲鳴を聞いて目を覚まします。官人たちが、恐れ慌て、中大兄皇子が手にとまっていた蛍を放すところで、今回は終了です。


 今回は台詞が少なく、いつものように話を文字に起こしてみると、たいへん短くなりました。斉明帝は崩御が近いのに元気だな、と思っていましたが、まさか中大兄皇子に殺されることになるとは、前回を読むまでは予想していませんでした。確かに、『日本書紀』において比較的記事が信頼できるだろう欽明天皇以降で、斉明帝は崩御前に病に伏したという記事が見えない珍しい天皇ではありますが(殺害された崇峻帝を除くと、もう一人の例外は斉明帝の夫だった舒明帝)。

 それにしても、斉明帝にも非があったとはいえ、息子が母を殺し、息子は最後まで母に受け入れられなかったとは、何とも悲劇的な母子関係の結末でした。しかも、この悲劇の直接の発端は、斉明帝のもう一人の息子の大海人皇子が母を叱責したことだったのですから、何ともやりきれない気持ちになります。今回の、中大兄皇子の狂気の表情と、斉明帝の死に顔は、不気味で迫力のあるものでした。計画殺人ではなく衝動殺人なのに、母を殺害した後すぐにアリバイ工作を思いついて行動に移せるところが、中大兄皇子の狂気と優秀さをよく表している、と解釈すべきでしょうか。

 第34話にて、中大兄皇子と大海人皇子は言い争っています。中大兄皇子が浴びた、無実の蘇我入鹿(大海人皇子の父)の血は、洗い流しても消えない、いずれ必ず、自らを血の涙で滴らせることになるだろう、と言う大海人皇子にたいして、入鹿の呪いとは望むところだ、物の怪でかまわないから出てきてほしいものよ、そうすれば今度こそ思い切り愛でてやるものを、と言って中大兄皇子は大笑します。この時のやり取りが、今回の中大兄皇子のアリバイ工作の伏線になっていたわけで、なかなか上手い話の作り方だと思います。

 第34話にて述べましたが、中大兄皇子が斉明帝の喪を行なって磐瀬行宮に戻った夕べに、朝倉山の上に「鬼」が現れ、大笠を着て喪を見ていたので、人々が怪しんだ、と『日本書紀』に見えます。今回の中大兄皇子のアリバイ工作は、これを踏まえた創作なのでしょう。今回、斉明帝が661年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)7月24日に亡くなった、との『日本書紀』の記事が引用されており、どうもこの晩の出来事は7月という設定のようです。話の流れからすると、6月なのかな、と思ったのですが、それほど気にすることはないかな、と思います。

 予告は「次号、大海人と対決!!」となっており、異変に気づいた大海人皇子が斉明帝の寝所に駆けつけ、中大兄皇子と対峙するのでしょう。斉明帝の崩御後、大君(天皇)がしばらく不在となり、中大兄皇子が一定期間称制したことがどのように描かれるのか、注目しています。ここまでこの作品では、間人皇女が未登場どころか、言及さえされていないので、さすがに間人皇女が即位した(中皇命=間人皇女説)という話にはならないでしょう。そうすると、中大兄皇子が直ちに即位しなかった理由がどう説明されるのか、気になるところですが、大海人皇子の反対があったから、という理由になるのでしょうか。

 また、中大兄皇子が母の死を悲しんで詠んだとされる歌が作中で取り入れられるのか、取り入れられるとしたら、どのような場面で詠まれるのか、という点にも注目しています。もし作中で取り入れられるとしたら、中大兄皇子の心理状況も気になるところです。斉明帝とその孫(息子の妻でもあります)の大田皇女・鸕野讚良皇女(持統天皇)姉妹との関係は良好だったようなので、この姉妹が祖母の死を知ってどのような反応を見せるのか、ということも気になります。次回は、この作品の主題とも言うべき兄弟対決が本格的に見られそうなので、楽しみです。中大兄皇子の手には斉明帝による引っ掻き傷が残っているので、大海人皇子はすぐに真相を見抜きそうです。単行本第4集は来月末に発売とのことで、こちらも楽しみです。

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