人類とチンパンジーの分岐年代の見直し

 人類とチンパンジーの分岐年代の見直しについての研究(Langergraber et al., 2012)が報道(すでにネット上では削除されているので、Internet Archiveへのリンクを貼っておきます)されました。取り上げるのがたいへん遅れてしまったというか、公表された時にいつか取り上げようと思ってメモ帳に記録したものの、不覚にも最近まで失念していました。失念しているわけではないものの、公表した時にいつかこのブログで取り上げようと考えていて、まだ言及していない研究も多いので、今後少しずつ掲載していこう、と考えています。

 じゅうらい、人類の系統とチンパンジーの系統の分子生物学・遺伝学的な推定分岐年代は600万~400万年前頃とされていました。20世紀末~21世紀初頭における相次ぐ人類(候補の)化石の発見により、人類の系統とチンパンジーの系統との分岐年代は700万年以上前までさかのぼるのではないか、と主張されるようになり、化石証拠と遺伝学的研究成果との間で、人類の系統とチンパンジーの系統との推定分岐年代に食い違いが生じていました。

 この研究ではじゅうらいの研究が見直され、人類の系統・チンパンジーの系統・ゴリラの系統の間の新たな遺伝学的推定分岐年代が提示されています。この研究の見直しの要点は二つあります。じゅうらいの人類の系統・チンパンジーの系統・ゴリラの系統間の遺伝学的推定分岐年代では、化石記録の推定分岐年代が計算に用いられていました。この研究では、化石データと遺伝学的データは独立した情報源であるべきだとの見解から、化石記録の推定分岐年代から独立した遺伝学的推定分岐年代を計算すべきだ、と提言されています。

 この研究におけるもう一つの要点は、1世代平均年数の見直しです。じゅうらいの遺伝学的推定分岐年代では、人間の1世代が20または25年と仮定されています。しかし、大規模な家系調査によると、採集狩猟民の1世代平均年数は31.5年となります(女性は25.6年)。ただ、人類史において1世代平均年数が変動した可能性は考慮しなければならないだろう、とは思います。チンパンジーとゴリラの1世代平均年数については、集団間のバラつきはあるものの、チンパンジーは男性24.08年・女性25.18年、ゴリラは男性20.37年・女性18.19年という結果が得られました。

 この新たな平均1世代年数・変異率を用いてじゅうらいの研究を見直すと、修正された推定分岐年代は、人間・チンパンジーの系統とゴリラの系統の間で約2000万~831万年前、人間の系統とチンパンジーの系統の間で約1345万~678万年前、チンパンジーの系統とボノボの系統の間で約255万~145万年前、東西のゴリラ間で約301万~120万年前、ネアンデルタール人の系統と現生人類の系統の間で約781000~423000年前となります。

 この研究では、人間の系統とチンパンジーの系統の分岐年代は少なくとも800万~700万年前頃までさかのぼり、現時点での化石記録と矛盾しないかもしれない、と主張されています。また、ネアンデルタール人と現生人類との新たな推定分岐年代は、ネアンデルタール人的特徴が(部分的に)見られる40万年前頃の人類化石が確認されていることとも矛盾しないかもしれない、とも主張されています。たいへん興味深い研究で、今後のさらなる精度の向上が期待されます。


参考文献:
Langergraber KE. et al.(2012): Generation times in wild chimpanzees and gorillas suggest earlier divergence times in great ape and human evolution. PNAS, 109, 46, 18743–18748.
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1211740109

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