木村亮介「ゲノムからみた人類の拡散と適応」『人類の移動誌』第1章「人類の移動を考える」第2節

 印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(関連記事)所収の論文です。分子遺伝学が人類の進化・拡散の研究に多大な貢献をしていることは、現在では一般にも広く知られているように思います。新世代型DNAシーケンサーの開発により、ゲノムの膨大な情報を、じゅうらいよりも低コスト・短時間で解析することが可能になりました。その結果、じゅうらいよりも精度の高い人類の適応・拡散を復元することが可能となりました。こうした研究結果は、報道機関に取り上げられることにより、一般にも知られることが珍しくありません。

 しかし本論文は、ゲノム研究の理論面についてはよく理解されていないことが多いとして、どのようにゲノムから集団の歴史が分かる理屈を丁寧に説明するとともに、ゲノム研究から人類の進化を復元するさいの限界についても言及しています。ネットでは、ゲノム研究に基づく見解は絶対的だ、とでも言わんばかりの非専門家の意見を見かけることもあるので、本論文ができるだけ多くの人に読まれてもらいたいものです。また本論文は、近い将来にゲノム解読の時間短縮とコスト削減がさらに進み、すべての人々が自身のゲノム情報を手にする時代が来る可能性を指摘し、そうした時代に備えて、研究手法の開発とともに、倫理面の整備も急ぐよう、提言しています。短いながらも丁寧な解説の本論文には、感銘を受けました。


参考文献:
木村亮介(2014A)「ゲノムからみた人類の拡散と適応」印東道子編『人類の移動誌』初版第2刷(臨川書店)第1章「人類の移動を考える」第2節P25-37

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この記事へのコメント

haina@fairyism備忘録
2014年05月16日 06:28
はじめまして。半月くらい前にこのブログを知りました。凄いブログだと思います。
たまたま自分も人類の移動誌を読んでいたところです。
mtDNAやYchrの解析手法については、篠田謙一氏などが一般書でていねいに解説していたところですが、最近の全ゲノム解析については手法が極めて複雑化していることもあり、良い解説がなかなかなかったように思います。
この木村亮介氏の「ゲノムからみた人類の適応と拡散」は、全ゲノムによる解析の解説としてわかりやすく、たいへんありがたいものでした。
遺伝子解析において、何がわかることで、何を仮定しているのか、突っ込んで考えないと、 >ゲノム研究に基づく見解は絶対的だ 、とうっかり考えてしまいます。ただ遺伝子解析の手法は専門性が高く、突っ込んで考えるにしても相当手ごわい感じです。この解説はその感触をつかむことができると思われ、人類史に興味をもつなら必読、という感じがしました。
解説でLi and Durbin(2011)の論文を紹介していますが、25年/世代、突然変異率2.5x10^-8で年代を計算しており、この年代は世代の長さと突然変異率の仮定を変えればそのまま変わるものです。たとえば世代の長さとして20年/世代を採用すれば年代はそのまま5分の4になります。そして、世代の長さと変異率はまだ異論の多い部分です。そういったあたりはもう少し書いてほしかった気がします。
2014年05月16日 20:20
はじめまして。今後ともよろしくお願い申し仕上げます。

1世代の平均的な長さの推定は難しい問題ですね。遺伝子に制約されるのは当然として、環境・社会構造にも左右されますから、長い年月の間に変動しているでしょうし。

この推定が異なると、結論も変わってきますから、現時点では慎重にならざるを得ませんね。人類とチンパンジーの分岐年代も、1世代の長さの見積もりの違いにより、かなり異なっていますし。

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