井上寿一『山県有朋と明治国家』

 NHKブックスの一冊として、2010年12月に日本放送出版協会から刊行されました。伊藤之雄『山県有朋 愚直な権力者の生涯』(関連記事)との対比という観点からも読んでみました。本書は、『山県有朋 愚直な権力者の生涯』と比較して、個人の伝記というよりも、山県有朋を近代史に位置づけ、近代史像を提示するという性格が強くなっています。この本書の性格の前提として、帝国主義・軍国主義により歪められ遅れた近代日本社会(およびそこにおいて中心的役割を果たした要人の一人たる山県有朋)という日本近代史像と、官民が立場こそ異なれ近代国家への脱皮のために必死に苦闘し、山県を含む維新の英雄たちにより欧米諸国に追いつき独立を維持することに成功したという「明るい」日本近代史像との統合を図る、との問題意識があります。

 本書は、山県を中心とした近代日本の軌跡をたどることにより、大日本帝国憲法下でも漸進的な民主化が進んだことと、民主化を可能とした近代的な諸制度を整備したのが国家権力であることとを指摘し、多元的な権力関係の近代日本を把握しようとします。本書の描く山県有朋は、帝国主義の時代の国際関係に順応し、脱亜入欧を大前提として、列強との協調に努めてその範囲で可能なかぎり日本の勢力拡大を図った政治家です。本書を読んで改めて、とくに対外関係における山県の慎重な姿勢が確認でき、それは『山県有朋 愚直な権力者の生涯』とも通ずる山県像です。現実性に乏しい仮定ですが、山県が1930年代・1940年代にも存命で気力・体力ともにそれなりに充実していたとしたら、どのように情勢を認識したのか、興味のあるところです。

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