松本直子「認知考古学から見た新人・旧人の学習」

 西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』所収の論文です(関連記事)。本論文は、認知考古学的観点から、現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の学習の違いに関して、先天的要因(基本的には遺伝子に規定される生得的な認知能力)と後天的要因(環境・社会など)とを検証していきます。

 現生人類とネアンデルタール人との生得的な認知能力の違いについては、(洗練された)言語能力がネアンデルタール人にはなくて現生人類にはあったとする仮説や、人類の進化において発達してきた各知能(社会的知能や博物的知能など)間の流動性がネアンデルタール人にはなくて現生人類にはあったとする仮説や、理解・学習・推論時に一時的に必要な情報を保持するための作業記憶(ワーキングメモリ)の容量に違いがあった(現生人類の方がネアンデルタール人よりも多い)とする仮説などが提示されています。

 ただ、こうした仮説を考古学的に検証することの難しさを、本論文は指摘しています。認知能力の向上が直ちに考古学的痕跡として反映されるとは限らないからです。じっさい、研究者たちの間でも、ネアンデルタール人と現生人類との間に、前者の絶滅と後者の繁栄という結果の要因になるような認知能力の違いがあったのか否か、見解は分かれており、まだ共通見解は提示されていない、というのが現状でしょう。

 本論文は次に、後天的要因を強調する見解を検証していきます。後天的要因で重視されるのは人口で、これが文化革新に関わるのではないか、と主張されています。なかには、人口増加のみで「現代的行動」が出現し得る、と主張する見解もあるようですが、これにたいしては批判もあるようで、やはりまだ共通認識にはなっていないようです。

 最後に本論文は、認知能力について、革新・学習・遂行の各行為において必要な能力を分けて考える必要があるのではないか、と提言しています。どんな人間集団でも、革新的な道具を使いこなせる人は多数いるとしても、道具を革新できるように人はその一部だけではないだろうか、というわけです。この指摘は確かにその通りだと思います。現代人でも、道具の革新に必要な認知能力は、個人間で大きな違いがあると想定されるからです。


参考文献:
松本直子(2014B)「認知考古学から見た新人・旧人の学習」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人2─考古学からみた学習』(六一書房)P123-134

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