『天智と天武~新説・日本書紀~』第60話「定恵始末(後編)」

 『ビッグコミック』2015年3月25日号掲載分の感想です。前回は、鵲が定恵(真人)の死を大海人皇子(天武帝)・中大兄皇子(天智帝)・中臣鎌足(豊璋)に報告したところで終了しました。今回は巻頭カラーとなり、その報告を聞いた大海人皇子・中大兄皇子・中臣鎌足がまったく動揺せず、大海人皇子が鵲に退出を命じるところから始まります。鵲が退出すると、これを聞きたかったのだ、待ったかいがあった、と中大兄皇子は言います。もう用はないので帰る、今日はなかなか楽しかったぞ、と言って中大兄皇子は退出します。

 続いて退出しようとする鎌足に、まさか息子を中大兄皇子に差し出すとは、恐ろしい人になったものだ、いや、むしろ真の「忠臣手足」になったと称えるべきか、と大海人皇子が声をかけます。鎌足は一切動揺した様子を見せず、恐れ入ります、と言って退出します。おそらく鵲が定恵の死を大海人皇子・中大兄皇子・鎌足に報告したその夜、定恵を匿っていた隠れ里の者たちが、大海人皇子の命により定恵の遺体を鎌足の自邸に届けます。鎌足はその遺体が定恵だと確認しても、まったく表情を変えません。

 隠れ里の者たちが帰り、定恵と二人きりになった鎌足は、定恵と過ごした日々を回想し、涙を流します。この後、現在奈良県桜井市の多武峰にある談山神社の由来が説明文にて語られます。談山神社は鎌足が中大兄皇子と蘇我入鹿暗殺の談合をした因縁の場所であり、父の鎌足のために定恵が木造十三重塔を造立したのが始まりとされているが、諸本によれば定恵の方が先に没していて謎は多く、実は十三重塔は定恵供養のため密かに鎌足が建てたとは考えられないだろうか、というわけです。最後に、鎌足が談山神社の十三重塔に祈るところで、今回は終了です。


 率直に言って、今回はかなり内容が薄かったように思われ、間延びした感は否めません。定恵帰国編は今回で完結となり、第55話から計6話を要したことになりますが、5話でまとめられただろうし、そうした方がよかったのではないか、と思います。定恵の殺害について、大海人皇子・中大兄皇子・鎌足の外道な会話で鎌足の心境が語られるのかと予想していたら、三人の会話の場面はなく、意外にも鎌足が涙を流すだけで終わりました。

 鎌足は中大兄皇子の「忠臣手足」になることを選択し、愛息の定恵を見殺しにしたわけですから、その冷酷さ・決断力によりかなりの程度割り切っているだろうとはいえ、中大兄皇子にたいする感情には複雑なものがあるはずです。そうした鎌足の感情は今後の展開のなかで明かされていき、中大兄皇子と大海人皇子という異父兄弟の関係にも影響を及ぼしていく、ということなのでしょうか。大海人皇子が鎌足の娘二人(氷上娘・五百重娘)を妻としていることがどう描かれるのか、注目しているのですが、あるいは中大兄皇子の同父同母妹の間人皇女のように、氷上娘・五百重娘も作中では登場しないのかもしれません。

 予告は、「次号、ついに中大兄皇子が即位する決断を・・・!?」となっています。物語は新章に入り、しばらくは近江への遷都と中大兄皇子の即位(天智帝)が語られるのでしょう。今回は、鎌足が談山神社の十三重塔に祈る最後の場面を除いて、665年(西暦は厳密な換算ではなく、1年単位での換算です)12月23日の出来事が描かれたでしょうから、近江への遷都は1年数ヶ月後、中大兄皇子の即位は2年弱後(もしくは1年数ヶ月後)となります。

 通説にしたがって、まだ中大兄皇子は即位していないという設定が採用されています。作中では、中大兄皇子の母である先帝(斉明帝)の喪はとっくに明けており(第40話)、即位の障害はないはずなのですが、中大兄皇子が即位しない理由はまだ作中では語られていません。朝鮮半島への出陣で多忙なので即位が延期され、白村江の戦いでの惨敗後は、国内の支配・防衛体制の整備で多忙だということと、自ら積極的に主導した朝鮮半島への出陣で惨敗したため、政治的威信の回復に努める必要があったことから、中大兄皇子の即位は延期されていた、ということなのでしょうか。

 中大兄皇子の即位が延期された理由が今後語られるのか、分かりませんが、中大兄皇子と大海人皇子との心理戦が新たな展開を迎えて、物語が盛り上がりそうなので楽しみです。近江への遷都の前に、中大兄皇子の娘で大海人皇子の妻である大田皇女が亡くなっています。予告を読むと、中大兄皇子は自身の即位を前提として近江への遷都を決断しそうで、次回はまだ近江への遷都までは語られないようですから、大田皇女の死が語られる余地はあるかな、と思います。

 ただ、幼少時に母方祖父の蘇我倉山田石川麻呂の仇討を大海人皇子に頼んでいた頃と比較すると、大海人皇子との結婚後、大田皇女はあまり目立っていませんので、大田皇女の死は省略されるか、後に説明文もしくは誰かの会話にて語られるだけになりそうな気もします。大海人皇子と大田皇女との間の息子の大津皇子が、伯父で母方祖父でもある中大兄皇子に可愛がられたという話も省略されるのでしょうか。分かりやすさを意図してなのか、間人皇女も登場しないくらいなので、大海人皇子と中大兄皇子の子供たちで詳しく描かれるのは大友皇子とその妻の十市皇女くらいであり、大田皇女もその妹の鸕野讚良皇女(持統天皇)も、作中ではそれほど重要人物というわけではないのかもしれません。

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