髙倉純「新大陸への新人の拡散―新人の拡散過程に関する比較考古学的アプローチ―」

 西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人3─ヒトと文化の交替劇』所収の論文です(関連記事)。本論文はアメリカ大陸への現生人類(Homo sapiens)の移住を考古学から検証しています。おもに遺伝学の分野の研究成果から、現生人類のアメリカ大陸への拡散に関しては、支持を集めつつある有力な仮説が提示されています。それはベーリンジア(ベーリング陸橋)潜伏(隔離)モデルとも言うべきものであり、ユーラシア北東部(シベリア)からベーリンジアに3万年前頃に進出した現生人類が、16000年前頃までそこに留まった後、アメリカ大陸へと拡散していった、とする仮説です。

 本論文は、そうした遺伝学などの研究成果を参照しつつ、ベーリンジアとアメリカ大陸の考古記録を検証しています。本論文が指摘しているように、アメリカ大陸への現生人類の拡散には、アフリカやユーラシアには見られない特徴があります。それは、アメリカ大陸へと拡散した人類は現生人類のみである、ということです。また、拡散経路やその時期についても、ユーラシアほど候補が多いわけではなく、その意味でユーラシアと比較して議論が複雑ではない、と言えるでしょう。

 本論文は、拡散時におけるベーリンジアをまたいでのシベリアからアラスカには、技術形式学的に共通した石器群が残されている、との見解を提示し、現生人類のシベリアからベーリンジアへの拡散という通説を支持しています。しかし、現生人類はアラスカから南下してアメリカ大陸へと拡散していったと考えられるのに、アラスカとアラスカ以南とでは、石器の形態や製作技術に強い共通性を確認できないことが問題になる、と本論文は指摘しています。

 この問題にたいして本論文は、アラスカとアラスカ以南とで石器に強い共通性が見られないのは、異なる環境に適応していったからではないか、との見解を提示しています。アラスカとアラスカ以南とでは、両面調整石器技術のように広範に共通する石器技術もあることから、共通の技術的基盤を有する集団が、拡散先の多様な自然環境に応じて生業や行動体系を変えていった結果が、単一系統には見えない多様な石器伝統を生み出していったのではないか、というわけです。

 本論文はここからさらに、石器製作技術の基盤となる概念は広く共有されていたうえで、拡散先の環境に応じて、一部の石器形態や組成に変異が生じていったのではないか、との見解を提示しています。この問題は、現生人類の拡散を検証するさいに重要になるでしょう。現生人類の拡散は環境への柔軟な対応が可能としたものでしょうから、拡散元の石器伝統と、拡散先のそれとに相違がある場合は珍しくないだろう、と思います。ただ、そう考えると、現生人類の拡散を考古学的に復元することの困難さは増すことになりそうです。


参考文献:
髙倉純(2015)「新大陸への新人の拡散―新人の拡散過程に関する比較考古学的アプローチ―」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人3─ヒトと文化の交替劇』(六一書房)P65-80

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