小林豊「中期旧石器時代から後期旧石器時代への文化の移行パターンを左右する人口学的要因について」

 西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人3─ヒトと文化の交替劇』所収の論文です(関連記事)。本論文は、数理モデルの研究成果に基づき、「旧人」と「新人」の交替および文化の移行パターンを検証しています。本論文が検証しているのはあくまでも数理モデルであり、具体的な地域・文化の継承パターンを取り上げているわけではありません。正直なところ、私の見識ではじゅうぶんに理解できていなさそうですが、理解した範囲で以下に簡潔にまとめてみます。

 「旧人」の地域に「新人」が侵入してくる過程で、文化がどのように継承されていくのか、ということを本論文は検証しています。ここでの文化の継承とは、二つの異なる文化要素である必要はなく、ある文化要素の存在と不在という形でもかまわない、と設定されています。実際には、世界中で「新人」が「旧人」を駆逐した、との見解が通説になっているので、「新人」が「旧人」の地域に侵入してきて駆逐したさいに、両者の文化要素がどのように継承され、それはどのような条件で異なってくるのか、ということを本論文は検証しています。

 本論文は、文化要素の継承を、親からの継承(直接伝達)と同集団内の大人からの継承(斜交伝達)とに区分して検証しています。「新人」と「旧人」との交雑の可能性は高いと考えられていますので、「旧人」の文化は斜交伝達のみならず直接伝達でも継承された可能性があります。この文化要素が淘汰の観点からは中立的だとすると、最終的には「新人」と「旧人」のどちらかの文化要素のみで固定してしまいます。ただ、そのパターンには2種類あり、短期間にどちらかの文化要素で固定してしまう場合と、ある程度の期間両方の文化要素が混在した後、どちらか一方にゆっくりと固定していく場合とがあります。

 これは、侵入者たる「新人」の初期の人口や、「新人」が「旧人」の文化要素をどの程度好んで継承するのか、などといった要因により変わって代わってきます。本論文は、このモデルでは「旧人」の文化継承が起きやすいということを指摘し、最終的には「新人」の文化要素のみで固定するとしても、それまでの期間が長いのだとしたら、「旧人」の文化要素が継承されなかったと判断してよいのだろうか、と問題提起しています。本論文は、ユーラシア西部と比較すると中部旧石器時代~上部旧石器時代にかけての連続性が高いとされるユーラシア東部では、「新人」がよりゆっくりと拡大していったのかもしれない、との可能性を提示しています。ユーラシアの東西の「交替劇」の様相の違いを検証するうえで、本論文の提示した数理モデルは参考になりそうです。


参考文献:
小林豊(2015)「中期旧石器時代から後期旧石器時代への文化の移行パターンを左右する人口学的要因について」西秋良宏編『ホモ・サピエンスと旧人3─ヒトと文化の交替劇』(六一書房)P165-175

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