馬鹿洞人の大腿骨

 これは12月20日分の記事として掲載しておきます。中華人民共和国雲南省の馬鹿洞(Maludong)で発見されたホモ属の大腿骨に関する研究(Curnoe et al., 2016)が報道されました。AFPでも報道されています。馬鹿洞人に関しては、未知のホモ属系統との見解が提示されていますが(関連記事)、放射性炭素年代測定法による較正年代では14310±340~13590±160年前となることもあって、現生人類(Homo sapiens)の多様性を過小評価して馬鹿洞人の祖先的特徴を過大評価しているのではないか、とも指摘されています(関連記事)。

 この研究は馬鹿洞人の大腿骨を分析し、更新世のホモ属化石と比較しています。対象となったのは、現生人類(解剖学的現代人)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)などの中部更新世以降に出現したホモ属と、ハビリス(Homo habilis)や初期エレクトス(Homo erectus)といった下部更新世に出現したホモ属です。馬鹿洞人の大腿骨には、小さいこと、骨幹が狭いこと、骨皮質がたいへん薄いこと、大腿骨頚部が長いことなどといった特徴が見られ、ハビリスや初期エレクトスとの類似性が指摘されています。馬鹿洞人の推定体重は50kgで、更新世の現生人類ではないホモ属としては小柄だ、とも指摘されています。

 馬鹿洞人の大腿骨を分析した研究者たちは、馬鹿洞人の大腿骨が頭蓋骨以上に祖先的特徴の強いことに驚き、馬鹿洞人は現生人類の系統と古い時代に分岐したホモ属の系統が更新世末期まで生存していたことを示している、と主張しています。この研究は、現生人類ではないホモ属が更新世末期まで生存し得た事例として、インドネシア領フローレス島で発見されたフロレシエンシス(Homo floresiensis)を挙げており、その意味では、更新世末期の馬鹿洞人が現生人類ではない系統のホモ属であっても不思議ではない、と言えるでしょう。ただ、この研究は、更新世の東アジアの人骨の不足から、馬鹿洞人の分類は現時点では困難である、とも指摘しています。

 馬鹿洞人が更新世末期まで存続し得た理由は、馬鹿洞周辺はチベット高原の隆起により生じた特有の環境と気候の結果、古代型ホモ属にとって待避所となったからではないか、と推測されています。また、馬鹿洞に近い広西チワン族自治区の隆林洞窟(Longlin Cave)で発見された、較正年代で11510±255年前の人骨は、現生人類と馬鹿洞人の系統となる未知の古代型ホモ属との交雑を反映しているかもしれず、そうした交雑は完新世初期にも起きていた可能性がある、とも指摘されています。人類の進化は複雑であり、ネアンデルタール人が4万年前頃までに絶滅した後も、地球上には現生人類ではない複数の系統の人類が存続していた可能性が高そうです。


参考文献:
Curnoe D, Ji X, Liu W, Bao Z, Taçon PSC, Ren L (2015) A Hominin Femur with Archaic Affinities from the Late Pleistocene of Southwest China. PLoS ONE 10(12): e0143332.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0143332

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