オーストラリア先住民のゲノム史(追記有)

 これは9月23日分の記事として掲載しておきます。オーストラリア先住民(アボリジニ)のゲノム史に関する研究(Malaspinas et al., 2016)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。これまでのオーストラリア先住民のゲノム史は3人のゲノム解析結果に依拠していましたが、この研究は、現代の83人のオーストラリア先住民とニューギニアの25人のパプア人の高精度のゲノム配列を作成し、他地域の現代人やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のデニソワ人(Denisovan)という現生人類ではない系統の人類のゲノムとも比較しています。なお、この研究が対象としたのは、パマ-ニュンガン語族(Pama–Nyungan languages)話者のオーストラリア先住民です。

 この研究は、まず現代のオーストラリア先住民およびパプア人と現代の他の非アフリカ系集団との分岐年代を72000~51000年前頃と推定しています。この推定年代は、現生人類の出アフリカとも関わってきます。現生人類の出アフリカについては、回数・年代・経路をめぐってさまざまな仮説が提示されています(関連記事)。そうした諸見解のなかには、オーストラリア先住民やパプア人の祖先集団は他地域の非アフリカ系集団よりも前にアフリカ系集団と分岐し(ヨーロッパ系や東アジア系などの祖先集団は、オーストラリア先住民やパプア人の祖先集団がアフリカ系と分岐した後に、アフリカ系と分岐した、と想定されます)、より早く出アフリカを果たした、と想定するものもあります。しかしこの研究は、オーストラリア先住民およびパプア人と他の非アフリカ系集団との72000~51000年前頃という推定分岐年代と、ネアンデルタール人やデニソワ人といった現生人類ではない系統のホモ属との交雑から、その可能性は低いと推測し、現生人類による単一の出アフリカを想定しています。

 オーストラリア先住民の系統とパプア人の系統との分岐は、ニューギニア島とオーストラリア大陸が現在のように分離するずっと前の40000~25000年前頃と推定されています。オーストラリア先住民の祖先集団は32000~10000年前頃に分岐し始め、現在のオーストラリア先住民集団が形成されます。オーストラリアは、たとえば北アメリカ大陸やシベリアなどと比較すると、現生人類が長く継続的に居住してきた地域となります。そのため、オーストラリア先住民の遺伝的多様性は、北アメリカ大陸やシベリアの先住民集団よりも高い、と指摘されています。また完新世になると、オーストラリア北東の地域集団が拡大し、オーストラリアの他地域への遺伝子流動が見られます。これは、言語学的に推定されるパマ-ニュンガン語の拡大と一致する、と指摘されています。

 この研究は、オーストラリア先住民のゲノムをこれまでよりもずっと大規模に解析したので、今後の研究の進展に大きく寄与することになるでしょう。その意味で、注目される研究だと思います。オーストラリアというか、サフルランドへの現生人類の進出は、現生人類の出アフリカをめぐる議論において重要な意味を有するので、その意味でも、この研究は注目されます。この研究では、現生人類の(成功した)出アフリカは1回と想定されていますが、この問題については、今後も議論が続きそうです。


参考文献:
Malaspinas AS. et al.(2016): A genomic history of Aboriginal Australia. Nature, 538, 7624, 207–214.
http://dx.doi.org/10.1038/nature18299


追記(2016年10月13日)
 論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



集団遺伝学:オーストラリア・アボリジニのゲノム史

Cover Story:古代の移動を記憶するDNA:787例のゲノム塩基配列によって明らかになった初期人類の分散

 今週号では3つの国際共同研究チームが、地理的に異なる多様な集団に属する個人から得られた計787例の高品質ゲノムについて報告している。D Reichたちは、142集団に由来する300人の全ゲノム塩基配列の解析を行い、非アフリカ人はアフリカ人との分岐後に、アフリカ人に比べて変異蓄積速度が加速したと推定されること、またオーストラリア先住民、ニューギニア人、アンダマン諸島人の実質的な祖先は、現生人類の初期の分散に由来せず、他の非アフリカ人と同じ起源を持つと考えられることを明らかにしている。E Willerslevたちは、オーストラリアの先住民であるアボリジニ83人およびニューギニア島の先住民であるパプア高地人25人の全ゲノム塩基配列データを得て、オーストラリア・アボリジニとパプア人は、単一の出アフリカ分散事象の後、7万2000~5万1000年前にユーラシア人集団から分岐したと推定している。一方、L Paganiたちは、世界各地の125の集団に属する483人から得た高カバー率のヒトゲノムデータセットを報告しており、その中には125の集団に由来する379例の新規ゲノムが含まれている。Paganiたちの分析結果は、全ての非アフリカ人集団は、その遺伝的祖先の大部分が最近起こった単一の出アフリカ分散事象に由来するというモデルを裏付けているが、パプア人にはそれ以前の人類の広がりの痕跡が見られることを示している。表紙画はMarkus Kasemaaによる「A genetic improvisation on a world map」。

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